プロローグ
「おい、クズオ。君は本当に非協力的なやつだな」
この世界に来る前のことだった。
放課後、家に帰ろうとする俺を、クラスの陽キャ代表である長谷川遥人が呼び止めた。
クズオは俺のあだ名だ。蔑称と言ってもいい。葛原樹という俺の名前から取られている。
「俺が任された小道具は一通り用意しておいたはずが」
「みんな、自主的に放課後残って他の班手伝ったりして、いいものが出来るように頑張ってるよ。なのに君は自分の分が終わったからと、毎日残らずにさっさと帰っていく。恥ずかしくないのか? みんなに申し訳ないと思わないのか?」
本当に面倒だ。
強制参加の文化祭の出し物で、演劇をやるというので俺も参加させられていた。それだけでも嫌なのに、今はこうして無償の奉仕まで求められているのだから。
「そういうお前は、別に誰のことも手伝ってないようだけど」
「僕は役者だから稽古で忙しいんだよ。君と一緒にしないでくれ」
「ほんとよ。ハルトくんをアンタなんかと一緒にしないで」
「全然、空気読めてないよね。みんな舞台を成功させようと、チョー頑張ってるのに」
「ほんと自己中なやつだよな」
いつの間にか陽キャグループ達も非難めいた視線を俺に向けていた。
そこまで言われて誰が協力なんてすると思うのか。こういうのが将来、社会に出て傍若無人に振る舞うのかと思うと、俺は泣けてくる。
「いいか。言われた仕事しか出来ないような人間は、三流のクズなんだよ。覚えとけ」
まるで名言のつもりなのか。ハセガワくんは、どこかで聞いたことのあるセリフを堂々たるポーズで言い放った。
「本当にその通りだと思う。社会に出たら参考にさせてもらうよ」
社会でならともかく、ここは学校だ。給料も出なければ評価だってされない。頑張るだけ無駄だ。
もちろんこの文化祭をいい思い出にしようと頑張る人間を否定するわけじゃないが、俺にはそういった希望なんてないのだ。
俺は罵声を飛ばしてくるクラスメイト達に背を向けて、さっさと家に帰るのであった。
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