第9話 クロウへの待遇改善案。
「じゃ、ユミは装備品だけゴーレムに着せてくれるか?」
「装備品ですか? 代わりの物は?」
「こっちに体型に合った物があるから、交換してくれたらいいよ」
「い、いつの間に・・・(というか、胸? 乳首まではなくても同じ形状よね?)」
その後のクロウは二人の影武者として用意したゴーレムの段取りを開始した。
ユミにはサヤコ同様の形がクッキリした防具を与え装備品は専用弓を用意した。
矢に関しては通常矢でも利用可能だったが鑑定した結果・・・魔力矢までも使える代物だった為、詳細は伏せたクロウだった。
クロウは防具の前で右往左往するユミを放置し、ゴーレムを触っていたサヤコへと向き直る。
「サヤコの方は捜索隊の先に座らせて待機だな。あとは勝手に拾っていくだろうから。まぁ服に関しては直後に剥くけどいいよな? 元々が素っ裸だったし」
サヤコはゴーレムの尻を撫でつつ自身との違いを把握していた。
「う、うん。少し複雑だけど・・・」
クロウは若干顔が赤くなっているゴーレムに視線を向けながら、サヤコとの違いを示す。
「まぁ部分的に変化は与えてるから、気にするな」
「部分的?」
「奴が欲情しやすいよう胸だけ盛ってみた。大きさ的には2カップは上になるか?」
サヤコは真剣な顔で事実を告げられ、ゴーレムの背後に移動した。
「F!? え、えっと・・・少し揉んでいい?」
それは将来大きくなるであろう自身の未来を求める姿だった。
クロウは「揉む」と聞き恥じらいを魅せるゴーレムを眺めながら注意した。
「反応するから程ほどにな?」
サヤコは困り顔のクロウを見て、盛大に胸を掴む。
「そこまでの物なの!?」
ゴーレムは掴まれた衝撃で顔が真っ赤に染まり、ジーンズにシミを作った。
クロウはそれを見て、手を翳しつつ蒸発させる。
サヤコはクロウの視線の先を見て、ゴーレムと同様の反応を示した。
クロウはサヤコの顔を見ずに片付けを行い、ユミがゴーレムに装備品を付けながら、苦笑している姿を眺める。
「一応、奴が開発を行い易いよう用意したからな。本物と思ったら精巧に作られたダッ◯ワイフでした〜! って、生の女の身体を求める野郎にとっては屈辱的だしな?」
「確かに屈辱的でしょうね? 奴は自身の身体に自信を持ってるみたいだし。だからサヤコ? 私達の初めてが奴によって散らされる事が無くなっただけ儲けものじゃない? まぁ影武者であるこの子達は被害に遭うけどね?」
「そうね。そこは割り切るしかないか・・・」
その間のクロウは捜索隊の場所を魔法だけで探し出し、先んじてサヤコのゴーレムを勇者ケンイチの目前へと素っ裸で転送した。この場にはゴーレムの服と下着だけが残り、サヤコは一瞬の事過ぎてポカーンとなった。それはユミとて同じであり・・・
「も、もしかして・・・」
「今のが、ユミの?」
クロウは二人の疑問に答える事なく、簡単に明かすだけとした。
「おう。詮索はしてくれるなよ? 一応、俺だけのジョブに付随したスキルらしいから」
それを聞いたサヤコは怖ず怖ずとクロウに問い掛ける。
「と、ということはゴーレムを用意したのも?」
クロウは困った顔のままサヤコへと応じた。
「そうなるかな? お前の刀もユミの弓も同じだが」
サヤコは自身の防具や野太刀に触れながら、ユミと目配せし問い掛ける。
「なんというか・・・クロウが勇者なんじゃないかって思えるんだけど気のせい?」
クロウは問い掛けに対して、違いを示すだけに留めた。
「気のせいだろ? 勇者とはこの世界に呼ばれた勇者のジョブを与えられた者の事を言うんだ。俺みたいな最底辺の運び屋は最初から対象外だって・・・それはそうと、拾ったみたいだな」
そして、ゴーレムの行方を二人に示した。
右手に茶色い石を握り締めながら。
すると今度はユミが疑問気に問い掛ける。
「拾った? 奴があの子を?」
「ああ。この・・・魔石と言えばいいか? これはゴーレムの目に収めた石の片割れなんだが、目を通じてあちらの光景が浮かぶんだよ」
「目? もしかしてカメラ的な?」
「そうなるか? 一応、赤い方もあるぞ?」
「こっちは私の? あ、この部屋が映ってる!?」
ユミは自身と瓜二つのゴーレムの視界を眺めて喜んだ。クロウはユミの反応を余所に真面目な顔に戻りつつ、ユミを見て呆れた顔をしたサヤコに伝えた。
「でだ、奴は案の定・・・気持ち悪い笑顔で『見つけましたよ先輩』って言ってるわ。視線は胸とか色々重点的に見て回ってるが」
サヤコはクロウから茶色い魔石を見せてもらい、中に映る奴の顔を見て嫌悪を浮かべた。
「キモっ!?」
クロウはサヤコに同意を示しながら、楽しそうなユミに向き直り、使い方を説明する。
「ま、確かにキモいわな。それと、そろそろ合流が必要だから、以降はユミ自身が自分の指示をそれで飛ばしてくれ。石を持った状態で念じると思った事を言葉として発するし、常時監視する事も可能だ。普段はゴーレム自身が考えて行動するが、優先順位は魔石が上だな」
「!?」『凄い!?』
「ホントだ!! しかも私の声と同じだ」
「まぁ情事となる際は持たない方がいいかもな? それ以降は自立させた方がいいから」
『確かにそうね・・・私も奴の物は見たくないし』
「ある程度して奴が飽きて何かしたら防御機能が働くから、その時点で捕獲完了となる。通知はその石を通じて発するから、最後は捕獲した奴を拾うだけだな?」
『至れり尽くせりだぁ〜』
クロウは苦笑しつつもユミの満足声を聞き自身の考えを述べる。
「ま、嫌な者はサッサと処理するに限る。この国にとっても世界にとってもな?」
サヤコはそんなユミ本人に向き直り困った顔で問い掛けた。
「完全にお気に入りになってない?」
『そうともいう?』
ユミは最後までゴーレムで遊び、楽しそうな表情のまま勇者達に合流させた。
§
その後の三人は客間で寛ぎながら先々を考える。
「さて、ユミの影武者が合流したからしばらくは放置でいいな」
「そうね。ところで本人はどうするの?」
「ユミはどうしたい? 俺とサヤコはこのまま王都に戻るが?」
「サヤコも戻るの?」
「うん。家名を棄てて一介の冒険者になったから」
「それって、公爵閣下は?」
「知らないと思う。というか私を裸に剥いて放り出したのだもの。今更恩義なんてないわ」
「確かに・・・言われてみればそうね。姫殿下ですら放り出されてるし、私もゴーレムが代わりになってなかったら、何時狙われてたか判らないし。貞操帯があっても剣で一気に破るとか平然としそうじゃない?」
「うん。確実に遣りかねないわね?」
「だったら、私もゴトウ姓を棄てるわ。どうせ、あちらの世界には帰れないし」
「なら決まりだな。しばらくは安宿に泊まる事になるが、稼ぎ次第では拠点を設ける事も可能になるだろ」
結果、ユミも冒険者となる事を決めたらしい。
クロウはサヤコに目配せしつつ新しい外套を創り出し、銅貨と共にユミに手渡した。
ユミはきょとんとしつつも外套を受け取り、サヤコが登録手順の説明を始める。
パーティーリーダーはサヤコだ。クロウは最初から最後まで荷物持ちというお荷物だ。
実際にはサヤコ達の方がお荷物だが世間的に荷物扱いを受けるのはクロウの方である。
クロウは説明を受けているユミを眺めながら、とある魔道具を用意した。
(赤毛と茶毛は目立つからな。それは俺も同じだが・・・)
それは見た目を偽る魔道具だった。パッと見は腕時計に見える腕輪だった。
クロウは自身にも同じような腕輪を身に付け時刻を確認する。
(今が夜の八時か。結構長い時間居たんだな。幸い地球時間と同じ扱いなのが救いか?)
そのうえで毛色と瞳の色を青銅色へと変え・・・
「クロウの髪と眉毛が変わった!? 瞳も睫毛も!?」
サヤコにバッチリ見られてしまったようだ。
ユミも同じように驚きを示す。
「印象がガラリと変わったかも・・・」
クロウは見られていた事で羞恥に塗れ、元に戻しつつ同じような腕輪を二人に手渡す。
「今のは試験だ。一応、二人の腕に収まる腕輪を用意したんで、これを付ければ見た目を偽る事も可能だろ? 二人は目立つからな? ユミなんてパレードに出てたんだ。身バレを防ぐにはうってつけだろ?」
「なるほど。え? 腕時計? 夜八時過ぎ!?」
「ホントだ!? 凄いよコレ!?」
「まぁ腕輪式とした方が早かったからな。こいつを動かす動力は身体の周囲に発散されてる魔力だから電池は要らないぞ? 見た目を偽るのも魔力に偽装結界を張る感じだな」
「なんか凄い高度な事をされてる気がする」
「ま、一応でも工業高校を卒業してるから」
「なるほど〜って、それだけじゃないでしょ!?」
「サヤコ、落ち着けって。とりあえず、ユミには見た目を偽ってもらって、一度外に出るぞ? ユミだけに隠密を使えば周囲から感づかれる事も無いからな」
「「至れり尽くせりだぁ〜」」
こうして、クロウの発案の元、ユミも無事に青髪の弓使いとして登録を終えた。
パーティーも他者が立候補する前にサヤコの元へと登録し三人は安宿へと戻っていった。
なお、安宿の部屋割りはクロウが一部屋を追加で借り、クロウとサヤコの部屋をユミとサヤコの部屋としたようだ。代わりにサヤコからは不満をグチグチとぶつけられたが、たちまちはそれで我慢して貰ったクロウだった。
§
クロウは自身でも水浴びして一息入れる。
隣の部屋では新しく用意した大きな風呂桶に湯を張り二人に入って貰っている。
念の為、ボディソープとシャンプーを思い浮かべるとそれが出来てしまった為、二人の喜びようは半端ない物となった。ただ、壁が薄いためキャッキャと騒ぐ声がクロウの部屋まで響くが、それはご愛嬌という事で受け流すクロウだった。
(今日は安心して眠れる〜。っとその前に・・・サヤコの出汁はどうすっか? 奴の身体の上にカキ氷で降らせるか? サヤコの体液が好きそうだし。出汁だけに・・・寒いな? まぁ寒くなるのは奴だけでいいか・・・)
そして、帰りしな処理する予定だった凍った出汁入りの盥を取り出し、中身の氷だけを勇者の上に浮かせ、気持ち良さげに全裸で眠る勇者の身体中に風魔法で刻んだ氷を降らせてやった。
すると、たちどころに勇者の身体は青白くなり、寒々しい格好で縮こまった。
物量としては全身が隠れる程の氷の山が出来たため、明日には風邪を引いて辛い目に遭うこと請け合いな話であった。
「この金盥も頭に落としておくか・・・処分するのも面倒だし」
最後は言葉通りの結果を招き、勇者は眠りながら気絶したようだ。高さ的には天蓋付きベッドの天井付近から角が頭に当たるよう落としたため、部分的に頭蓋が凹むだろうが知った事ではないと思うクロウだった。前世で自身が遣られた事と比べれば児戯にも等しい報復なのだから。
§
それから数ヶ月が経った。
クロウは相変わらず運び屋としての仕事に邁進し、サヤコとユミは初心の冒険者として依頼を熟していたようだ。三人の拠点は未だに無いが、安宿を三部屋借りるのではなく安宿の一部屋を三人で借り一種の同居状態となったようだ。
ちなみに室内にもトイレがある部屋だったのだが、女性二人からの不興を受け、クロウは嘗ての仕事を思い出しつつ、和式に見えるトイレの上に置き型の陶器を設置し、温風乾燥式の温水洗浄便座の部品を創り出し、組み立てる形で設置したようだ。
これを動かす魔力も自身が発散する魔力であり、水温と温風の温度を自身がイメージする温度で調整する事の出来る物として用意していた。ただ例外的なのはノズルを出す部分を手動とし右手側にある回転レバーを回して位置決めを行う形式としたようである。
温風乾燥も清浄魔法陣を組み合わせた事で表面に残る事が無い代物となった。
その結果・・・、
『気持ちいぃぃぃぃぃい〜』
というサヤコのあられもない・・・否、色気の欠片もない声を聞かされ、クロウは苦笑していた。ユミも困った顔のままトイレのドアを叩き「私と早く代わりなさい!」と怒っていたのはどっちもどっちと思ったクロウだった。一応、用足し用の音消し機能として防諜結界を周囲に張っているため、声は漏れるが水音は漏れない物となった。
すると、ようやくだが魔石に変化を報せる通知が入る。
クロウはトイレ騒ぎを起こす二人を眺めながら魔石の記録を垣間見てゲッソリした。
「お? 長持ちした方か? 結果は・・・うわぁ〜。ひでぇ事しやがる」
サヤコはユミと渋々交代しながらクロウの声を聞き、怪訝になりつつ問い掛ける。
「どうしたの?」
クロウはサヤコの問い掛けに対し、嫌そうな顔で応じた。
「聞きたいか?」
サヤコは一瞬だけきょとんとしたが、表情から察してしまい再度問う。
「え? なに?」
クロウは逡巡したのち、意を決したように打ち明けた。
「・・・サヤコの影武者な?」
「ゴクリ」
「飽きたからって、胸やら尻の肉を抉り取って殺してたぞ? ユミの方も同じだ」
「!? そ、そ、それホント!?」
「ああ。罪状的な物はこちらの羊皮紙に転記してある。勇者と同等の者は王族では裁けないが、同等だった者なら裁く事が可能だからな。ユミが戻り次第、判断を仰ごうか?」
「私的には黒だけどね?」
「まぁ二人を殺したと同時に、ユミのゴーレムが縄に変化して奴を捕縛してるし、サヤコのゴーレムも木箱に変化してるから、そのまま木箱毎・・・確保済みだがな?」
すると、クロウの説明を聞いた二人は声を揃えて驚いた。
ユミはトイレから出てくる際に聞いてしまったようで扉の前から叫び、サヤコはクロウの目の前で叫んでいた。
「「そんな機能があったの!?」」
クロウは驚く二人を余所に出掛ける用意を始める。
「最初から捕縛用って言ってただろ? 稼働時間は想定以上に長引いたが結果通りに動いたから、今は箱の中で藻掻いてるよ。装備を付けた状態で愉悦に浸りながら切り刻んでいたからな。ある意味でシリアルキラーみたいな者か?」
二人もクロウの意図に気づき、装備を整えだした。
「先輩である私達を元からそういう扱いで」
「願ってても不思議ではないわね? 勇者というより魔族だわ」
クロウは帯刀しつつ外套を羽織る。
「ま、魔族も割合マトモだから一概には言えないがな?」
「知ってるの?」
「仕事柄どっちの仕事も受けたからな? 人族よりは魔族がマシって思えるレベルで」
二人も防具を取り付け、外套を羽織る。
そして武具を背負いながらフードを被る。
「なんでもありね?」
「流石は私のクロウね!」
「準備出来たな? とりあえずあちらに向かって罪状と共に姫殿下に拝謁しようか?」
「そうね。一応はそっちにも確認しないとダメだろうし」
「現場責任者は後にも先にも姫殿下だものね?」
「ところで木箱は?」
「ん? 領主館の上空に浮かせてある。一応結界で覆ってるから誰にも見えないがな」
「逃げ道、塞いでる・・・」
「流石だわ」
こうして三人は王都支部に寄りつつ、リダルフォス侯爵領の領都へと向かう事を告げた。
これは一応でも伝えていないと面倒事を招くからだ。それは、Aランク冒険者であり運び屋として重用されているクロウは特に、移動制限が付き纏うのだから。
§
それから二日後。
荷車が無いため三人の移動は軽やかだった。移動速度も向上し、クロウが身体強化で二人を両肩に背負い、駿足スキルと隠密スキルを併用して長距離を移動した事も要因だった。
サヤコは兎も角、ユミもクロウから尻を触られる事になったが・・・寧ろ気にしてないという素振りで、クロウからすればサヤコが二人に増えた様に感じたらしい。
そのうえで、クロウが保管スキルの一端を二人にだけ明かし、食材やら何やらを持って貰った事で料理以外の手間が減り、楽が出来たそうだ。
しかも野宿用の大型テントを用意し、魔物避けの結界と夜盗避けの結界を付与した為、寝泊まりにおいての危険性が減った事で気持ちの上でも晴れやかだったようだ。
風呂やトイレも当然、内部に存在し、トイレに至っては内部で穴を掘り専用陶器と便座を設置して、気にせず用が足せるとして女性二人から大満足の声を戴いたクロウであった。
ともあれ、三人は夕刻前に領都へと入り、クロウはその足で二人に提案する。
「じゃ、一先ず領主館へ伺うか?」
「でも、私達が行ってお目通り願えるかな?」
「本来の姿で行けば問題無いでしょ? 奴も遺体自体を隠してたみたいだし」
「ああ。一人で領主館脇の森に連れ出していたから、誰も気づいてなかったぞ?」
「ならその辺から出る素振りで向かえばいいね?」
「そうね。被害者として出向くならそれがベストでしょうね」
二人はクロウの提案を受け入れた為、クロウは運び屋兼護衛として自身の考えを明かす。
「俺は隠密で付いていくから二人が事情を打ち明けるといい」
それを聞いた二人はきょとんとなり、目配せし、揃って否定の声に出す。
「「それはダメ!!」」
「どういう事だ?」
すると、ユミが困った顔のまま意図を明かす。
「今回はクロウが助けた風を演じればいいの」
「そうそう。そうしないと改善する物でもないと思うよ? 今回は姫殿下が証人となるのだから」
それは二人にとっての願いだったのだろう。運び屋の本当の姿を示す為に。
クロウは隠せと言われてきた為、本音では改善を望んで無かった。
だが、二人の意思は固く受け入れられないと察し、折れたようだ。
「ま、なるようにしかならないか・・・」
こうして、三人は領主館脇の森までクロウの隠密スキルで向かい、襲ったであろう場所に残る装備品を装着しつつ、自身の血糊に似た物を塗りながら、領主館へと戻っていった。
クロウが治癒魔法で治したという体裁を携えて。
《あとがき》
にゃ〜ん・・・。