第8話 クロウは痴女に遭う。
「すみません。こちらの書類を王都支部に送って戴けますか?」
ギルド支部に着いたクロウは外套のフードを外しながら受付嬢へと願い出る。
それはサヤコの願いを聞き入れた事による未達成の報せだった。普段なら滅多な事では未達成通知を送らないクロウだった事で受付嬢は怪訝となりつつ問い掛けた。
「未達成通知ですか?」
「ええ。依頼主には悪いのですが今回の荷物は少々特殊でして。詳しくは調べられたら判ると思いますが、受取手に対して拒否を示されましたから」
「受取手を拒否? 失礼ですが中身を拝見させて戴いてもよろしいですか?」
「構いませんよ。それ相応の内容が記されておりますから覚悟だけはしておいて下さい」
「承知しました。では、失礼して。 !? た、確かにこれは。はい、み、未達成に関しては、こちらで処理しておきましょう」
「ありがとうございます」
受付嬢はクロウの用意した書類を読み込み徐々に顔面蒼白へと変じていく。事情は異世界から始まる事だが、荷物とされた相手が勇者の護衛を拒否したとするのだから、この場で突っぱねる事は不可能だと察したようだ。
そして肝心の送り先もメランコ公爵という事で特に注意が必要な事案だと理解を示しクロウの願い通りの対処を行う受付嬢だった。
ひとまずの処理を済ませたクロウはサヤコに対し登録料とする銅貨五枚を手渡す。
説明はあえて日本語で行い、周囲に察知されないよう配慮した。
「登録料だ。手続きは登録する旨を伝えて自身の・・・名だけな? 姓は言うなよ? そのうえでジョブも伝える事。基本は自己申告制だから、余計な事を言わなければ問題なく書類が用意される。あとは魔力測定の水晶に手を翳して完了となる。前にも言った通り、最初はEランクだから注意しろよ」
サヤコも日本語で感謝を示し、銅貨五枚を受け取りながら受付嬢へと意思を示す。
「うん。ありがとう」
この登録料も平民なら銅貨五枚、貴族なら銀貨五枚、王族なら金貨五枚という風に最初から自己申告で身分を示す仕組みとなっている。
今回に限って言えばサヤコも身分的には銀貨五枚の方が妥当なのだがヒメジ姓を棄てて、ただのサヤコとして生きるという意思を示した為、クロウが用意した貨幣は銅貨だったのだ。
そうして、サヤコの登録作業は順当に進み、最後の魔力測定後にEランクのギルドカードが発行された。一応、ジョブに関しては特秘扱いのため、受付嬢の判断で防音の魔法が行使され周囲に声が漏れ出る心配はない。
ただ、得物を見るだけでどのジョブなのかは理解出来るのだが、サヤコの得物を見た周囲の冒険者達は棒術使いと勘違いしたようで、誰一人として声を掛けてくる事は無かった。
ちなみにEランクのギルドカードは鉄であり、Dランクは銅、Cランクは銀、Bランクは金、最後のAランクは白金という扱いになり、クロウは白金のギルドカードを所持している事になるのだ。
すると、登録を終えたサヤコが日本語でクロウに声を掛ける。
「終わったよ」
「それは良かった。それでパーティーの方は?」
「それも一緒にお願いした。多分、この後」
サヤコがクロウに伝えた直後、受付嬢から声が掛かる。
「クロウ様、少しよろしいですか?」
「あいよ」
クロウは受付嬢に呼び出されたとして、サヤコと共に受付に向かう。
「サヤコ様からパーティーでの荷運び申請が行われました。受領致しますか?」
「受領します」
「承知しました。ではこれにて処理は完了です。引き続き当ギルドをご贔屓に」
その後は事務的な手続きのみが行われ、あっという間パーティー登録が完了した。
パーティーを抜けるのもリーダーであるサヤコの許可無しでは行えないので、クロウは一生サヤコの尻に敷かれる事となるだろう。当人もそれを承知で受領したようだが。
そこから先はクロウが対処を行う。サヤコでは領主との面識が無いため、呼び出すなんて真似は不可能だったからだ。
「それと、勇者パーティーの・・・ゴトウ様をこの場にお呼び戴けますか?」
「ユミ・ゴトウ様ですか?」
「はい。先ほどの件と関連してまして」
「なるほど。承知しました・・・領主様へは何と?」
受付嬢は書類を思い出し、呼び出す準備を行う。
その際に事前に決められた文言を問い掛けてきた。
クロウはメランコ公爵が指定していた合言葉を伝える。
「荷が逃げた。で、お願いします」
それは「荷が入った」であれば〈用意出来ました〉となり、「荷が逃げた」なら〈捜索をお願いします〉となるのだ。そのうえで勇者パーティーの面々と共に捜索隊が組まれ、一人だけ事情を知るべき相手を支部に寄越す事が選べるのだ。
その言葉を受けて、受付嬢は準備を開始する。
「承知しました」
受付嬢とて仕事柄・・・勇者の悪行は存じている。
気持ちのうえでも素晴らしい人物とは思えないのだ。
なにより先ほどの書類が危険人物という意味合いを色濃く伝え、何も知らない民草よりは中立に近い立場だった。これは支部長とて同じであり、受付嬢が裏に回り支部長からの了承が得られた事で領主館へと通知がなされたようである。
それからしばらくして。
領都内は慌ただしくなった。
領主館からは多数の兵が外に向かって出向き、寝ぼけ眼の勇者ケンイチ、面倒臭そうな王女殿下、苛立ちを浮かべる賢者、ワクワク顔の盾使いが兵の中程を歩き、外に向かっていた。
そして、その内の一人であるユミ・ゴトウのみが慌てて支部を訪れ、クロウとサヤコが待つ客間へと案内された。
案内されたユミは外套を被ったままのクロウを見て声を荒げる。
サヤコはクロウの隠密スキル内に隠れながら様子を見守る。
「姫騎士様が居なくなったってホント!?」
クロウは(懐かしいな・・・)と、思いつつ意気消沈気味に日本語で答えた。
「はい。申し訳ないのですが」
するとユミは、翻訳の加護を通さず聞こえた言葉に耳を疑う。
「ふぇ? い、いま、なんて?」
元より隠し立てするつもりの無かったクロウはサヤコの時とは異なり、ユミに対してはアッサリと自白したのだった。
ちなみにこの客間の周囲にはクロウ自らが防諜対策の結界魔法を行使しており、外から聞かれる事は一切出来なかった。クロウが行う会話が日本語だとしても、サヤコやユミの言葉は自動的に共通語へと翻訳されるため、用心したようだ。
「申し訳ないのですが、姫騎士様は御同行を拒否しておられます」
ユミは二度目に聞いた流暢な日本語に驚く。
「に、日本語!? そ、それよりも拒否って?」
だが、彼女の興味は後に伝えた事だったため、クロウは有りの儘に伝える事とした。
「ここまで運んでくる間の彼女は素っ裸だったと申せば理解に及ぶと思いますが?」
その間のサヤコは顔が真っ赤であり、モジモジとクロウへと擦り寄っていた。
ユミは余りの一言に目を見開き、クロウを詰るように嫌悪の視線をぶつける。
「!? 本当なの?」
クロウはユミがマトモな感性を持っている事に安堵し、正確に情報を明かした。
「ええ。そのような指示の元、メランコ公爵閣下がメイド達に指示を飛ばし、私に運ばせましたから」
ユミはクロウの言葉を聞き思案した。
「メランコ公爵閣下が動く相手・・・まさか!?」
そして、行き着く先が何処か察したようで、クロウは首肯しつつも羊皮紙を取り出した。
「そのまさかですね? 詳しくは、こちらの控えをご覧ください」
それはポーチを整理している間に複製魔法を行使して用意した控えだった。
クロウは受け取った際に保管スキル内の羊皮紙に同じ内容を記載したのだ。
そう、クロウの魔法行使は世界の魔法書とは異なり、イメージした通りの事象を自由自在に行使できる物だった。クロウは無詠唱スキルの詳細を知って色々試した結果、有効であると判断し、隠しながら実行していたようである。
その間のサヤコは控えを見て、目を見開きながら驚き(えぇ!? さっき手渡した筈じゃ?)っと、自身のサイン入り文章を眺めていた。
ユミは控えを受け取り、翻訳しつつ読み込んだ。
「控え? 失礼して。!? こ、これ、サインの筆跡が姫騎士様だわ。では、ユウキ君が・・・いえ、彼なら遣りかねないわね。あんなのでも財閥の御曹司だし、彼の黒い噂は社交界でも耳にしたもの」
その表情は徐々に顔面蒼白となり、最後はサヤコ同様に怒りの顔が顕れた。
おそらく彼女も何処かしらでは嫌悪を持っていたのだろう。
クロウは真剣な顔のまま怒りに燃えるユミに問い掛ける。
「という事ですので、理解されましたかね?」
ユミは何度も頷きながら、最後は冷笑しつつ問い返す。
「ええ。充分過ぎる内容だわ。でも・・・サヤコを何処に隠したの?」
それは(友達を何処へやった?)という意図が見え隠れしていた。
クロウはそんな冷笑など、どこ吹く風かという態度で微笑み返す。
「隠したとは人聞きが悪いですよ?」
ユミは微笑み返された事で毒気が抜けてきょとんとなった。
「え?」
それはクロウが隠密スキルを解除し、隣に座るサヤコを露わにしたからだろう。
一部始終を見ていたサヤコは苦笑しつつもユミに声を掛ける。
ユミは一瞬固まりながらも、お嬢様然の態度でサヤコに応じた。
「久しぶり?」
「!?」
「元気そうで何よりだわ。ユミは奴に喰われてない?」
「喰われる? あぁ・・・その点は大丈夫ですよ? だって私、貞操帯をはめてますから。今は鍵がないので取れませんけど」
「それは良かった。いや、良くない?」
「正直言えば良くないですね? 蒸れて匂いを誤魔化す事が難しくなってますから」
すると、クロウが何を思ったのか、ユミに提案を持ちかける。
「でしたら私が外しましょうか? もちろん目は瞑りますので御安心下さい」
ユミとサヤコはそれを聞き、目が点となる。
それはそうだろう? 鍵がなくて困っているのに外せるというのだから。
サヤコは困ったようにクロウの耳に囁く。
「大丈夫なの? ユミってば見た目に反して腕っ節が凄いのよ? 迂闊に肌に触れたら頬を打たれるだけじゃ済まない苛烈な性格してるんだから」
クロウは囁きに対して楽しげに共通語で応じた。
「大丈夫。先ほどの冷笑を見て実感したから。殺気が並大抵ではない事は承知のうえだ」
しかも、ユミが理解する前提で話したので、ユミの表情は一層険しくなる。
よく分からない、この世界の男がサヤコと親しくしているのだ。
サヤコの思い人が亡くなったと知りクロウがサヤコから奪ったと勘違いしていたようだ。
だからだろう、ユミは剣呑な気配を漂わせながらクロウを挑発する。
「なるほど。でしたら、私の肌に触れずその場で外してみて下さい」
遣れるものなら遣ってみろとでも言うように。
もし触れるなら半殺しとする意思を表に出しながら。
それを受けたクロウは無言無表情でユミの下半身に視線を送りつつ目を瞑る。
(下着はサヤコと同じ物でいいな。腰回りがサヤコより小さいが、腰付きは覚えた。さっきの入室中も大ざっぱだが体つきを計測したし、座った時に伸びる誤差を追加して、ポーチ内を思い浮かべながら創り出して・・・次は転送スキルで総交換だな。貞操帯は見えないが、計測誤差から形状を判断して・・・貞操帯をテーブルに落としつつ下着と交換っと!)
その直後、ユミの表情は驚きに変わる。
(え!? 締め付けていた貞操帯が消えた!? しかも柔らかい生地がお尻を覆った?)
サヤコは何がどうなったのか不明だったが、テーブルの上にヒラヒラと落ちてくる少々匂う物体を見てクロウが何をやったのか判断したようだ。
「確かに少々・・・匂うわね?」
ユミは気まずそうに貞操帯を拾い上げ、ゴソゴソと自身のポーチに片付けた。
そうして疑った事を詫びるのは後回しとし、正体を探り出す。
「そうね。うん、汗臭くてごめんなさい。それはそうと、彼って奇術師なの?」
しかし、サヤコはユミの憶測を否定した。
「違うわ。クロウは私の親友よ」
そもそもこの世界に奇術師は居ない。
魔法が存在する世界で奇術師は需要が無いのだから。
ユミはサヤコの否定を受けて何故か軽蔑の視線をぶつける。
「親友? たった数日で親友になったの? じゃ、じゃあ亡くなった彼は?」
サヤコは軽蔑の視線に気づきつつも、苛立ちながら左手をクロウに向けた。
「だからユミの目の前に居るでしょ?」
「え? 目の前?」
「さっき日本語を話せた事で察しなさいよ? 転生したのよ。この世界へ」
「て、てんせい? もしかして、稀に居るとされるあの?」
「そうよ。あの転生者ね? 何の因果か私達とご飯を食べた日に殺されて、この世界で十五年と半年の時を生きててさ? その翌日に私達が召喚されたじゃない? そのうえ半年経ってから巡り会ったんだから不可思議と思うしかないでしょ?」
ユミは余りの出来事に思考が止まりかけていた。
「え・・・十五年半?」
クロウは苦笑しつつもユミの言葉に応じた。
「はい。今は十六才ですね? もっとも前世の記憶を思い出したのは、前世の死亡時と同じく崖から墜落して何故か助かって・・・サヤコの素っ裸を見てからになりますが」
すると、寝耳に水かのように驚いたサヤコが問い掛ける。
「え? 落下したの? 私と一緒に?」
クロウは忘れてたとでもいうようにサヤコへと問い返す。
「言って無かったか?」
それを聞いたサヤコは立ち上がりながらクロウを怒鳴る。
「聞いてないわよ!? じゃ、じゃあ、私って死んでるの?」
クロウはサヤコと同じく立ち上がり、両肩を掴みつつ怒鳴り返した。
「んなわけあるか!? そんなに気になるなら自分の脈を取れよ!? 五体満足で生き残ってるからこの場に居るんだろ?」
サヤコはクロウの言葉を受け、自身の胸に手をあて鼓動を感じ取る。
「そ、そうね・・・うん。生きてる」
サヤコは安堵した表情であり、へなへなと椅子に腰を下ろす。
クロウも同じように椅子へと座り直し、ユミへと向き直る。
ユミは二人のやりとりから不思議な縁を感じ取ったようだ。
(サヤコが簡単に折れてる? 何より恋する乙女になってる? ファミレスで見た時と同じよね? じゃあやっぱり・・・)
という事でクロウは未だに信じて貰えないため、白金のギルドカードを取り出す。
そして注意と共にタブレットを表示させ、局所的に他者に見える状態へと変更した。
「本来ならこの手段はとりたくないんですが、備考と称号を見たら理解されると思います。他の部分は秘匿させて貰いますけどね? 命に関わりますから」
「白金・・・Aランク冒険者、だったんですか?」
「ジョブ的にはAランク冒険者でも最底辺ですけどね。哀しい事に・・・ではこちらの項目をご覧下さい」
ユミはクロウの秘する部分以外を覗いて改めて驚きを示す。
(ホントだ!? 旧名もそうだけど渾名が称号になってる。というか赤銅の魔剣士? 最底辺ってどういう事? 運び屋だから?)
サヤコも改めてクロウの凄さを実感し惚れ惚れしていた。
(凄い!? やっぱりあの刀が影響してるよね? 治癒魔法も使えてたし魔剣士となるのも頷けるなぁ〜。髪色と瞳の色から赤銅とか格好いいかも)
肝心のクロウは増えた称号に辟易していた。
(マジか? なるだけ知られないようにしないとな。称号欄だけは職員でも見えるから油断すると二つ名になりかねん)
ともあれ、ユミとの邂逅は驚愕と共に幕を閉じた。
以降のユミは嘗てファミレスで語ったように柔和な印象に戻っていた。
本来の苛烈な性格は怒った時のみ顕れるようである。
§
その後のユミはサヤコから提案を受ける。
クロウは黙って二人の会話に耳を傾けていたが・・・
「という事なんだけど、どう思う?」
「仮に運ぶっていうけど、奴は簡単には捕まらないわよ? 周囲には護衛も沢山居るし」
「でしょうね? 護る事だけには尽力してそうだから。恨まれる事を平然と遣って退ける外道なのに自身の命は大事にするから」
「そうね〜。姫殿下も実際はイヤイヤな空気だし」
「そういえば婚約者を切られてたわね?」
「ええ。あれがキッカケで帝国との緊張状態は凄い事になってるわ。勇者だから許されるって言いつつ、姫殿下の身体を好き放題弄りまわして種付けしただけだから。今じゃ『飽きたんで何処か行ってくれ』って、ポイしてるもの」
「特権の使い方を承知してる風ね?」
二人の会話が怒りの熱を帯びだしたため、途中より立ち位置を変えていたようだ。
「全くよ。お陰で帝国や聖国に向かった先輩達の手紙では『白い目で見られて辛い。今すぐ日本に帰りたい』って返事が来たわ」
「奴の悍ましい悪評が世界中に広まってるのね? 知らぬはこの国の民草だけか」
「それにさ? どうも今度は賢者まで手を出してて『断崖絶壁に用はない』って言いつつ、彼女の大きな尻だけを揉んでるそうよ」
「うへぇ〜。可哀想なローラ・・・上はなんて?」
「種付けされろって言ってるそうよ。女だからって酷い扱いだわ」
「遣りきれないわね」
そんな悪評を垂れ流す女子二人。
クロウは話を聞きながら二人に背を向けゴソゴソと何かを用意していた。
(これは、ユミ自身も狙われる恐れがあるな・・・先ほど計測した身体情報を元に用意出来るかな? 魔創スキルの中にゴーレム作成があったし。まぁ最初は素っ裸となるけど我慢してくれるよな? もし、二人共を狙って飽きてポイしたなら、変換する機能を追加してっと・・・)
それは二人にソックリのゴーレムだった。各所の部位までも精巧に創り出していたため、クロウは鼻栓を詰めつつ鼻血に耐えながら用意していた。
すると、大人しいクロウに気づいたサヤコが振り返りつつ絶句した。
「!?」
同じくユミも怪訝に思いながらサヤコの視線を追い、ワナワナと怒りに染まりだした。
「クロウさん? それは何です?」
クロウは問い掛けられたが振り返る事はせず、あっけらかんと返す。
「ん? バカ捕縛用の偽装ゴーレムな。恐らくだが、ユミも狙われるぞ? 今は貞操帯が無いから近いうちに気づくだろうし、奴なら何かしらの手段でストーキングしてても不思議ではないからな。後は捜索対象としてのサヤコも用意した」
その言葉を聞いた二人は毒気が抜け、お互いに目配せして押し黙る。
見た目は確かに精巧だった。自身が素っ裸で寝転んでいる風であり、違いが判らない身形でもあったのだ。それをこの数分間に用意したとするなら(クロウとは何者なのか?)それが二人にとっての疑問だった。
その間も二人は黙ってクロウの作業を見守る。クロウはいつの間にか二人の下着やら現在着ている服まで着せ終えており、最後は鼻栓を抜きつつ治癒魔法を行使していた。
すると、クロウは蹴伸びを行いつつ二人に問い掛ける。
「とりあえず素体は出来たから最後に血を一滴貰えるか? 疑似人格用で用いるから。一応記憶防御は前世と今世の俺に関する記憶だけを除外するようにしているがな。下手に知られると面倒だし、サヤコに関しては従順である事を示せば、奴も勘違いするだろうから」
それを聞いたユミは理解を示した。
「なるほど。そういう事でしたか・・・判りました一滴だけでいいんですね?」
「おう。額に描いた魔法陣に一滴垂らすだけで完了するから」
「判りました・・・(相当な出来だわ。しかも捕縛用って言ったから、これが何かに変化するって事よね? 奴なら絶対飽きて何かするだろうし)」
サヤコも渋々ながら血を垂らす。
気持ち複雑そうな表情だったが。
(作り物とはいえ少々複雑だわ。私がクロウ以外に股を開くなんて有り得ないのに・・・)
そのうえで、サヤコはクロウに問い掛ける。
それは疑問を隠すように、ジーンズと下着を脱いだ挑発するような姿だった。
「ところで、細部まで作り込んでるけど・・・どっちがいいの?」
クロウはユミのゴーレムが立ち上がったとして安堵し、サヤコの方の起動を待った。
「どっちとは?」
そして立ち上がった直後に隣のサヤコへと向き直り・・・
「ゴーレムか私か?」
ゴーレムと並ぶ痴女を相手に鼻血を出してしまう。
「ブッ!? な、なんて、格好で言いやがる!?」
サヤコはクロウに見えるように前後に腰を振る。
「大事な事よ? その鼻血は答えとして微妙だけど・・・」
クロウは視線を逸らしつつも率直な感想を述べた。
「クッ・・・(治療治療)・・・お前が一番だよ! これでいいか?」
それが聞けたサヤコは満足気に下着を戻しジーンズを穿いたのだった。
「ええ。大満足の答えよ」
なお、その光景を見せられたユミは苦笑しつつも理解を示す。
(仲いいなぁ。一時的に離れて元気無かったけど、やっと本来のサヤコに戻ったみたいね? まぁ異性に魅せる事への躊躇の無さは淑女として感心しないけど)
《あとがき》
遂に痴女現る。