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第7話 女友達とクロウ。


「ヒメジ様? どうかなされたので?」


 とりあえずのクロウは受け流す為、振り返りながら声を掛ける。

 身バレしたとはいえ、いきなり「はい、そうですね」という扱いにはならないからだ。

 すると、サヤコは流れる涙を放置しながら抱き着く力を更に強め、腕の位置を徐々に首へと寄せていく。


「・・・この期に及んで、まだ他人行儀なの? そんなに絞められたいの?」


 クロウは(やばい!?)と、思いながら即座にサヤコの腕を解き、振り向きながら頭を下げた。


「はっ!? す、すみませんでしたぁ!!」


 サヤコはまさか振り解かれるとは思ってなかったのか、きょとんとした。


「!? (うそぉ!? 昔ならいざ知らず・・・いえ、これでもAランク冒険者だったわ)」


 だが、前世は兎も角、今世の事を思い出して涙を拭うサヤコだった。

 それは前世とは違うという事を思い知らされたともいう。

 サヤコは一旦俯きつつ溜息を吐き出し、真剣な表情でクロウに願う。


「私もギルドに連れていって貰えないかな?」


 クロウは真剣な表情のサヤコを見つつ、同じく真剣な表情で応じた。


「ギルドに? 何でまた?」

「勇者というか勇者のジョブ持ちは実質、先輩二人とバカ一人なのよ。私やユミはどちらかと言えば付き人で、パーティーメンバーとしては護衛的な扱いなの。だから今の処、陛下やら公爵閣下の後ろ盾の元、パーティーでの自由な活動が許されているけど、パーティーを抜けて個人で他国に向かうには身分証と呼べる物が存在しなくてね? 異世界に住む事が確定している現状だと・・・」

「なるほどね。確かにそれは必要だ。ただし、それは今の地位を棄てる事になるけどいいのか? 後ろ盾の無いタダの平民に成り下がるという事だぞ? 家名も当然棄てないといけない。勇者の付き人という立場がある以上は家名を名乗る事も許されるからな?」

「構わないわ。あんな人の皮を被った化物と一緒に居るよりは、一人の冒険者として生きた方がマシだもの。それに・・・クロウと一緒に居たいって思ったからね?」


 クロウはサヤコの決意を垣間見た。

 だが、最後に言った言葉で察してしまった。

 クロウは引き攣った顔に変わり、困ったように問い掛ける。


「もしかしてだが・・・俺に付いてくるのか?」


 クロウは基本一人で行動する者だ。

 Aランクとはいえジョブの立場で言えば下っ端だ。

 単に自分の身なら自分で護るだけの技量があるからに過ぎないのだ。

 もしここでサヤコが登録を済ませパーティーメンバーとして行動するとしよう。

 そこで起こりえるのは剣士ジョブ持ちで他の者が欲するという事案が発生するのだ。

 そのうえ運び屋ジョブ持ちのクロウが相手と知るや、その場でバカにし最悪決闘という事も起こりえる。特にこの決闘が油断できない。それは運ぶ事に特化したクロウは戦えない(・・・・)という扱いでギルドに所属しているからだ。

 記憶が蘇る前ならいざ知らず、今は記憶が蘇った事で得物次第では戦えるのだ。

 ただ〈戦う運び屋〉・・・それが問題だった。それはかつての先輩達が言った事だ。クロウが反撃しようとした際に止められた時の話だ。


『得物があって戦えるとしても絶対に隠せ。俺達は立場が弱いから人族相手に反撃しようものなら多勢に無勢で最悪殺されるぞ? 「運び屋は運び屋らしく逃げに徹してろ!」と得物を振りかざして大勢で一人を滅多打ちにするんだ。自分の身を護る程度なら技能を持つのもいい。俺達だってそうだからな? 魔物相手なら構わないんだが、相手が人だと話は別だ』


 そう言われた事でクロウは戦えない事を前面に出し、外套の下に得物を持っていようとも街中やギルド内で抜剣する事は無かった。

 それだけ世間では運び屋は逃げの一手を得意とする弱虫扱いをうけており、運ぶ事以外は無能の烙印を押されているのだ。

 それが低劣に見られる由縁である事からも理解出来るだろう。

 しかし、クロウの気持ちを知ってか知らずか、サヤコは真剣な表情から満面の笑みに変わりつつ宣言した。


「もちろん! 登録が済んだら一緒に行動を共にするよ? 大体、大学に来るって言ってたのに就職したのはそっちでしょ? 大学のスカウトを蹴って就職に逃げたんだもの」


 その宣言を聞いたクロウは頭痛がするのか頭を押さえて扉に背中を預ける。


「そ、それを今言うか? 昔の俺は亡くなったんだぞ? さっき・・・いや、言っておくが登録自体は簡単だ。初っぱなからだとEランクからの登録になる。最短でBまでに上がるとするなら、高ランクの者と」


 そして、サヤコと目を合わせないよう下を向きつつ注意を行ったのだが、サヤコはクロウを指さして笑顔で答えた。


「居るじゃない高ランク」


 クロウは驚きながらサヤコの顔を覗き、困ったように注意した。


「俺? いや、俺は魔族や魔物以外とは戦わないぞ? そもそもお前は運び屋というジョブをキッチリ理解してないだろ? 俺の立場では剣士であるお前と行動を共に出来ないんだよ。周囲がまず認めない。次いでお前を求める者が沢山湧く。最悪、俺が滅多打ちで殺される事まで起こりえるんだ」


 サヤコはクロウの注意を聞きながら、徐々に怒りで震えだす。


「!? ど、ど、どういう事なの? それ!?」


 クロウはサヤコの怒りの理由に気づきつつも、変えようがない事実として提示する。


「言ったままの意味だよ。運び屋はな・・・最底辺のジョブなんだ。この世界ではな? 仮に戦えたとしても絶対隠さないとダメなんだ。まぁ魔物相手に戦ってる処を見られても、無視されるのが常だしな」


 サヤコはクロウの言葉にショックを受ける。

 そして異世界の常識をあてがうが・・・


「それって・・・人道的に反してない?」


 クロウは軽く去なしてしまう。


「この世界は人道もなにも無いぞ? 文化が中世ヨーロッパよりも劣る、低劣文化だからな? そういう世界に住み続けるんだ。例の外道にとってはさぞ住みやすいだろうがな」

 

 クロウの自嘲ともとれるその言葉は、より鮮明に世界が外道の楽園と思わせた。

 サヤコは余りな事にフラついて後ろにある椅子に座り込む。

 クロウはサヤコの落胆を見てどうしたものかと悩む。


(現実を思い知ったようだな・・・とはいえ、サヤコの選択肢が狭いのは厄介だぞ。俺は基本一人で行動するのが常だ。あり得るとすれば俺がパーティーの荷運びをするくらいだが、要望が無い限りそんな話は降りて来ないしな? まぁこのまま悩んでも埒があかないし提案だけしてみるか? 俺と共に居たいという気持ちは痛い程伝わってきたし、理由は不明だが)


 クロウは頭を掻きながら、落胆するサヤコに話し掛ける。


「ま、手が無い事は・・・無い」


 サヤコはクロウの言葉を聞き、きょとんとしたまま顔を上げる。


「え?」


 クロウは困った顔のままだが、日本語でサヤコに提案する。


「サヤコが登録後にパーティーリーダーとして俺を指名しろ。俺がパーティーリーダーでなければいいんだ。俺はあくまで戦闘員じゃないからな? 後方でメンバーの装備を預かる運び屋だ。仮に戦えるとしても荷物を護るという意味で戦うだけだ。選ぶのはサヤコの自由だが、加わりたいとする者が居る場合は・・・お前の判断に任せる」


 サヤコはクロウの言いたい事を即座に理解した。今のクロウは日本語で話していたため、仮にサヤコ以外の人間に聞かれたとしても、理解される事はないのだ。

 サヤコは生きる活力を見出したのか、大きな胸を震わせながら勢いよく立ち上がる。


「判った! 絶対クロウを指名するわ!」


 クロウは急に元気になったサヤコを眺めながら上下に揺れる胸を見て怪訝に思う。


(すげぇ揺れてる・・・ブラしてるよな? 先っぽ立ってるように見えるのは気のせいか?)


 クロウは胸を凝視しつつ、サヤコにあえて問うてみる。


「な、なぁ? ブラは?」


 セクハラ的な言葉を聞いたサヤコは、自身の両胸を揉みながら乾いた笑いを発した。


「ブラ? あっ! 付けてなかったかも。あははは・・・なんなら生乳見る?」


 クロウはサヤコの煽りにも似た言葉を受け、背中をサヤコに向けて扉に手を掛ける。


「けっ、結構です」


 するとサヤコは拒否されたと思い、ワンピースを脱ぎ捨ててベッドに投げ、ノーブラの胸をクロウの背中へと押しつけた。今のクロウは防具を身につけておらず、外套と上着のみが背中を護るだけだった。


「判った。それなら・・・えい!」


 結果、サヤコの生感触を受けてしまい、またも鼻血を出してしまうクロウだった。


「ぐぉ!? ブッ!?」

「二度目の鼻血いただきました!」

「止血、止血・・・まったく、少しは女としての恥じらい持ってくれよ」

「クロウだけしか遣らないよ? だからなのね・・・貴方に裸を見られて嫌悪感が湧かなかったのは。寧ろ見て欲しいって気持ちが湧き上がったのも」

「友達だった者にそれが出来る強さが凄いわ」

「友達だったじゃないわ。今も私の親友よ? クロウは」

「さいですか」



  §



 ともあれ、その後のサヤコはブラを身につけ、ワンピースを着た後に外套を羽織った。

 その間のクロウはというと・・・


(そういや剣士としての得物を持って無かったよな? 登録するなら持ってないと怪しまれるか? 前のはバスターソードかってくらい大きな剣だったが、サヤコの技量からすれば使い物にならんよな? 俺も剣より使い慣れた得物がいいし、この際だから創るか? 玉鋼から打つ時間は無いし過去に見学した鍛冶工房の記憶頼りに・・・上手くいくか?)


 高校時分の記憶を読み出しながら、一本の刀を鞘付きで創り出そうとしていた。

 金属は従来の日本刀同様の素材をイメージし、道場で見たサヤコの得物を思い出す。

 サヤコの得物は身長的に野太刀となるが、硬さと柔らかさを入念にイメージしたクロウは少し多めに魔力を使ったようだ。

 しばらく待つとクロウの目の前のテーブルには、矢鱈と使い込まれた野太刀が現れた。

 クロウは二本目として自身の刀を用意しようとしたが、魔力残量が気になったためギルドカードを覗き見る。


(ギルドカードはっと・・・おぅ。100万MPも使っちまった。まぁサヤコが持つ魔力量は未だに不明だがイメージする物品の密度が魔力量に関係するのかもな・・・)


 その後、クロウは更に集中し自身の刀を用意する。得物は前世から使っていた物をイメージし、サヤコの得物同様にイメージを練り上げる。すると、今度は野太刀の隣にクロウ自身の得物が現れた。クロウは(慣れが出てきた?)と、思いつつ両者の脇差しと防具を追加で用意し合計四本の刀と防具をその場に置いた。なお、この時に使った魔力量は合計で400万MPだった。


(刀二本が200万MPとして、脇差し二本が100万MP、防具類は俺よりもサヤコの胸のサイズが影響するから、7MPと93MPくらいの差があるか? というか胸でけぇ・・・今後はどれくらいの密度の物が最大量となるか調べる必要があるかもな・・・)


 それは集中し過ぎたからだろうか?

 クロウは一気に息を吐き出し、集中力を切った。

 すると、サヤコが怖ず怖ずと問い掛ける。


「ね、ねぇ? それって・・・私の?」


 サヤコはクロウが急に鬼気迫る気配を発したため近寄れないで居た。

 クロウが刀を用意する直前、準備が出来たとして声を掛けようとしたのだが、声掛け前に雰囲気がガラリと変わったため、黙って見ていたようだ。


「ん? あ、あぁ。まぁ理由は話せないが・・・用意したぞ? ここに来る間にサヤコの剣と装備一式が夜盗に奪われていたからな」


 サヤコはクロウから理由を教えてもらい安堵した。


「そう、なんだ。でも良かった。あの剣って使い勝手が悪すぎて、正直一度も振ってないのよね。胸当ても小さかったし・・・得物が違うって言っても理解されないし、剣士といえばバスターソードでしょ? って騎士達が決めて掛かるから」


 クロウは異世界とこの世界の違いを思い出しつつ、サヤコに得物を手渡す。


「まぁこの世界じゃな。細い棒みたいな剣で倒せるものじゃないと思っても仕方ないが・・・ホレ。野太刀と脇差し、あとはサイズが何故かピッタリな防具な? (下着を創った段階で理解してたんだろうな・・・形状を。丸々見てしまってたし)」


 サヤコの防具はテーブルからベッドに移し、クロウは自身の外套を脱ぎつつ防具を身につける。そして、帯刀ベルトを腰に巻き付けながら刀と脇差しを身につけ、外套を羽織り直した。

 その間のサヤコは得物を受け取り野太刀を少しだけ抜刀する。


「・・・あれ? この文様・・・私の? 胸当ても・・・胸の形状?」


 そのうえで防具にまで意識を割き、きょとんとした。

 クロウは抜刀したサヤコに近づきつつ、帯刀するためのベルトを野太刀の鞘に巻き付け、脇差し用のベルトと共にサヤコへと手渡す。


「まぁ理由は聞くな。今はまだ話せないから・・・追々な?」


 それは自身のスキルを明かすには早いという意思表示だった。

 クロウとて何が出来て何が出来ないか判断が付かないのだ。

 ここで仮に伝えた事で、出来ない物を願われても困るため、ある程度知り尽くすまでは秘するつもりのようだ。それが親友のサヤコが相手だとしても。

 サヤコはクロウの言葉に首肯を示し純粋に感謝した。


「う、うん。ありがとう(これ等を貰えるだけでも感謝よ! 一生大事にするよ!)」

「ま、喜んでくれたらそれでいい・・・(さてと、俺は刀身自体見てないから念のため・・・)」


 その表情は恋する乙女だった。

 クロウはサヤコの謝辞を受けて恥ずかしいのか反対を向き、外套を開いて腕を入れ・・・自身の刀を抜刀した。それは試しに抜くという意味だったのだろう。


(お? 鋼を使った筈なのに・・・刀身が赤い? 確か、魔創スキルに鑑定眼があったっけ? 両目を閉じて右目だけ開き刀身の根元に触れる。だったか・・・へ? 緋緋色金(ヒヒイロカネ)? マジで? そういえば装備も同じ色をしてたな? こっちもかぁ)


 クロウは赤い刀身を見て惚れ惚れしていた。

 サヤコもクロウの背後から刀身を見て息を飲む。

 赤色に輝く刀身は簡単に物を切り刻むという魔力を秘めていたようだ。

 ちなみにサヤコの刀や防具も薄らとだが金色を帯びており、こちらの素材がオリハルコンと知るのは後々の事である。



  §



 防具を身につけたサヤコはルンルンとなった。

 それは想像以上にフィットしワンピース越しなのに違和感なく身につける事が出来たからだろう。背中も金属に覆われ、後ろから切られたとしても身を守れると理解したようだ。


「これ、すっごい! 何より下乳が蒸れない!! 表面も不思議な色合いだし」


 クロウは大喜びのサヤコを眺めながら、外の様子を再確認した。

 時計がない為、今が何時か知る術はない。

 一応、時を報せる鐘が鳴るには鳴るが、今日は鐘鳴らしも休みのようだ。


「さいですか。それよか時間もあれだから早く向かうか? 時間的に仕事終わりの飲んべえ共が沢山居るだろうが・・・覚悟だけはしておけな?」

「それって他の冒険者? テンプレな?」

「テンプレ言うな! まぁ言わんとする事は判るが(やべぇ胸の形がハッキリ見えるんだが?)」


 そうして、顔を赤く染めたクロウは、サヤコと共に外套のフードを被りつつ、宿から外に出た。

 これから向かう場所はバカみたいに騒ぐ冒険者が集まるギルド支部だ。

 サヤコとしては何が待ち受けるか不明だが、クロウに任せながらしばらくは様子見する事としたようだ。


(テンプレが居るのかぁ。まぁお尻を触られる前に野太刀が目立つし大丈夫よね? というか、何処かで試し斬りしたいかも・・・)






 《あとがき》


 サヤコは戦闘狂かも・・・?

 クロウも本来の得物だからどうなる事やら。



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