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第2話 クロウの過去と現在。


「生まれたぞ! 男の子だ!」


 この日、一人の男の子がとある寒村で生まれた。

 男の子の父親は流れの冒険者で村に住み着いた男性だった。

 男の子の母親は寒村が村長の一人娘だった。

 二人が寒村で出会い付き合い婚姻を結び愛し合った結果が彼だった。


「ロウさん? それで名前はなんて付けるの?」

「そうだなクレア。俺達の名前から授けようか?」

「そうね、それがいいわね!」

「ん〜、そうだ! クレアと俺の子だから、クロウとかどうだ?」

「いい! それがいいわ!」


 二人は生まれたばかりの男の子にクロウと名付けた。

 この名前に意味はなく、ただ安直に付けたに過ぎない。

 両親のどちらとも学はなく、ただ簡単な読み書きが出来るというだけであった。

 その後も彼は両親の愛を受け続け健やかに成長した。



  §



 それから年月が流れた。

 クロウは九才になった。

 生まれてからスクスクと育ったクロウは、赤銅色の髪の毛をボサボサなまま伸ばし続け、髪の色と同じ瞳は常に眠そうな印象を周囲に与えており、髪の毛も寝る時以外は縄で縛り、パッと見は男の子とは呼べない姿になっていた。

 彼の容姿は色々とボロボロではあるが、整えれば美形ともとれる女顔だった。

 ただ、例外とすべきは何事にも無頓着であり、それが更に拍車をかけて美形とは真反対に取られる印象を与えていたのだ。

 ともあれ、そんなクロウの元に、怒りも露わな母親のクレアが現れる。


「クロウ! 今日も仕事さぼったでしょ!?」


 クロウはクレアの怒声を聞き、自室の布団から起き上がる。

 それは今起きたとでも言うかのようなだらしない姿だった。


「んん・・・母さん? おはようございます」

「はい。おはよ・・・じゃないわよ!! 今朝言ったわよね? 畑の水やりをお願いって!」

「そうでしたっけ?」


 しかしクロウは、きょとんとしたままモゾモゾと布団の中へと潜り込む。

 クレアはそんなクロウを見て頭痛がしたのか、頭を押さえながら扉を閉めて出ていった。


「まったく・・・誰に似たんだか? 仕事嫌いになっちゃって。やっぱり名前の大半をあんな奴で占めたのが間違いだったんじゃ?」

 

 そして嫌そうに「あんな奴」と呟きながら溜息を吐いた。

 そう、クロウの父親でありクレアの夫であるロウは数年前に家を出ていった。

 クレアからすれば何処かで女を作って出て行ったのだろう。そう思っていたようだ。

 だからこの場に残されたロウの子。クロウ。

 仕事を願っても働かない穀潰しと化した息子を見るクレアは、どうにかして働かせたいと思っていたようだ。


 そうして、更に月日が流れたある日。

 クロウが生まれて十年が経った。この日はクレアが待ちに待った洗礼日だ。

 それはこの世界を造りたもうた魔創神:カリムを祀る・魔創教が執り行うジョブ判定の儀があるからだ。

 ちなみにクレアのジョブは聖女だった。あくまでだった(・・・)である。

 今のジョブは布教師であり普段は教会勤めをしているのだ。

 これは昔、魔王討伐で勇者召喚した折、彼女は先代魔王を討ち滅ぼす結果を見届けた。

 その後は村に戻り、魔創教のシスターとして村に魔創教の教えを広めていた。

 だが、ある日・・・村を訪れたロウと恋に落ち、クロウを産んだのだ。

 子供を産んだとしてもジョブは変わらず、日々のお勤め始めは働かないクロウに仕事を祈り、なんとしてもどんなものでも良いからと、働かせるよう願い続けたそうだ。

 仮に命を賭けなければならない事でも、そういうものだと認識するよう、ひたすら願ったようである。仮に亡くなったとしてもカリム様が救って下さると信じて。

 そして待ちに待ったジョブ判定。洗礼はクレア自身が行うためクロウの順番が早まるよう早朝から済ませていたようだ。


「クロウだな」

「はい、神父様」

「ではジョブ判定の儀を執り行う」


 神父は目の前に立つクロウの頭に水晶をあてがう。

 クロウは面倒臭そうな顔のまま頭を垂れ(早く終われ)と念じる。

 それは信心深いクレアとは正反対な対応であり背信行為にも似ていた。

 神父はクロウの魂を水晶で見通し、目を見開いて固まった。


「!? な、なんと。これは業なのかもしれぬな」


 それを聞いた隣に立つクレアは怪訝に思う。

 そして隣から水晶の中身を覗き見る。


(業? 一体何が? !?)


 その行動そのものはシスターにあるまじき行動だったが、母親という気持ちが先立ったのか神父も受け流したようだ。いや、寧ろ流さねばならぬほどの文字が浮かんでいたようだ。


「クロウよ。主のジョブを申し渡す。お主のジョブは〈運び屋〉だ。恐らく、将来において苦労はするだろうが、それがお主に願われた神のお導きと信ぜよ」

「!? は、運び屋ぁぁぁぁぁぁあ!?」

「こら! 驚き過ぎでしょう!?」

「そ、そ、それ、って、最底辺のジョブでは? 奴隷にも似た最低最悪の・・・」

「これ! 神の御前で失礼じゃぞ!」

「そうよ? どんなものでも選ばれた以上はやり遂げないとダメなの! これから先、貴方は家から追い出します! 多少のお小遣いは渡しますから、選ばれたジョブに恥じぬよう生き延びなさい。仮に死んでもカリム様がお救い下さるから」

「!? そんなぁ!?」


 こうして、クロウは十才児でありながら、クレアの一存で家から追い出された。

 ある意味で穀潰しから更生なさいと願う、母親の優しさなのかもしれないが。



  §



 更に年月は流れた。

 クロウは十六の成人を迎えるまでなんとか生き延びた。

 それまでは泥水を啜り、飢えを木の実やら魔物の死骸肉で耐え忍び、腹を下しながらも奇跡的に生き延びた。それこそ魔法で何とかなったと思うような事ばかりだった。

 だが、クロウには魔力と呼べる物もあるにはあるが微々たる物しか無かった。

 だから生き延びる際にはジョブ判定の折、与えられたスキルのみで生き延びるしか無かった。

 そのスキルとは〈駿足・隠形・身体強化〉であり〈駿足〉は読んで字の如く走って逃げる、或いは早足で送り届ける〈運び屋〉にとって必要不可欠なスキルだった。

 〈隠形〉は魔物から逃げる際に使うスキルで〈身体強化〉は死に瀕した時に使うと効果的なスキルだった。

 ただ、この三つのスキルは例外的に代償が必要だったのだ。

 それは十才の折、運び屋として冒険者ギルドに登録し、荷運びの仕事をアッチコッチで行ったクロウだったのだが、ギルドカードにあったスキル一覧を初めて見て思ったのは・・・、


(スキルがあるなら使えばいいじゃん!)


 っと、軽い気持ちで使ってしまい酷い目に遭ったそうだ。

 それは〈駿足・身体強化〉なら三日間、全身が激痛に苛まれ身体が動かなくなる。

 〈隠形〉なら三日間、誰からも気づいて貰えないという代償だったのだ。

 普段の寝泊まりも基本は安宿なので、この状態になると野宿を強いられるのだ。

 ある意味で呪いにも似たこのスキル。

 運び屋が最低最悪という意味はこのスキルにあるようだ。

 そのうえ〈運び屋〉を判定された者は長続きせず早々に自殺する類いのジョブだった。

 クロウとて同じように「自殺してやる!」っと魔物の群れに突っ込み死のうとしたが、何故か魔物が死滅するという事が多々あった。そのうえ川に飛び込もうものなら、上流から枯れ木が流れてきてクロウに激突し、一緒にプカプカと滝壺に落ちるという事もあった。それであっても生き延び、最後は簡単に死ぬ事すら許されないと悟ったクロウだった。

 ちなみにこの世界には魔法が存在するのだが、魔法を使うためには魔力を感じる必要があり、魔力を感じる事が出来たら魔力操作で魔力を増やしていく必要があるのだ。なお、これは貴族達にとっては当たり前にある知識で、平民に至っては知り得ない知識だったため、平民でも最底辺に居るクロウにとっては知り得ない話であった・・・ともあれ。

 今日もクロウはライラック王国の王都にある冒険者ギルドに来ており、一人でボーッと依頼票を眺めていた。仕事は主に運び屋関連の物だけだが。

 他の冒険者やら生き延びた他の運び屋も居るには居るが、大半は出払っておりこの場にはクロウのみが居るだけだった。

 すると、担当となっている受付嬢がクロウに微笑みながら声を掛ける。


「それはそうとクロウ君、成人になったならこちらの仕事受けてみない? まぁ報酬は相変わらず低賃金だけど、何でも・・・よんどろこない積み荷を届けて欲しい依頼なんだけど?」


 クロウは受付嬢の微笑みを躱しながら引き攣った笑みで応じた。


「というかそれ、俺への指名ですよね?」

「やっぱりわかる?」

「冒険者でも受けない仕事の大半が俺の元に来ますから」

「ですよね〜。まぁそんなワケでお願い! 今度、ご飯奢るから!」

「・・・絶対ですよ?」


 受付嬢はクロウの溜息顔を受け流し、満面の笑みで受付から出て背後から抱き締めた。


「ありがとう! じゃ、受領してくれる?」


 なお、現在のクロウの容姿はそれなりの格好をしているため、ジョブを知らない者からすれば一目惚れするという美形になっていた。だが、ジョブを知った瞬間、嫌悪感のある顔に変化するため、如何に運び屋が低劣な仕事であるか判る話だった。

 唯一の例外は受付嬢のように、実際の仕事で助かっている者くらいだろう。

 仕事を与えようとしない者は総じて低劣だと見下しているが。

 クロウは受付嬢を引き剥がしながら辟易(へきえき)とした表情で問い掛ける。


「それで荷物は何処に?」

「メランコ公爵の家にあるそうよ。そこで詳細を聞いてね?」


 しかし、依頼人の名前を聞いたクロウは更に表情が引き攣った。


「メランコ公爵・・・って、また(・・)?」


 受付嬢も知っているためか困った顔のまま応じた。


「ええ。また、あのメランコ公爵ね?」


 そう、このメランコ公爵とは今代の勇者召喚を行った者の一人で、勇者ケンイチの後ろ盾となっている者の一人だ。

 この勇者召喚は異世界から最大で十五人の勇者と呼び出す秘儀とされ、主に行うのは冒険者では太刀打ち出来ない魔物の討伐、最たる物は魔王の討伐だった。

 だが、クロウが引き攣る理由はこの公爵ではなく、呼ばれた方の勇者にあるのだ。

 一つはワガママ。一つは女タラシ。

 一つは悪逆非道な行いも平然と行える外道である事だった。

 それこそ勇者とは?

 っと疑われても仕方ない人物であり、公爵とて頭が痛い人物だったようだ。

 それとて、召喚直後には判らなかった話だったが。

 そんな人物だと判明したのは第一王女を誑かした時。

 婚約者だった他国の王族相手に刃傷沙汰を起こし、平然と『勇者だから許されるよね?』と、返した事が頭痛の種として持ち上がった話である。

 結果、勇者ケンイチ関連の仕事は誰も受けようとはせず、最終的にクロウにお鉢が回ってくる事が多々あったようだ。


「ま、例外なく今回も女を運べって事でしょ?」

「お判りなのね・・・」

「王都の方が美人揃いですからね・・・」

「普通顔で良かったとも思えるわ〜。それこそクロウ君が女装して」

「一発でバレますよ!?」

「冗談よ。行ってらっしゃ〜い」


 ともあれ、クロウは溜息を吐きながらメランコ公爵の屋敷に向かう。

 クロウは毎度の事ながら思ってしまう。


(今回はどんな女性が簀巻きにされているのか・・・前回と前々回は素っ裸で眠らせられてたし、今回も同じなのかな・・・目のやり場に困るから服を着せてって言っても、勇者の要望だからって返ってくるのがオチか・・・)






 《あとがき》


 初回ざまぁで怯えた勇者君へと繋がる物語。

 あくまで、ざまぁはオマケなんですけどね・・・。



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