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第1話 運び屋のクロウ。

唐突に始めた新作です。

駄文ですが、ご了承下さい。


 とある世界。荷車片手に荷物を運ぶ男あり。

 彼はこの世界のジョブ判定で、最底辺となる〈運び屋〉に選ばれ、日夜誰かに命じられ、西へ東へ、北へ南へ、カリムウェル大陸を東奔西走していたようだ。

 それは上は王家から命じられ、下は平民から押しつけられ、王城から宛先不明の場所までも、迷いに迷い、運んでいたのだった。

 時には盗賊に襲われ、荷物を奪われたり。

 時には野犬に襲われ、荷物を忘れたり。

 時には戦場に突っ込み、荷物を燃やされたり。

 散々な中でも、運ぶという仕事を神から命じられた以上、行うしかなかったようである。

 そんな彼はいつも思う。


(誰も彼も運び屋を何でも屋と勘違いしてないか?)


 と、誰もが職業の意味を理解せずまま、無賃で運ばせるのだから質が悪い。

 特に全損や紛失でもさせようものなら、命で以て返せと騒ぐ貴族も居たりする。

 そんな時は隠形スキルで身を隠し、逃げていた彼だった。

 無賃なのだ。命の保証なく戦場を魔族領を運ばせられ、魔物や夜盗から荷物を護らねば成らないのだ。それを彼の苦労を知らぬまま好き放題騒ぐのだから遣りきれないであろう。

 逃げに転じたとしても神は罰する事はなく、罰するのは怒り狂った貴族だけである。


 そしてこの日も荷物を載せて荷車は進む。

 盗賊と戦う為の剣術を独学で身につけた。

 野犬から逃れる為の知恵を身につけた。

 戦場で生き延びる為の防具を身につけた。

 それであっても亡くなる時は亡くなるのだから世知辛いだろう。



  §



 それから数ヶ月後。

 彼は魔物蔓延る、魔の森を抜け外套を被った連れと共に遠方へと見える禍々しい城を眺める。


「あと少しか」

「ホントに大丈夫なの? 私も付いて行こうか?」

「いや、俺が請け負った仕事だ。それに君が行ったら勘違いされるだろ? 一応でも全世界に公開された勇者パーティーの仲間なんだから」

「そんなパーティーはこちらから断ってやったわ! そもそも私は公開時に眠ってたもの」

「だとしてもだ。これは俺が請け負った仕事だ。前金としての保証金も預かってる。これで失敗したら命は無いだろうが」

「だからよ!?」


 すると、外套を着た連れは、彼の背後からフルフルと震えつつ抱き着いた。

 彼は抱き着かれた直後、狼狽える。


「お、落ち着けって! む、胸当たってるから!」


 そして、慣れた手つきで引き剥がし、後ろに向き直る。

 彼の連れは外套の奥で口を尖らせて唸る。


「むぅ」


 その感情は何故という気持ちが先立っていたようだ。

 すると彼は言う。恐らく心配させないという意味だろう。


「ま、サインは戴けないだろうが・・・預けるだけ預けたらサッサと戻ってくるさ」

「約束してよ?」

「約束だ。流石に二度目は勘弁だからな」

「それは私の台詞です!!」


 そうして、彼は闇夜に紛れるようにその場から消えた。

 外套の連れは彼から預かった革袋を眺めながら呟いた。


「生きて帰ってきてよ・・・」



  §



 連れと別れた彼は闇夜に紛れ森を駆ける。

 そして禍々しい城に近づくと更に深い闇を背負い、完全に姿をくらませた。

 城内は複数の魔物や魔族が行き交い、一番警備が厳重な場所では偉そうな素振りの男が座り一人で呟いていた。


「勇者が現れたか。人族共も懲りぬな・・・毎度毎度、骨のある勇者は居ないものか。アレもコレも骨のある者ではなかった。カリムウェル大陸の人族共は学びという事をしないのか? ま、何にせよ気概のある者が居るなら、是が非でも戦ってみたいところだが。それも今はまだ叶わぬだろうの・・・」


 そう、偉そうな素振りの男は一人呟きながら傍に侍らす女魔族を眺めた。

 それらは首輪を付けられ、表情の抜け落ちた虚ろな顔で窓の外を眺める。

 中には男魔族も居るが、それらの表情も同じであった。

 数にして六人。全員が半裸であり見覚えのない下着を身につけていた。

 女魔族は上半身が素っ裸。男魔族は上下に布を巻いていた。

 偉そうな素振りの男は視線を魔族達から離し、虚空を見上げて再度呟く。


「いやはや。魔大陸を訪れたかと思えば、大した事のない者ばかり・・・」


 すると、男の背後から声が響く。


「お届け物で〜す」


 男は唐突に声を掛けられたとして振り返りながら身構える。


「誰だお主は?」

「サインかハンコをお願いします」


 しかし、問い掛けに対し返してきた言葉は意味不明の言葉だった。

 その右手には豪奢な羊皮紙を持ち、何やら人族語で書かれた文字が見える。


「は?」


 問い掛けてきた者は、左手人差し指で魔法陣の円が描かれた場所を示す。


「無理なら血判でもいいですよ?」


 男は意味不明なまま問い掛ける。


「どういう意味だ?」


 問い掛けてきた者は、何処からともなく大きな木箱を取り出して、お辞儀した。


「わかりませんか?(やはりギルドを用意するしかないか・・・)いえ、お荷物はお届けしましたので失礼します」


 お辞儀が意味不明だった男は自身が虚を衝かれた事に気づき慌てて命じる。


「は? く、曲者だ! 兵達よこの者をひっ捕らえ・・・は? 居ないだと?」


 だが、兵を呼んだ直後、問い掛けてきた者はその場に居らず、きょとんとした男だった。

 すると、男の声を聞いた側近が謁見室に現れる。


「魔王様どうかなされたので?」

「いや、今し方、不審者が入り込んでおってな?」

「はぁ? 不審者ですか?」

「いや、気の所為か?」

「はぁ? それで、この木箱は?」

「うぬ? 気の所為ではない? まぁよいか。それは不審者が置いていった物だ。何が入っているか解らぬが」

「私が開けてみましょうか?」

「うむ。頼む」


 魔王の側近は了承を得たとして木箱を開封しようとした。

 その木箱の表面には別の羊皮紙が貼られており、周囲には魔法封印がなされていた。

 側近は表面の羊皮紙を剥がした直後、燃えて消えた事に驚く。


(な!? い、一体何が収まってるんだ? 木箱の封印と連動しているだと!?)


 そして、厳重に封じられていた封印が一瞬で解けた事に気がついた。

 側近は魔法封印が解けた直後より、中から物音がするとして怪訝となる。


「生き物か何かでしょうか? !? 魔王様!?」

「どうした?」

「う、う、う」

「クソなら便所に行けよ?」

「違います!? 後ろ手に縛られた勇者の一人が詰め込まれてます!?」

「何!?」


 そう、箱の中には勇者が収まっていた。

 魔王の元に一人だけ。装備は一応身につけているが、何の準備もせぬまま敵本陣の真っ只中に居るのだから、勇者の怯え様は半端ない事になっていた。それこそ汚物を垂れ流し涙や鼻水と共に汚らしい姿だった。


「勇者とは・・・我を殺すつもりだったのか?」

「それでしたら、他の神官や魔法使いなども付けるのでは?」

「事情が読めぬな?」

「それでこちらは?」

「牢にでも放っておけ。戦う気の失せる弱者のような勇者なぞ、勇者とは思えぬ故。おって処刑の儀を行う故、それまでは放置一択だ」

「御意」



 §



 その後の彼は外套を羽織った連れの元に戻ってきた。


「ただいま〜」


 彼の声を聞いた連れは大喜びで飛びつくように彼の腕を掴む。


「おかえりぃ〜!?」


 そして彼の左腕を股の間に絡ませ、極めてしまった。


「うわぁ!? ギ、ギ、ギブ!? 極まってるから!! 折れるから!」

「もう! もう少し感じてくれてもいいじゃない!」

「感じるって何がだよ。防具あるから・・・いってぇ〜」


 彼は左腕をさすりながら治療魔法を行使する。

 すると外套の連れは近づきながら耳元で囁く。


「二の腕に感じたでしょ? 私の股の・・・に、く、か、ん。太腿の感触とか」

「ブッ!?」

「鼻血いただきました!」

「止血、止血・・・全く、お前は変わってねぇな」

「変わったのはクロウの方じゃん!」

「仕方ねーだろ? 一度死んだんだから」

「ふふっ。でも再会したよね?」

「まぁな。全く不可思議な縁だわ」

「そんな事を言うなら、次は胸の感触味あわせようか?」

「それはいいから! 報告向かうぞ! 開封証明が控えに焼き付けられたから」

「はーい!」


 そうして、彼等は一様に騒いだのち、森の奥へと消えていった。


 それは、今から数ヶ月前のこと。

 突如目覚めた彼は、呆けに呆けたのだった。

 今この時のやりとりも、その時の事がなければ出来なかった事だった。








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