神、血迷う
どうも、どうも。
私、神様をやらせていただいております。
ずいぶん人が増えましてね、このところ予想外の出来事も多発しておりまして、なかなか忙しい毎日を送っております。
何が大変かってね、こちらが終息を願って色々と手を打っても、それを凌駕する人間のこう、企みというものがですね。
……いやあ、人は神を信じなくなってきてますからね、私の力も、ずいぶん衰えてしまったと言いますか。
人は私のもとで、自由に生きるようになってきているんですよね。
時代は変わりましたね、昔は私の一言がなければ飯を食う事も躊躇したというのに…。
私はあまり拘束を好みませんのでね、基本自由気ままにしてもらっていいのですけれど。
なんといいますか、自由過ぎて私の意図としない展開がですね、相当数繰り広げられていると言いますか。
まあねえ、運命というものは、すべからく、こういう事なのかもしれません。
私がこうしたい、ああしたいと願ったところで、人間自身がそれを望んでいなければ意味がないと言いますか。
私が望む方向に持って行きたいと画策したところで、人は尽く道筋を蔑ろにすると言いますか。
つい先ほども、人類の方向性が0.3度ほど、ずれてしまいました。
……嘆かわしいことです。
……実に、悲しいことです。
あまりにも口惜しかったのでね、私、愚痴を言おうと思って出てきちゃったんですよねえ。
ねえ、ちょっと聞いてってもらっていいですか。
っていうか、聞いてってくださいよ。
つか、お前マジで聞いてけよ!!!
……ええー、コホン。
すみません、ちょいと取り乱してしまいました。
……とある国に、青年がいるんですけれどね。
この人、ものすごく重要な人物だったりするんです、仮の名を…青年Bとしましょうか。
どこにでもいるような、平凡な青年ですけれども、実は、私、この青年Bに、運命を持たせていたんです。
私、たまにこういういたずら?してみたくなるんですよ。
ところがねえー!
この運命がね、ポイと投げ捨てられちゃってねえ!!!
もうね、ホント私、ショックが大きくて大きくて!!!
もうさあ、お楽しみに取っておいたショートケーキのイチゴをパクっと誰かに食われちゃった気分?
いつかものにするぜと狙ってた女子がどこぞのおっさんに搔っ攫われちゃった気分?
つかマジゆるせねえ、もう月ぶっ壊したろか!!
闇夜の中で凹みに足をとられてひっくり返りやがれ!
もちろん一斉停電だ、真の暗闇の恐ろしさを知れやがれ!
……えー、コホン。
運命というものは、基本、人間が自分で切り開いていくように構築されています。
……分かりやすく、料理で説明してみましょうか。
私は、人間が生まれる時に、ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、肉…しょうゆに砂糖…材料と、各種調味料を持たせています。
様々な材料を自分で調理して、肉じゃがに仕上げたり、豚汁に仕上げたり、カレーに仕上げたり、ケーキに仕上げたり…自分の持つもので、一つの料理を完成させる、それがいわゆる運命、人生です。
材料は自分の努力次第で手に入れることもできますが、手に入らない場合もあります。
手に入らない材料を嘆いているうちに、周りの人たちは次々に料理を完成させるという事もあります。
じゃがいもとにんじんしか持って無いのに、必死でケーキを作ろうともがく人もいます。
ブランド牛の最高級肉を持っているのに、せんキャベツを作って満足している人もいます。
材料の中には、早く腐ってしまうものもありますし、賞味期限のないものもあります。
腐った材料で料理を作れば、おなかを壊してしまう料理しか作れません。
たった一つの材料で立派な料理を作る人もいれば、何百という材料を使ってもクソマズい物しか作れない人もいます。
料理を完成させる人も、完成できない人も、明らかに途中なのに完成したと言い切る人も、何も作らない人もいます。
……分かりにくいですか?すみませんねえ、私普段あんまり人間と話さないんで、語彙力ないんですよ。我慢してください。
まあ、ともかく、人ってのは、いろんな材料を持って生まれて、何を作るかは自分で決めてってもらうって仕組みになってるんですよ。
でね、その材料ってのがね、増えるタイミングがあるんですよ。
人間界でも、空前のブームになる食べものとか、いきなり出てきた調理法とかあるでしょう?
タピオカしかり、ナタデココしかり、チリソースしかり、アヒージョしかり、キムチ鍋しかり。
青年Bは、正にこの突如現れるはずだった、空前の大ブームを起こすはずだった材料をですね、持っていたのです!!
私が、彼に、持たせたのです!
……この青年Bは、趣味で小説を書いておりました。
恋愛経験が乏しく、いつか恋をした時のために物語を書き始めたのがきっかけです。
いくつか物語を書いて、完結させ、それをとあるサイトで公開していたのです。
文章を書くことに自信をつけた青年は、前から書いてみたかった、初恋の物語の執筆を決めました。
第一話、第二話と、順調に書き進めておったのです。
その、物語に……間もなく、注目される運命を、持たせてあったんですよ。
この青年の書いた物語、本来の流れでは、映画化されるはずだったんです。
連載第3話目が、恐ろしくいい出来で、とある巨匠の目に留まるはずだったんですよ。
映画化され、この国のみならず世界中で絶賛される映画になるはずだったんですよ。
国という垣根を越えて、人間という生き物全てに感動を与え。
大勢の人々の生き方を変えるきっかけを生み出し。
人と人の間にある、見えない壁を取り払い。
愛は与えるものでも、もらうものでもない、という強烈なイメージチェンジをもたらすはずだったんですよ!!!
ところが!!!
この青年と、なんとなく言葉を交わした知人が、一言、たった一言ですよ?!
「なんかつまんない。才能ないんじゃない。」
この一言で!!!!!
青年Bは、モチベーションを失い!
青年Bは、自身の小説公開ページを削除し!!
青年Bは、己に才能がないと間違った判断を下し!!!
世界を変える物語は、消滅してしまったのです!
世界を変える青年Bは、ただの、ただの……ごく普通の、やや弱気な青年になってしまったのです!!!!!!!!
あり得ません!
マジねーわ!
30億人が絶賛する物語が、そこら辺の日記も書けないようなババアの一言でパアとか!
ありえなす!
こういう逆ミラクルは望んでねーんだよ!
……ええー、コホン。
私のこの愚痴を見た、あなた。
……そう、あなたですよ!!!
あなた、小説、書いてますか?
もし、書いているのであれば。
あなたに、私から、青年Bの運命をお渡ししたいと思うのですが、いかがでしょうか?
あなたに、30億人の絶賛を受け止める気概はございますか?
もし、あなたに、覚悟が有りましたら、私、お渡ししようと思うのですが、いかがでしょうか?
青年が、たったひとりの、悪意ある一言を重く受け止め、運命を変えてしまったように。
あなたも、たったひとりの、神の軽口を重く受け止め、運命を変えてみたいとは思いませんか?
……実はね、今、私、本気で世界を変えたいと願っているんです。
人の、邪魔してなんぼの価値観を、握りつぶしたいと考えているんですよね。
人の、他人の不幸を喜ぶ傾向を、踏みつぶしたいと思っているんですよね。
人の、誰かの運命を叩き潰して喜ぶ未熟さを、芽の出る前に引っこ抜いておきたいんですよね。
青年に持たせた、世界を変える、運命。
あなたに、お渡ししても、よろしいですか……?