SIDE:少年
魔王を倒す者、俺が成りたかった一番の職業【勇者】がこの村に現れるのは、ある意味必然と言えたのかもしれない。魔物が減ると同時に冒険者や旅人達も居なくなり、歴史しかないこの村はどんどん衰退していく一方で、一般村人でしかない農家の息子であるこの俺もこのまま憧れを潰して生きていくんだと、心の何処かでは諦めていた。いつもの様に贔屓の店へ野菜を納品して、帰る。「イツモアリガトウ」なんていうおばさんの言葉を受け流している時、ふと耳に入った噂話。
「なんでも、魔王を討伐する為に『勇者』が任命されたらしいわよ。」
「時々来る、ピンクの…………ああ、変な人だったものねぇ。」
俺は、思わず受け取った金を落としていた。勇者、勇者?! ユウシャって、あの? 俺が成りたかった『勇者』? みんなから称賛されて、注目されて、何してもカッコいいと絶賛される……俺の、夢。悔しかった。やるせなかった。金を急いで拾ってくれるおばさん達に感謝の言葉を吐いて、路地に回って無理矢理吐いた。コレが夢でありますようにと願いを込めて。なんで、勇者ってそんなんじゃ無いだろ? 村で普通に暮らしてきた少年が、ある日突然不幸になって、王城へ行って、王様に認められて与えられる称号だろ? どうして俺じゃないんだ? 俺でも、良いじゃないか。どうして。
「ーーいや、あの、ちょっと通して……」
突然湧く様に煩くなった方へ視線を向けると、ヘンテコな格好に身を包み、ヘンテコな髪型を一つに結んで流して、片方の瞳に眼帯をした青年が、道ゆく人に押し潰されるようにして困った声を上げていた。あれはーーふと、壁に付いた手に何か当たる感触。
『女装勇者、魔王討伐か?!』
そうか、と。ここで俺は考え方を改めた。
「君には【勇者見習い】の称号をあげよう」
予想通りの言葉に笑みを溢す。これでこの人は俺の面倒を見て、勇者へ育てる義務が発生する。俺も旅に連れて行って貰えば、変わるはず。勇者シザリス・リッパー、俺はお前とは違う。『適当な勇者』ではなく、『正統な勇者』として。
「俺も、勇者に成れるのか……!」
コイツは、『俺の師匠として死ぬ役』を与えよう。こうすれば、勇者の話としてはちょうどいいだろう?