第8章 今の思い出 昔の思い出
帰りの新幹線に乗り、一息つく頃には昨夜からの出来事が夢だったような、現実味のないものに感じられていく。待ちに待ったムナカタさんのライブに中学生の体で参戦して、その後ムナカタさんと出会って、一緒にカラオケ行って、その後…。そこまで思い起こして、恥ずかしさが込み上げてきて頬が赤らむのを感じた私は外を見る風を装い、窓のほうに顔を背けた。
ふとスマホを見るとロック画面にTextaの通知が表示され、それはムナカタさんからだった。
「無事に新幹線乗れたかな?僕は新しい動画の撮影中だけど、今はちょっと休憩時間。気を付けてお家まで帰るんだよ?」
確かに別れ際にTexta交換したけれど、本当に送ってきてくれると思ってなかったのでとても驚いた。
「昨日はありがとうございました。ちょうど今、富士山がきれいに見えています。新しい動画楽しみです!動画撮影、頑張ってください。」
嬉しくてガツガツした返信をしてしまいそうだったが、ぐっとこらえて当たり障りのない返事をして様子を見ることにした。
「新富士駅を過ぎたぐらいかな?仕事に戻るけど、何かあったら気軽にTextaしてくれていいよ。またね!」
本当ですか?!いいんですか?!と内心思っていたが、私は深呼吸して気持ちを落ち着かせてから、よろしくお願いしますという可愛い猫のスタンプを返して、Textaを閉じた。
私が降りる駅に到着するまで、あと一時間くらいあるので、いつものようにPABの動画を見ようとYouTurboを開く。トップ画面には視聴履歴に基づいたおすすめの動画が表示される仕組みになっていて、私の場合はPABの動画をよく見ているのでダンス系のものが多かった。中にはイベントなどで撮影された過去のPABメンバーの動画などがおすすめに出ることもあり、お宝を見つけた気分になれた。今日も「munakata」とだけタイトルがつけられた動画を見つけたので早速再生した。画質があまり良くない古そうな動画は男性が自分でカメラをセットしてから、少し離れた場所でブレイクダンスのウインドミルという技を披露して、再びカメラまで戻ってきて止めるという二分くらいの短いものだった。顔すらはっきり分からない動画だったが、その男性がウインドミルを出す前に太もも辺りのズボンをくいっと引き上げる動作にとても見覚えがあった。
「これってムナカタさんだよね?」
動画のタイトルもこの動画をアップしているチャンネル名も「munakata」。誰かが撮影したものじゃなくて自分自身で撮影していることから、ムナカタさんの個人チャンネルかもしれないと思った。動画のアップロード日はなんと今から12年前の2008年だった。動画の中のムナカタさんは今と違ってかなり痩せていたので、顔も映っていない動画ではあの癖がなければ本人だと分からないくらいだった。
そのチャンネルではその他にも同じような動画が20本ほどアップロードされていた。短いものばかりだったので次々に見ていくとその中の半分くらいは同じ場所で撮影されたものだった。それは駅の改札口のようだったが、私はその壁や床の模様に見覚えがあった。その駅は先日倒産した会社の最寄り駅として私が20年以上通勤で使っていた駅だったのだ。