滅茶苦茶仲の悪い義妹と結婚しました、ゲームで
俺には義理の妹がいる。
中学の時に両親が再婚したからだ。
義妹の名前は星川彩。
……そして俺が、妹物がヒロインのラノベを読めなくなった原因でもある。
この義妹が……まったくもって可愛くない! いや、リアルの妹なんてこんなもんなのだろうとは予想していたけど、だからってこいつは酷い!
一緒に暮らすようになったとき、俺なりに歩み寄ろうと声をかけたら「死ね、キモイ、話しかけるな」と返してきたんだぞ?
高校生になった今でも、彩と俺との距離は変わっていない。むしろ、悪くなったかもしれない。
例えば、リビングや廊下ですれ違えば舌打ちだ。
ちょっと目があっただけで睨まれる始末。
恐らく、一生この関係は続くのだろうな、とは思っていたし、向こうがその気なら俺だってわざわざ親しくするつもりなんてなかった。
彩とは今後一生関わるつもりなんてなかった。
そう、そのはずだったのだが――。
スマホを持ったまま、俺たちは向かい合っていた。
彩は一丁前におしゃれをしてこちらを呆然と眺めていた。
場所は駅前だ。
彩の頬はそれはもう痙攣でもしているかのように引きつっていて、俺もまた恐らく同じように引きつっているんだろうと思う。
「兄貴……嘘だよね? ま、まさか、あんたがハット様じゃないわよね?」
「……それは、俺のセリフだ。彩、まさかおまえが……サイちゃんじゃないよな?」
「……」
「……」
お互い、沈黙。
……ハット、というのは俺がプレイしているVRMMORPGのアバター名だ。
そして、サイというのは……俺がゲーム内で結婚した女の子の名前だ。
サイというのは、俺が中学の時から今まで、ずっと一緒に遊んでいた相手だった。
……先日、向こうからリアルで会ってみたいと言われたので、仕方なく会いにきた結果が、今につながる。
このまま沈黙していても仕方ない。俺はぶち切れることにした。
「……何おまえゲームとリアルでまったく違うじゃねぇか!」
「それはこっちのセリフよ! 兄貴だって、ゲームとリアルで全く違うじゃない!」
「う、うっせぇ! ゲームでは滅茶苦茶おしとやかで、滅茶苦茶可愛かったのに! まさかおまえがサイちゃんだったとは思わなかったぜ!」
「またこっちのセリフよ! ゲームでは凄い頼りがいがあって、リーダーシップも発揮して、凄い強くて、いつも私のこと守って、助けてくれてたのに!」
そこまで叫んでから、お互い羞恥で顔を沈めた。
……やべぇな、俺が普段サイちゃんをどう思っていたのかを暴露してしまった。
……サイちゃんは、本当に可愛いのだ! ふたを開けたらまさかこんな乱暴義妹が飛び出してくるなんてパンドラボックスがすぎるよ!
顔を真っ赤にしていた彩が、唇をぎゅっと結んでから……ちらとこちらを見てくる。
「……ねぇ、兄貴」
「……なんだ?」
「……『アームズネバーオンライン』の2は買うつもりなの?」
「……買う、つもりだ」
……俺たちが今プレイしているVRMMORPGはもうすぐ2が発売する。
俺たちがゲーム内で結婚し、リアルで会ってみないかって言っていたのも、すべては2で一緒にゲームをするための打ち合わせをするつもりだったのだ。
……まさか、こんな結果になるとはまったく思っていなかったけどな。
今、めっちゃ気まずい。
だって、ゲーム内のアバターとはいえ、結婚して、キスまでしているんだからな。
思いだしたら、滅茶苦茶恥ずかしくなってきた!
「あ、兄貴! あんたもしかして今、け、けけけけ結婚式のこと思いだしてないでしょうね!」
「なぜわかった!?」
「あたしが思いだしたからよ! い、いや……お、思い出させないでよ馬鹿! ていうか、なんでキスなんてしてきたのよぉ!」
「俺は拒否しただろ!? なのに、おまえが『してください……』って」
「わぁぁぁぁぁ! やめて! 兄貴が相手だからとかじゃなくて、普通に恥ずかしい思い出なんだから馬鹿! それ以上言うな!」
俺の腕を掴んで、ぶんぶん振り回してくる彩。
お互い、それから一度口を閉ざし、深呼吸。
「……帰るわ。それじゃあな」
「……待ちなさいよ」
ぎゅっと、彩は俺の腕を掴んできた。
とても不満そうな顔をしている彼女を見ると、彩は唇を尖らせながらこちらを見てきた。
「兄貴……あたしの学校での立場知ってる?」
「……なんだよいきなり」
「兄貴と違って、それはもうスクールカーストトップを生きる私には、息抜きが必要なの」
ええ、ええ。どうせスクールカースト最底辺の俺には息抜きなんて必要ありませんよ。
「……それでなんだよ」
俺の傷口を抉りたいのなら、もうその辺で終わりにしてほしい。すでにライフがかなり削られてしまったからな。
彩は普段よりはしおらしい様子で頬をかいていた。
「あたしの周りでは、あの……どちらかというとオタク向け、それも男向けのオンラインゲームをプレイしている人はいないの。……誰かを誘うにも難しいしね」
何がオタク向きだ。
17禁のこのオンラインゲームは、確かに肌色多めな女性キャラクターが多く出てくる。
萌え萌えなキャラクターもたくさんいるが、だからってオタク向きとまで言わなくてもいいじゃないか。
「……それで、何が言いたいんだよ?」
「……あたしの、ゲーム友達になりなさい」
「……」
顔を真っ赤にして、彼女はきっとこちらを睨みつけてくる。
強気な態度のまま、彼女はびしっとこちらに指を突き付けてくる。
「あたしのゲーム友達……ハット様としてこれからも! あたしにはハット様として接しなさい!」
何言ってんだこいつ!?
「おまっ! ふざけんな……っ! 妹だと分かってからも、あんなロールプレイングできるか!」
「いいからやりなさいよぉ! ハット様の容姿と性格、あたしのめっちゃ好みなんだから! もう好きすぎて夢に何回出てきたか分からないのよ!」
容姿なんて、組み合わせて作ったもので誰でもできるが!?
ふざけたことを抜かす義妹に、俺は反撃する。
「なら、おまえもゲーム内ではサイちゃんのままで接しろ! サイちゃん、は俺の嫁って言いたくなるくらい気にいっているんだからな!」
「はぁぁぁ!? む、無理! 兄貴にあんな風に接するなんて絶対できない!」
「なら、俺も却下だ! 自分ばっかり都合よくいくと思うなよバーカ!」
よし! うまく回避できた!
まさか、これからもハットとして接するなんてできるはずがないからな!
と思っていたら、彩がうなり始めた。
「……くううう! 分かったわよ! サイちゃんとして接するわ! だから、あんたもハット様を演じなさい! いいわね!?」
「……ほ、本気で言ってんのか!?」
「もちろんよ!! 男に二言はないでしょ!?」
……ま、マジで言っているのかよ!?
彩が言い切ってしまい、引くに引けなかった。
「……わ、わかりました」
「……よろしい!」
ふん、っ彩は鼻息荒く言い切った。
……それから俺たちは、まっすぐに家へと向かって歩き出す。
当初の予定では近くの店で食事でもと考えていたが、そんなことはやめた。
「……それじゃあ、連絡先は星川彩で登録しておくからな」
俺は彩と会うために電話番号を交換していた。
ここで気づけなかったのは、俺たちが滅茶苦茶仲が悪く、連絡先を交換していなかったのが原因だな。
「……ええ、そうね。あたしも星川隼、(バカアニキ)で登録しておくわね」
「なら俺は星川彩、(ゲームの結婚式でキスを強要してくるバカ)で登録しておくからな」
「こ、殺すわよ馬鹿兄貴!? なら、あたしは星川隼、(クールで強いと思い込んでいる精神異常者)にしておくから!」
「だ、黙れ! ……もう、お互い普通に登録しておくぞ、いいな?」
「……そう、ね。これ以上傷を抉りあいたくないし」
俺たちは軽く息を吐いてから、帰宅した。
……まさか、こんな形で義妹と関わることになるとは思ってもいなかった。
これから俺の生活、どうなってしまうのだろうか?
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