夜明けの"S"
流れていく藍色の雲は
白にも黒にもなれなくて
ようやく訪れる暁の光に
どっちつかずのその姿を
恥じ入るように散らそうとする
二人分の温かさが残るベッドの上
星さえ微睡む静かなこの時間に
二人だけの思い出の部屋は
悲しい薫衣草の香りで泣いていた
夢の中の君は幼子のように
立ち去る私に気付くことなく
柱時計の鼓動を子守唄に
朝の光を待っている
「愛してる」と呟く無音の声は
まる春宵の木霊のよう
軋む心音も操り人形みたいに
不自由な鼓動を虚しく響かせる
閉ざしたドアの前で躊躇う演技
再演は期待しないけど
私の幸せは儚く散って
静かに幕は落ちていく
花の香りが思い出したように
未練に乗って追いかけて来たけれど
ドアを閉めたら 夜明けの“SAYONARA”
本作は、ちはやれいめい様主催「フラワーフェスティバル2020!」企画参加作品です。