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Page7:教会と魔術と(前)

 ――ああ、神よ

     汝が我等に試練を科すというのなら、我等は汝から授かった力でそれを乗り越えよう――


 ――おお、神よ

     汝が戯れで我等に災禍を与えるというのなら、我等は汝から授かった力でそれに抗おう――


厳かな雰囲気の中、静かにピアノの音が流れ聖歌が歌われている。

歌っているのは白い法衣を着て壇上に並んで立っている十数人の少年少女。

子供たちの上にあるステンドガラスはそれほど大きくはなく、1人の人と1匹の妖精の様なものが互いに向き合っている構図だ。


俺たちは今、町の中心部辺りにある教会にいる。

俺に魔術を教えるに当たって、俺の属性が何であるかが全く分からない為それを調べることが出来る教会にやってきたのだ。

しかし今はちょうど午後の聖歌の時間だったらしく、やることも無いのでこうして子供たちの歌を聞きながら蒼香と2人で後ろのほうの長椅子に座って待っている。


ただ歌詞を聞く限り、この歌は明らかに神様を敬う様なものじゃないと思うんだが。


子供たちの歌は続く。


 ――我等は子を育み、剣を手に取り、術を昇華させ

     魂と命をして汝に抗おう――


 ――我等は生を喜び、死を悲しみ、愛を慈しみ

     魂と命をもって此処ここに帰ってこよう――



 ――さあ我等の手で始まりの鐘を打ち鳴らそう――



ピアノの音が小さくなっていく。

どうやら終わりのようだ。子供たちも壇から降りて一番前の長椅子に座っていた神父さんに駆け寄っている。

蒼香も立ち上がって子供たちに囲まれている神父さんの方へと向かう。

蒼香が近づいたのが分かったのか子供たちを少しだけ離す。


「こんにちは、蒼香さん」


「お久しぶりです、神父さん」


柔和な笑みを浮かべている神父さんと笑顔で話す蒼香。

周りではしゃいでいる子供たちに対してはピアノを弾いていたシスターが注意をしている。

シスターも中々新鮮でいいなぁ。何より本人が美人だし。

ポケーッ、とシスターを見ていると誰かに蹴られ、殴られ、後頭部をはたかれた。

誰だよ、と思って周りを見ると少年たちと蒼香がこちらを白い目で見ている。


「……」


「……」


「……」


何か言ってくれよ!

直接非難されるより無視されるほうがよっぽど心が痛いわ!

見回していると神父さんと目が合う。


  神父さん、助けて!

  若さとはかえりみない事ですよ、少年。(想像)


かっこいいけど、この場では使えないよ神父さん!

馬鹿なことを考えている間にもどんどん子供たちの目は冷たくなっていく。


「さて、そちらのかた。私について来て下さい」


どうしたものかと悩んでいると神父さんが助け舟を出してくれた。

そそくさと子供たちから逃げるように神父さんについて行き、小部屋に入る。


「ふぅ……、ありがとうございます。助かりました」


助けてくれたお礼を言う。

礼というのは基本的なことだからな。

神父さんの顔を見るとまだ何やら苦虫を噛み潰した様な表情である。


「私のこと、忘れてるのかな?」


あ。



鈍く重い音が教会に響いた。



**********************************************************************************************************

SIDE:Aoka



「ユーキは放っておいて、と。調しらべを行いたいんです」


「それはいいですけれど……。彼は大丈夫なのですか?」


地面に伏しているユーキ。

うん、動いてるから大丈夫。ちょっとやり過ぎたかな? とも思うけどまあ子供たちに囲まれて叩かれるよりかはいいよね。

あ、痙攣けいれんしてる。


「大丈夫です。頑丈ですから」


見なかったことにして何でもないように言う。

神父さんの顔は引きつってはいるけれど、気にしない。


「そうですか……。では、私は準備をしますので」


先ほどのユーキみたいに逃げるように奥の部屋へと移動する神父さん。

本人が言っていたように調の準備をしてくれているだろう。


「うぅ……」


うなされているユーキへと近づく。

うーん、ここまで見事に気絶するとは思わなかったなぁ。

とりあえず頬を突いてみる。

起きない。


「ふぅ……」


横に立て掛けてあった折りたたみの椅子を広げて座ってから一息吐く。


浅木勇輝、私のパートナー。

透明な魔力を持つ、素性も分からない不思議な男の子。

何故かこの人は悪い人ではないと、あの夜に出会った時から感じている。

それは私の虹と対照的な色に惹かれたのかもしれないし、違う要因があったのかもしれない。

だけど私はそんなことよりも、ユーキにある特別な何かを感じるから一緒に居たいと思ったのだ。


……うーん、これじゃあまるで恋する乙女だねぇ。


そんな事を考えて、顔が熱くなるのを感じた。

いや、恋なんてしたことないからこれがどんな感情なのかは分からないけどさ!

決して私が恋をしている訳ではないんだよ!?

誰に言っているのかは分からないけれど取りあえず弁明しておく。



落ち着いて、耳を澄ますと隣の礼拝堂から子供たちの声が小さく聞こえる。

ここの壁は結構厚いようだ。

ユーキもまだ起きないし、調の準備もまだ終わらないだろうから少しだけ魔術の練習でもしようかな……?


椅子から立ち上がり、目を瞑って深呼吸。

自分の体を駆け巡る魔力を認識する為に、自己の深いところまで潜って行く。

自身を1つの魔術の装置として切り替え、形を持たせる為に魔力を練り上げる。

属性は氷、イメージは部屋の中で振り回せる程度の長剣。

ある程度イメージで形が整ったら、そのイメージという鞘・・・・・・・・から抜き放つように右手を振り抜く!



風を切る音が聞こえた。



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