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Page26:暴走と暗闇と

鳴り止まない手を打つ音。

満面の笑みを浮かべながら近づいてくる男を見る。


「素晴らしい! 風・氷・雷・炎・癒。5つの属性を使え、更にそれを合成とは! 私がそれをここに放った甲斐があるというものだよ!」


男を一言で表すなら初老の貴族。何か付け加えるなら、見た目としては真っ当な部類の、と頭に。

黒いスーツにズボン。磨きあがれた革靴を履いてシルクハットなんぞ被っている。

手に持った杖は歩行を補助するための物ではなく、ファッションとか、そういったものだろう。

そんな人物が倒れた牛鬼を挟んでいるとはいえ、直ぐ近くに、しかも突然現れたようにいるのだ。

……待て、さっきこいつは、何て言った?

それを、ここに、放った?

尚も男の興奮したような声は続く。


「いやはや、私の自信作だったそれを壊されて憤慨したものだが、よくよく考えてみれば君の前ではこんなもの玩具に等しいな! 君をもとにすればさぞかし良い作品が出来そうだ!」


つまり、こいつが牛鬼それこの町ここに放った犯人で。


「ああ、私が誰なのか言っていなかったね。人の体をどれ程強く出来るか、その高みを目指して――っと、危ないじゃないか」


「うるせぇ、それ以上その口を開くんじゃねえよ」


この口振りからすると人間を材料にしてやがるっ!

男の演説を止めるために本気で殴りかかったが、男は小さな音を立ててその場から跳んでいた。


「やれやれ。君には用が無いんだがね」


心底めんどくさそうに溜息を吐いて、芝居がかった動作で首を振る。

彼我の距離、約8メートルといったところか。

それにも関わらず男の声が聞こえるのは、周りに誰もいないからであろう。

張り詰められた空気が重く感じる。

重圧、とでも言えばいいのだろうか。

男が纏うにび色の魔力がさらにそれを助長する。


「……あんたの目的は?」


「さっきの玩具のテストだったよ。実戦に耐え得るかどうかの、ね」


生憎壊されてしまったが、と続けて小さく聞こえた。

感情が真っ赤に染め上がっていくのが分かる。

それだけのために、こいつは!


「……さない」


後ろから呟かれた声に全身に悪寒が走った。

俺の感情など上から塗り潰していくような昏い声。


「許さない許さない許さない許さない許さない許さないっ!」


どこの病んでる人だ、てめえは!?

そんな気持ちも露知らず、蒼香は声音と同じような昏い魔力をその身から噴き出させている。

吹き荒れる魔力の余波が地面、壁、さらには家をも破壊していく。

その光景はまさしく――


「暴走……?」


暴走と言っていい。

昏冥こんめいの輝きがさらに膨れ上がりあたりを蹂躙する。


「消えろぉぉぉぉっ!」


喉が潰れんばかりに上げられた声に合わせて昏い光が収束、長大な棒状へと変形させて男へと解き放つ。

暗闇色の光が目の前に溢れて。

――音が、消えた。





「ぅあ……?」


何が起きた?

いまだに戻らない真っ白な視界、グラグラと揺れる頭を押さえて立ち上がろうと力を込める。

……待て、何で俺は倒れている?

もやが掛かったように思考がはっきりしない。

少しずつ視界が戻ってくる。目の前にあるのは――


「なっ!?」


一瞬でもやが晴れる。

先程まであった街並みは何かに一直線に抉り取られ、空虚な空間を作り出していた。

原因など考えるまでも無い。暴走した蒼香の暗闇色の魔術だろう。

そうだ、蒼香は!?

そして気付く。


「ああああぁぁぁぁっ!」


圧縮された嵐の中心で叫ぶ少女。

こうしてみると随分と吹き飛ばされたことが分かる。

さっきまで1歩近づけば触れられる距離だったってのに、ちょっとした徒競走が出来るんじゃないか?

……35メートルってとこか。

距離を測るのが癖になってるな、こりゃ。

苦笑しながら蒼香に向き直る。

蒼香の暴走は止まる気配が無い。それどころか強くなっている気がする。

男の行方も少し気になるけれどまずはこっち。

どうする……?


「はっ。ぶん殴ってでも止めてやるさ」


声に出して確固たる意思に。

はてさて、そうは言ったもののあんな状態の蒼香がそう簡単に近づかせてくれるかな?

体勢を低く、暗闇色の嵐に向かって駆け出す。

――あと20。

まだこっちを認識していない。

――あと15。

魔力の余波で飛んでくる石畳の破片を、体を捻り最小限で避ける。

――あと10。

足全体で地面を掴む様に、体は地を滑り一瞬で肉薄する。

――0!

他を拒絶するように暴風が吹き荒れているが、関係ない。右の拳を握り締めて振りかぶる。

米神を狙った拳が当たる直前に、鈍い音を立てて軋む何かに阻まれた。

壁のようなものがある。

それを認識したと同時に正面を向いていた蒼香の顔が少しだけこちらに向く。

マズイと思うよりも早く、全身を砕くような衝撃。

呼吸が止まり、天と地が回り、無様に叩きつけられる。

だが、問題ない。

手足が千切れたわけでもなく、ただ吹き飛ばされただけだ。


「……この頑丈さは1度調べたほうがいい気がするな」


本気でそう思う。

いつの間にか人間止めてましたじゃ困るんだけどなぁ。

のんきなことを考えながら立ち上がる。ピリピリと肌を刺すような空気が痛い。

どうやら蒼香は俺を敵と判断したようだ。

動いてはいないが、こっちをじっと見ている。

……動かれても困るけど、動いてくれないのも困るな。攻めづらいったらありゃしない。

体の中の歯車を噛み合わせる。

さて、行こうか。

腕をだらんと下げて、自然体に。

先程と同じ、約35メートル。しかし難易度はノーマルからハードへ、と。

馬鹿な思考を止め、縮地。一瞬で最高速度へ。

同時に蒼香からの攻撃。蒼香が纏う暗闇色の魔力が切り離されて、形を変えて飛来する。

数なんぞ数えたくもない。とりあえず雨霰あめあられのよう、とはこんなことを言うんだろう。

スピードを緩めて左へ半歩、加速して右へ2歩、避けられそうにないものは魔力を込めた手で弾く。

後ろでちょっとした爆発のような音がしているが気にしていられない。

足は止められない。

左へ転がるように跳ぶ。右手で顔面に迫るものを弾く。半身になって避ける。背中に掠った。走る。左手で弾く。逆に弾かれてふらついた。腰の肉が削れた。関係ない。足元に着弾。無理矢理跳んで避ける。

きりが無い。

一瞬の合間を縫って縮地で範囲の外へと逃げる。

行き着く暇もなく蒼香の纏う魔力が薄く引き伸ばされ、槍へと形を変えたものが踊りかかってきている。

足りない。

この嵐のような蹂躙劇を前に、この程度では届かない。

さらに速く、さらに強く。歯車を最高速で奔らせ、なお上へ。

突き出される槍が体を掠める。関係ない。

再び蒼香に向かって走り出そうとするが、無理矢理方向を変えて飛び退る。

今までいた場所の石畳に真上から大人の腕ほどの槍が突き刺さり、辺りに石の破片を撒き散らす。

腕で顔を防ぐ。一瞬、しかしそれは今この時において十分過ぎる隙。


「がっ!?」


痛みは左足から。

確認してる暇など無い。いまだに俺の左足を貫いているものを引き抜いて走る。

俺を追うように石畳に突き刺さり抉っていく槍。

こんなのマンガやアニメでしか見たことねえっつの。

ふと、蒼香が何かを振りかぶっているのが目の端に映る。

蒼香から見て俺の後ろは・・・、広場だ。大丈夫だと信じたい。

左足の痛みを無視して全力で蒼香の前から逃げる!


「ぬおおおおぉぉ!」


跳ぶと同時に後ろで轟音が通り過ぎる。

余波だけでも吹き飛ばされそうになるが、何とか踏みとどまって蒼香へと走る。

チラリと、横目で見て確信する。暴走したときに撃ったアレだと。

あんなもん当たったら塵すら残らんわ!

心の中で叫びながらそれでも足は止めない。

追撃は、ない。

激痛が左足を侵すが、多分、最後のチャンス。

全力で縮地。目標は――


「……?」


途惑ったような気配。

それもそうだろう。恐らく蒼香からは俺が消えたように見えるだろうから。

そもそも縮地ってそういうものだし。

ありったけの魔力を集めて、拳を握り締める。


「!?」


気付かれた。だけど、遅い。

こっちはもう手前の真ん前だ、馬鹿野郎!


「おおおぉらああああああぁぁぁぁっ!」


絶叫と共に拳を叩きつける。

壁に阻まれるが、問題ない。魔力で出来ているなら、それ以上の魔力で壊せる!

壁が軋み、ガラスが砕けるような音を立てて割れた。

蒼香が何かをするよりも早く、襟を掴んで引き寄せる。


「いい加減、目ぇ覚ませっ!」


――鈍い音が響いた。


読んで下さっている方、お気に入り登録してくれている方。ありがとうございます。

ようやくユニークが45,000を超えました。

ひとえに皆様のおかげです。

評価が無いのは・・・まあ言ってはなんですが普通ですからね。

頑張ろうと思います。


今更ながらですが、ここ変じゃね?ってところがあれば報告お願いします。


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