表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/35

Page23:【幕間】ギルドと牛鬼と

SIDE:Baldus


この町は3ヶ月振りだったか?

随分と魔物を追っ駆け回してたから、ちと曖昧だ。

腕を組んで、壁に背を預けながら考える。

門の自警隊の奴が言ってた通りにギルドに来てみたが、中は随分と雑然としていた。

ざっと数えただけでも40人程。

椅子もあるが多くはなく、俺も含めて座れない奴らは思い思いに立っている。

ギルドの中が騒がしいのはいつものことだが、やっぱり雰囲気が違うな。

どっちかって言うとここの空気は戦場のそれだ。

全員が、という訳ではないが、それでも大多数が牛鬼ミノタウロスの群れという異常な事態を恐れているんだろう。

近くの奴の声さえ他の声に掻き消されて、その声も俺の耳に届くことなく消えていく。


「静粛に」


突如、響き渡る鈴のような声音がギルドの中を掻き消されること無く通り抜ける。

それまで騒いでいた奴等も波が引くように口をつぐむ。

言霊ことだまか?

やけに耳に残る声だ。


「……ありがとうございます。今ここにいる皆さんは牛鬼の討伐隊への志願者、ということでよろしいですね?」


声の主はギルドの女。

透き通るような銀の髪が肩甲骨辺りまで伸ばされている。

背はそれほど高くなく、体もほっそりとしている。

女は丁寧にスカートの端を摘まんで頭を下げる。


「申し遅れました。わたくし此度こたびの牛鬼討伐の責任者となりました、レイナと申します。お見知りおきを」


ギルドの窓口や受付の女性はお抱えの冒険者だったりする。

レイナと名乗った女もその内の1人なんだろう、自然に溢れ出ている翡翠色の魔力が高い技術力を表していた。


「皆様も知っての通り、本来個体で生息する筈の牛鬼が群れを成して近隣の村を襲っているそうです。我々は牛鬼の巣の発見、並びに殲滅を行います。そこで前衛部隊と後衛部隊に分けようと思うのですが……。この中で近接戦闘での称号持ちの方はいらっしゃいますか? 前衛部隊はその方に指揮を執って頂きたいと思います」


……俺が出ないといかんかね?

パッと見回したが、周りの奴らは良くて白水晶ホワイトクリスタルくらいな感じだもんなぁ。

大人数の指揮なんざ執ったことは無いんだが……、誰かがやる必要があるか。

気は進まないが志願しようと前に出ようとする。


「ランク柘榴石ガーネット、フレアよ。炎拳なんて大層な称号貰ったわ」


若い女の声だ。

声のした方を見ると、ピッタリとした黒いパンツに黒いコート、腰の下辺りまである黒髪を纏めもせずに垂らしている女がいた。

どこの悪の組織の一員だよ。


「そこのあなたは?」


あん?

黒髪の女がこっちを見ている。

誰のことかと辺りを見回すが、ほとんどの奴は俺を見ている。

……まあ、乗りかかった船だ。やってやろうじゃねえか。


「ランク黄玉トパーズ、バルドスだ。鉄槌だとさ」


女――フレアと同じように名乗ってやると答えが気に入ったのか1人で頷いている。

その行動が頭の片隅に引っかかったが、なるほど。蒼香の嬢ちゃんにそっくりなのか。

嬢ちゃんもユーキの話を聞いて満足すれば1人で頷いていた。


「で、どうするの? アタシか、あなたか」


「お前さんが経験あるって言うなら俺ぁパスだ。1人で突っ込んでった方が楽だしな」


「了解、アタシがやるよ。まあ、どうせ連中も勝手にやるだろうし」


確かにこんな数の血の気の多い奴らが素直に言うことを聞くとは思えねえ。

こっちの指示に従うのは精々多くて3分の1ってところだろう。

今も女が――形だけとはいえ――指揮官になったことを喜ばない連中がいるのだから。

胸糞悪い眼しやがって。

自分たちが一番偉いとでも思っていやがんのか?


「よお、姉ちゃん。あんたは本当に強いのかよ?」


ほら来た。

俺でも、女2人のものではない声が投げかけられた。

声のした方を見るとまだ若い3人が固まってたむろしている。

共通しているのは3人が3人とも下卑た笑みを浮かべていること。


「そうねー……。少なくともあんた達を地面に沈めるくらいなら1分かからないわ」


「へぇ、そりゃお強いことで。だけどよ、俺たちは一時的にとはいえあんたに命を預けるんだ。もしあんたがミスして俺たちが死んだりしたら大変だよな?」


「その時はその時よ。死人に口無し、なんて言葉もあるくらいだもの。怖いのであれば帰ってもいいわよ?」


「むしろ今すぐ帰れ。お前らみたいなのが一番邪魔だ」


「あぁ!? 何だと、デカブツ!」


こんな分かりやすい挑発に乗るなよ、ガキ。生きていけねぇぞ?

しかしめんどくせぇな。さっさと終わらせるか。

石よりも金属の方が相性が良いんだが、まあ仕方ねえ。

背後にある石壁に拳を叩きつけて自分の身長の3分の2はあるつちを創り出し、柄の先の辺りを持って頭部を床に落とす。


「で? どいつから潰されたい?」


「意外と短気なんだね」


呆れた様な表情でフレアが言うが、知ったこっちゃない。

どちらかと言えば短気なほうだと自覚しているが、ああいう身の程をわきまえない奴らが嫌いってことの方が大きい。

どうやってぶん殴ってやろうかね。

3人の位置と自分の立ち位置の把握。近くにいる関係ない奴らに被害が出ないようにと考えていると――


「やるなら牛鬼討伐後にして下さい。口が悪かろうが何だろうが、貴重な戦力には変わりありませんから」


冷ややかな声で意識を戻された。

自分の首筋に何かが突き付けられているのを感じて手を上げる。

そもそもギルド内での喧嘩は御法度だしな。

やった奴らは問答無用で粛清。人格が変わるまでボコボコにされるとか、されないとか。

3人組もいつの間にかギルドの他の職員にナイフやらを突き付けられて固まっている。


「分かってくれたようで何よりです。では、フレア様を前衛の、私を後衛の指揮官として、作戦でも「報告! 牛鬼の群れがこちらへ向かって来ていますっ! その数、およそ30!」……無理ですね」


慌ただしく入ってきた青年があまり嬉しくない報告をする。

レイナは大きく溜息を吐いてすぐさま表情を戻す。


「仕方ありませんね、出ます。万が一にもこの町に入らせるわけにはいきません。前衛は適当に2、3人で組んで下さい。死ぬ確立は随分と減らせるでしょうから」


単身で牛鬼1体を討伐することはそう難しいことじゃない。

大きな個体で精々中の上辺りだ。

だが、2体、3体となると話は変わってくる。

下手をすれば傷を付けることも出来ずに殺される。


「ほら、行くよ」


コートをひるがえしてフレアは先を行った。

数字を聞いても平常心か。流石としか言いようが無い。

この中じゃもう戦意を喪失している奴らだっているってのに。

ま、その分頑張ってくるとするか。


フレアさん再登場ー。

果たして覚えている人はいるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ