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Page19:【閑話】 また買い物と再開と

あの後、蒼香は泣き出すわ、それを聞きつけて宿の人が来て誤解されるわで散々だった。

ナイフが刺さった足は凍ってるし。

いや、確かに凍ってたおかげで出血もそんなになかったんだけど。

溜息しか出ないね。


さて、結局俺も一緒に蒼香の父親――あきら――を探しに行くことにさせたのだが、正確な場所は全く分からない。

ただ一言、“祭壇”で待っている、と言われても想像もつかない訳である。どうしたもんかね。


「ユーキ、ユーキっ。これはー?」


「……目のやり場に困る服だな」


試着室から出てきたのは、赤いチャイナドレスっぽい服を着た蒼香。

たけの長さが特別に短いということはないが、大きくスリットが入っているのでスラリと伸びた健康的な脚が見えている。

胸元が少し開いているが、蒼香の慎ましい胸では可愛らしさはあっても色気は無い。


「何か変なこと考えてなかった?」


「いや、何も?」


ヒタリ、とどこからともなく取り出したナイフを首に当てられた。

目が笑ってないぞ。


今何をしていたのかというと、俺のコートを返してもらうまでの暇つぶしという名目の試着会である。

主に蒼香の、だけど。

動きやすそうな短めのパンツ(下着じゃないぜ?)から、どこの貴族かと聞きたくなる様なきらびやかなドレスまで何でも着ている。


「……これ、いつまでやるんだ?」


随分長い間ここで待っている気がするんだけど。

最初は自分も何か着てみようかと物色していたのだけれども、こういうことに興味が無かったのですぐに飽きた。

蒼香は……とりあえず何でも1回は着てみる、みたいな感じで片っ端から服を取っていって試着室にこもっている。


「はいよ、お待たせ」


そう言って店の奥から出てきたのはコートを買ったときにいたおばさん。

前回と同じエプロン姿でコートを持っている。


「あ、終わったー?」


いつの間にやら試着室に入っていた蒼香が顔だけ出して聞いてくる。

さっさと服を着ろ。風邪引くぞ?

おばさんからコートを手渡される。

そでは元通りと言える位に綺麗に直されている。


「あぁ、蒼香ちゃん。ちゃんと直したよ。あんなにズタズタになるくらいのことをしてるんだから、鉄板でも仕込もうかとも思ったんだけどねぇ」


慌てて触って確かめるが、布の感触しかしない。

良かった、改造はされてないようだ。

鉄板なんか入れられたら重くてどうしようもないからな。

羽織はおってみて、不具合がないか確かめる。

全く分からないくらいに修繕されているので問題ない。見た目も、恐らく言われなければ新品と間違えそうな程である。

ここまで綺麗に戻せるのなら、ここの町の人たちは随分物持ちがいいんだろうな。

向こうじゃ破れたりすれば直ぐに捨てるもんなぁ……。

試着室から蒼香が出てくる。

どうやら着替え終わったようだ。


「いくらですか?」


「左袖だけだったからね、銅貨20枚でいいよ」


高いんだか安いんだか、と悩んでいるうちに支払いが終わる。

多分安いんだろうが、相変わらずここの物価は分からん。


「ほら、まだ買うものはあるんだから。さっさと行くよ」


「はいよ」


また来てね、とおばさんの声を背に受けながら外へ出る。

しかし、買うものか。

ゲームのようによろいみたいなものを買った方がいいんだろうか。

さて、考えてみよう。

訓練はおろか、体も鍛えていない一般人が、鎧を着込んで満足な動きが出来るだろうか?

答え……無理。

どれだけ重いのか知らないけど、少なくとも鉄製のものは無理だろう。

皮の鎧とかなら平気だろうか?


悩んだまま歩いていると、後ろから騒ぐような声が聞こえた。

好奇心に釣られて振り向くと、町の入り口の方に体を赤黒く染めた大男が見えた。


「って、バルドスのおっさん!?」


蒼香に一言入れて、慌てて駆け寄る。

上半身は何も着ていないおっさんの右半身は、ペンキでもぶちまけたかのように色付いている。

多分、血だろう。おっさんの血か、返り血かは分からないが。


「ん? おぉ、ユーキか」


「いや、何でそんな普通なんだよ」


片手を上げて陽気に挨拶をしてくるおっさんにツッコミを入れる。

よく見れば血が乾いているし、新しく出ている様子も無い。

おっさん自身が怪我したわけではない、と安堵するがあまり良い気分ではなかった。


「あー、とりあえず洗ってきていいか?」


「そうだなー、目立つし」


おっさんに気を取られてて分からなかったけど、随分人が集まってきている。

どこの世界も野次馬は変らない、と。

そそくさと逃げるように路地の奥へと向かうが、身長が2メートル程あるおっさんが隠れるわけもなく、むしろ目立っていた。




「で、何で血まみれで?」


裏口から宿に入って水場(シャワー室のようなもの)を使わせてもらい、1階の食堂の円卓に着いて経緯の説明をしてもらおうとしている。

おっさんの鍛えられた上半身が自己主張しているが、無視。

別に野郎の裸を見ても楽しくない。


「……まぁ、ちょっとしくじってな」


武器の素材が獲れる貴重な魔物の噂が流れたそうだ。

それを聞きつけたおっさんは、一目散に現場へ行って徹夜で待っていたが魔物は現れない。

明け方に盗賊の集団に襲われ、徹夜でフラフラだったおっさんは力加減を間違えて何人か武器の頑固な汚れにしてしまう。

近くに水場も無かったので返り血も流せず、そのまま戻ってきた、と。


まとめるとこんな感じか。


「なんとまあ、典型的な罠で」


「やっぱりそう思うか?」


おかしいとは思ったんだよなぁ、とぼやいている。

偶然ってことも有り得るが、タイミングが良すぎる気がする。

……その所為で何人か犠牲になったんだが。


「……殺したことには何も言わないんだな」


「ん? ……まぁ、俺がやったわけじゃないってのもあるけど、そういう世界だってことも頭には入ってるから」


実際、殺さなければ殺されるってことも経験したし。未遂だけど。

正直すぎるだろ、と笑われたけど本音だから仕方ない。

蒼香は口を開かずに眉をひそめている。

頭で理解してても納得出来ないんだろう。


「嬢ちゃんは、ダメか」


「……はい」


耐えかねたおっさんが蒼香に話を振るが、一言で終わってしまう。

いや、場を持たせるというより確認か。


「嬢ちゃんはあれか、魔物とかでもダメか?」


「…………少し」


先程よりも長い沈黙の後の返事。

いや、でもお前、肉とか普通に食べてたし、あの狼だって――


「肉とかは食うのは平気なのか?」


「……はい。それと同じことだとは、分かっては、いるんですけど」


大きく息を吐くおっさんに対して、縮こまっていく蒼香。

何か、厳しい父親に叱られているちょっと真面目な娘みたいな感じだな。

おっさんはその大きな手で蒼香の頭を乱暴に撫で付ける。


「別に価値観を押し付けてる訳じゃねえんだ。そんなに縮み上がらなくてもいい。

 嬢ちゃんにだって譲れないもんがあるだろうしな。

 ただ、あれだ。大切なものはひもを繋いででも護っておけよ?

 失った後になげいたって戻ってはこねえからな」


「……っ、はい!」


蒼香は呆けた顔をした後に元気良く返事をした。

笑って俺を見ている蒼香。

こっちみんな。正確に言うと俺の首辺りを見るな。

席を立って、少しずつ近寄ってくる。

手に何を持っている。紐っていうか縄だろ、それ。

蒼香の手にはいつの間にか頑丈そうな縄が握られていて。

恐くないよじゃねえよ。普通に恐いわ。

目は笑わずに、ゆっくりとにじり寄って来る。

ちょっ、おっさん笑ってないで助けてくれよ!?

近くにいる味方には見放され。


「さ、これつけて」


青色のアクマがワラッテいた。





俺はノーマルだ!


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