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Page13:白と赤と

――世界は白に――

またあんたか。

――子供たちよ、私の言葉を――

今日はいつもの愚痴は無いんだな。


――ええ。私とあの子は、違うから――


いつもの優しげな声から一変し氷の様に冷たい声が聞こえ、ぞわり、と全身に寒気が走った。

何だこいつは。

顔も姿も分からないあの人と似ている気がするが、決定的に何かが違う。


――あなたがそうなのね――

……何の話だ。

――お人形さんと一緒にいるだなんてあなたも物好きよね――

……何の話だと聞いているんだが?

――知らないのね、可哀想な子。でも――



―― こ こ で 死 ね ば 関 係 な い わ よ ね ? ――


死神ガ持ツヨウナ大キナ鎌デ、オレノクビヲ――


白の世界を赤が染めていった





「ユーキ、しっかりしてっ!」


蒼香の声だ。

いつの間にかつぶっていた目を開けると、蒼香の顔と青い空が見える。

……空が見えるってことは倒れてるのか。

最後だけやけにはっきりと見えたな。

白い人、大きな鎌。

体を起こして首をさするとヌルリとした感覚がする。

案の定、見てみると赤い液体である。


「良かった、目を覚ました……。光が収まったと思ったら倒れてるんだもん、ビックリしたよ」


安心からだろう、息をついている。

俺の首の怪我には気付いてないようだ。


「……蒼香は、見てないのか?」


「え、何を? って、血出てるよ!?」


蒼香は慌てて荷物が置いてあるところに行く。

もしもの為に簡単な治療道具はいつも持っているということなので、それを取りに行ったのだろう。

しかし、あれを見たのは俺だけなのか。

近くにいたから蒼香も見ているかと思ったんだが、どうやらハズレのようだ。


――お人形さんと一緒にいるだなんて――


言われた言葉を思い出す。

くそっ、一緒にいるって言ったらあいつしかいないじゃねぇか。

人形だとか好き勝手言いやがって。

大体何なんだよ、あいつは。

いきなり襲い掛かってくるなんておかしいだろ。


理不尽な出来事に怒りが込み上げてくるが、ぶつける相手もいない。

小さく、短い間隔で足音が聞こえてくる。

蒼香が戻ってきたようだ。

手にはタオルと小さなウエストポーチを持っている。


「首、見せて」


顔を少しだけ上に向けて見やすいようにしてやる。

血をタオルで拭いて傷口を見ている。


「傷は深くないから大丈夫だろうけど……何でこんなところを」


恐らくあれに斬られたんだよな……。

……待てよ?

何で俺は生きてるんだ?

あれは本気で俺を殺す気だっただろう。

実際に首に傷が出来ているのだから影響が無いわけではない筈だ。

なら、なんで俺の首は繋がっていて、こうして生きていられる?


「どうしたの? 恐い顔して」


「……いや、何でもない」


話そうと思ったが、どうしても『人形』という単語が頭から離れなかったのだ。

いや、人だろうが人形だろうが怪物バケモノだろうが、蒼香は蒼香以外の何者でもないのだから俺には関係ない。

だけど――

何も出来なかった。

あいつが言っていた『人形』、それが示しているのが蒼香だと理解しても、自分の体は指先すら動かなかった。

ヘビに睨まれたカエル?

違う。

例えるなら自然の雄大さを見たとき自分が小さな存在だと感じるような、そういうもののたぐいだった。


「はい、お仕舞い。きつくない?」


「ああ、大丈夫」


治療はあっさりと終わった。

触ってみると分かるが案外しっかりした巻き方で、きつくも緩くもない。

俺も高校で応急処置は一通り習ったがここまで短時間で綺麗には出来ないだろう。

器用なんだな。

人は見掛けによらないとは言うが、本当にその通りだと思う。

見た目どおりのアホの子だと思えば手先が器用だったり。

……魔術を使えるってこと以外は普通の女の子なんだよなぁ。


「何がいけないんだろうね?」


「え?」


マズイ、何も聞いてなかった。

反射的に蒼香の方を見たはいいが、そこから続かない。


「ユーキのことなんだからちゃんと聞いててよ」


「悪い……」


他の事を考えて聞いていなかったのは確かなので素直に謝る。


「それで、何だって?」


「何でユーキは魔術が使えないのかって話だよ」


グサリ、と言葉のとげが刺さる。

まさかそんなにストレートに言われるとは思ってもみなかった。

そりゃあ使えないけどさ、もう少し言い方ってものが……。


「正確に言えば、魔術の発動は出来ているんだ」


「ん?」


ネガティブな思考の途中、蒼香の声で引き戻される。

魔術の発動は出来ている?

なら、足りないものは制御?

だけど制御が出来てないからって「使えない」だなんて言うか?


「魔術の構成は仕方ないとして、発動もしてるし特別に制御が必要な魔術でもなかった。魔力量が足りないって訳でもなさそうだし、本当に何が原因なんだか分からないよ」


俺が思い当たることはあの夢しかない。

1回目は暴走、2回目で殺されそうになり、じゃあ3回目は……?

2度あることは3度あるなのか、それとも3度目の正直なのか。

もう一回あれに会ったら死ぬよな、俺。


「じゃあラスト1回。これで出来なけりゃ魔術は諦めよう」


「……いいの?」


死にたくないからな。

毎回あれが出てくるんじゃ命がいくつあっても足らんわ。

それに、ただのワガママだった訳だしな。

使えなくても悔しいだけで、困ることはない、筈。


目を閉じて、集中。

思い描くのは小さな光の球。

魔術を使う為に体の中の歯車を噛み合わせて回す。

始めはゆっくりと、少しずつ速く。

体中に熱が湧き上がるのを感じる。

体の中を駆け巡る、教会で属性を調べたときにも感じたモノ。

あの時は分からなかったけど、今なら分かる。

これが、魔力。

巡るチカラを右手へと集める。


ひかりは消えず、かげを照らす

 幻想ゆめと知りながら、尚も追い続ける』


目を開き、しっかりと差し出すように突き出した右手を見据えて


ひかりよ、灯れ――』



閃光。


辺りを真っ白な光が包む。

眩しいが、左手を目の前にかざして光が消えるのを待つ。

数秒程して光は消えた。


「出来た……のか?」


実感など全くない。

残ったものもなく、ただ呆然としている。

それこそ夢だったのではないかと疑ってしまう。


「凄いじゃん! あれだけ出来れば上出来だよ!」


唐突に背中を叩かれた。

不意に貰った一撃は結構痛い。

蒼香を見ると満面の笑みで俺の背中を何度も叩いている。

……そうか、出来たのか。

徐々に嬉しさが込み上げてきた。


「でも何で出来たんだろうね? 詠唱も教えてないのに」


出来たのは、きっとあの白い空間に行ってないからだろう。

詠唱は……分からない。

先程、蒼香を真似した様なものではなく、まるで知っていたかの様に自然と口遊くちずさんでいたのだから。


「まあ、細かいことはいっか! さっきのイメージを忘れないようにね」


「はいよ」


蒼香に返事はしているが、別のことを考えていた。

あの白い空間のことである。

何が原因で向こうに行くんだ?

あいつらは誰なんだ?

何で殺されかけた?

疑問は尽きない。

だが答えてくれる人もいない。


「まあ、魔術が使えただけでもよしとしようか」


俺の呟きは風に吹かれて消えていった。





******************************************************************************************************


「やられたわ……まさかあの子が私に歯向かうとはね……」


白い空間に女がいた。

白い肌、白い髪、白い服。

全身が白で構成されている。

違う色を挙げるとするなら、女の瞳の赤と、右腕から流れ出ている鮮血だろう。


「あんな人形と人間に何を望んでいるのかしら。あなたを救えるのは私だけなのに……」


声に狂気が混じっていく。

右腕から鮮血が飛び散っていても気にした様子はない。


「そう、あなたを救えるのは私だけ。アハッ、アハハハハッ!」


言葉はいつの間にか笑い声となって空間に響き渡る。

床に散った赤は少しずつ消えて無くなっている。


後に残ったのは誰もいない白い空間と一振りの大鎌、そして血に塗れた右腕であった。


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