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Page12:魔術と訓練と~その2~

あー、疲れた。

あの後、薬やら何やら買いに行ったのだが、買った物の大部分を俺が持って宿に戻ったのだ。

そういえばここの通貨は銅貨、銀貨、金貨の3種類のようである。

銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚分だ。

ちなみにバルドスのおっさんから貰ったミスリルの指輪は最低でも金貨50枚分らしい。

ここの小さな家1軒の値段の相場が分からないから何とも言えないけど、向こう換算だと、1000万だとして50で割るんだから……金貨1枚で20万。

20万を100で割って銀貨1枚2000、それを100で割るから銅貨1枚20円。


……んん?

服屋で買ったコートが銀貨1枚でお釣りが返ってきたんだから2000円以下な訳で。

向こうなら2万以上したっておかしくないのに。

物価の違いか?

リンゴみたいな果物も1つ銅貨2枚だったし。


「ほら、手が止まってるよ!」


「ぬあ、冷たっ!」


蒼香の怒鳴り声の後、頭に衝撃。

顔が濡れている。

あの野郎、動くのが面倒だから水の魔術使いやがった。

今何をしているかというと町の空き地で俺は剣の素振り、蒼香が少し離れたところで魔術の練習である。

買い物が終わったのが昼を少し過ぎた頃。

その後遅めの昼食でその時点で2時。

そこから依頼を受けると帰ってくるのが夕方になってしまうとのことで、今日のところはこうして修練に励むことにしたのだ。

受ける依頼にもよると思うのだが、何も訓練していない状態で外に出るのは恐かったので言わないでおいた。


「ふっ!」


「重心の移動を意識して、全ての動きがつながる様に!」


相手の左肩から斜めに斬り下ろす袈裟けさ斬り、突き、えぐりながら引き抜き右足を1歩引きながら右肩から斜め、逆袈裟に切り払う。

右足に力を入れてもう一度前へ踏み込む、が唐突にカクン、とひざが落ちる。

剣が落ち、重い音が聞こえる。


「限界、かな」


「……そうらしい」


蒼香が近寄ってきている。

手にも足にも力が入らない。

膝立ちは面倒なので、そのまま寝っ転がる。

あー、きっつー。


「1時間半。正直ここまで持つとは思ってなかったよ」


俺も自分で驚いてるさ。

1キロ程度の物でもそんな長い時間振り回すだなんて、もやしっ子の俺には到底出来ない筈なのに。

だけどまあ、限界はあったようで。

魔術で身体能力の強化?

それとも身体能力の底上げか?

考えたって分からないがそんなところだろう。


――風が吹く


良い風だ。

少しだけだが体の熱を冷ましてくれた。


「まあ、毎日続けることだね。継続は力なり、ってね」


「ああ、そうだな」


ここに来てから妙に体が軽いというか、無駄なく使っているというか。

お得な特典とでも思っておけばいいのかね。

右手を目の前に持ってきて、握ってみる。

体力の回復も早くなっている。

いや、早すぎるくらいだ。


「休憩終わったら魔術の練習ね」


「りょーかーい」


転がったまま手をパタパタと振って応え、そのまま大の字になって空を見上げる。

陽は少し傾いてきているが、それでもまだ3時半。

雲もまばらにあるが、周りに高い建物も無いので澄んだ青空がよく見える。

あっちの世界じゃこんな風に空を見上げたこともなかったな……。


『集う火は風に包まれ緋となりて、天をも焦がす剣とならん!』


炎の魔術か。

蒼香のほうを見ると予想通り、炎が燃え上がり赤い柱となっている。

あー、また失敗か?


『っ! 術式霧散ディソルブスペル!』 


蒼香の元へと集まっていた炎はコントロールを失ってそのまま荒れ狂う波と化す。

波が蒼香をも飲み込もうとしたその時、透明な魔力が放たれ業火を消し去っていく。


――術式霧散

コントロール出来なくなった魔術を消すための魔術。

魔術師は初歩的な魔術とともにまずこれを出来るようにするのだとか。


俺はまだそこにも到達出来ないがな……。

体を起こして胡座こざをかき、目を閉じて集中。

蒼香は言っていた。

今の俺は、例えるなら電気の点け方を知らない子供なのだと。

要するにスイッチが分かっていないのだ。

だから自己の深いところまで潜って自分の回路を認識するべきだ、と。


そんなこと言われたってやり方は全く分からないんだけどな。

とにかくイメージだけでも形作る。

しかし、スイッチねぇ……。

スイッチっていうとドクロマークがついた自爆用の物しか思い浮かばないんだけどなぁ。

魔術を使う度に毎回自爆か?


『術式霧散!』


おー、俺が数えただけでも今日8回目だな。

蒼香で思い出したが、確かあいつのスイッチの入れ方は自分を魔術の回路そのものにすることだったか。

俺は何だろうなぁ……。

ゴロン、と再び寝っ転がる。


「まだ決まらないの?」


いつの間にか蒼香が隣に立っていた。

言うまでもなくスイッチのことである。


「影も形も出来てねえよ。お前はどうやってスイッチに気付いたんだ?」


「うーん、どうやってって言われてもなぁ。暴走の後からいつの間にか使えるようになっていたとしか」


「あ……、悪い」


教会での出来事と、蒼香の慟哭どうこくを思い出してしまい、少し気まずい。

しかし蒼香は首を横に振っている。


「ううん、もう大丈夫だから」


蒼香の顔に暗い影はなく、むしろ晴れやかである。

……強いんだな。

絶対に言葉にしてやらないが、素直にそう思う。

この心境の変わり様の原因は分からないけど、少なくともいい方向に向かっているはずだ。


しかし困った。

スイッチに関しては何も分からず仕舞いである。

地道に頑張れってことなんだろうか。

早めに使えるようにしておきたいんだけど。

主に俺の身の安全の為にな!

……自分で言ってて情けないなぁ。

これ以上考えていてもいい方向には行かなそうだから話題を変えるか。

目下、気になっていることといえば……


「お前はどうなんだよ。出来そうなのか?」


「私? うーん、まだ何とも言えないかな……」


今話しているのは魔術を習う時に一番初めに言ってみた合成魔術のこと。

少なくとも俺は出来そうにないので蒼香にやらせてみている。


「出力が異常に上がっちゃうから制御が難しいんだよね。私の普通の状態より10倍近く跳ね上がるからなぁ……」


おい、どこまで完璧超人になるつもりだ。

火力が低いのが欠点だったのにそれすら無くなるってどこのチートだ!

少しはその才能をよこせ!


「まあ魔力がごっそり持って行かれるから、今の私じゃ2,3回使えれば良い方だよ」


「さっきからずっと練習してたじゃねえか」


さっきも言ったが俺が数えただけでも8回練習しているんだ。

魔力が足りないってことはないんじゃないか?

蒼香は首を横に振る。


「さっきまでは制御を全く考えてずに出力だけ上げる練習してたからそんなに負担もかからなかったの。だけど私の場合大きな魔術を制御するときは何かしらの武器の形にしなきゃいけないから」


「何で?」


思い出してみれば、俺が見たことのあるこいつの魔術は属性は違うが槍と剣だ。


「あぁ、その説明もしてなかったね。魔術にはそれぞれ性質があるんだよ。その性質の他に特別な性質があったりすると特性、ってね」


確かに冒険者の登録のときにそんな欄があった。

で、その特性とやらが蒼香の魔術に関係している?

つまり――


「魔術を武器の形にする特性?」


「うん。正確には武器の形にしか出来ない、だけどね」


燃え上がる音と熱気を立てて蒼香の右手に小さな赤い光が生まれる。

火のナイフか。

よく見てみると、普通の炎のように燃え上がるだけでなく刃物としての形が整っている。


「特性“武具”。私はかなり選択肢が広い部類なんだけど、それでも広範囲殲滅せんめつ魔術みたいなことは出来ない」


その代わりに接近戦は得意な方だけど、と付け足してナイフを消した。

要するに近〜中距離の魔法戦士?

でも出力の問題をどうにかすれば弓やら何やらで超遠距離から狙撃とか出来そうじゃね?

考えれば考えるほどチートくさい才能の持ち主だな。

しかし、特性は分からないにしたって基本性質くらいは知っておいたほうがいい気がする。


「とりあえず基本性質を教えてくれ。今は何でも知っておきたい」


「いいよー。まずユーキの属性の“光”は開放、かな? 詳しくは後でね?」


「はいよ」


「次に“火”ね。燃焼、もしくは加熱。あ、基本性質って言っても複数あったりするから私が知らないものもあるかも知れないよ?」


ふむふむ、火は燃焼と加熱。

そのまんまだな。

これなら他の属性も分かりやすそうだ。


「“水”は浸食、“風”は発生、“土”は造形、“氷”は冷却と凍結、“雷”は伝達、“闇”が収束。

……知ってるのはこれくらいかな」


微妙に分かり辛いものがあるがそれは後で聞こう。

敵を知り、己を知れば百戦危うからず、っと。


「それで開放は……、何て言えばいいかな?」


蒼香は両手を胸の前にあげる。

それはまるで壊れやすいシャボン玉を包み込む様に、優しげな手つきである。

白い光が蒼香の体をおおっていく。

白は恐らく光の属性の特有色なのだろう。


ひかりの精霊、満ちて溢れよ』


蒼香の両手の間に光が集まって球体となる。

光の球がサッカーボール程の大きさになった直後、突然光が強まり視界を白に染め上げていく。

目がチカチカして痛い。


『開放――』


蒼香の言葉と共に光の柱が生まれ、空へ昇って消える。

互いに無言のまま、時間だけが過ぎていく。

……え?


「結局何だったんだよ?」


「私もよく分からない」


……。

立ち上がるのも面倒なので手招きして近くに呼ぶ。

蒼香の頭に手が届くようになったのでとりあえず軽く引っ叩いておく。

鈍い音がするからちゃんと中身は入っているようだ。


「何すんのさ!?」


「いや、あんまりにもバカっぽかったんで中身の確認を」


魔術の使いすぎで頭が回らないのか、それとも最初からこういう奴だったのか。

……多分後者だろうなぁ。

まだ何か言っている蒼香の言葉を聞き流して自己の中へと潜る。


――恐らく開放っていうのはそのままの意味だ。

蒼香がやって見せたのは例なのだから、そのまま・・・・やってやればいいだけの話。

両手を胸の前に。

スイッチ?

そんなもん知らん、何とかな……らないだろうけど、今は無視。

後は、唱えるだけ。


ひかりの精霊、解き放たれよ』


カチリ、と何かが噛み合う音がする。

手の中に、小さな光が生まれる。


『開放――』


「えっ?」



――世界は白に――

――子供たちよ、私の言葉を――


更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

生きてますよー。


読んで下さってる皆様方、ありがとうございます。

お時間があれば、どんなものでも構いませんので評価や、感想を頂けると嬉しいです。

でわでわ。

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