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Page11:登録と買い物と

ドアを通って中を見回してみると案外すっきりとした内装だった。

白を基調とした壁に、落ち着いた感じの木のテーブルや椅子。

どうやら奥はちょっとした酒場になっているらしい。

手前は恐らく依頼や申請を受けるカウンターなのだろう。4人ほど受付嬢と思われる人たちが傭兵たちの相手をしている。


「一番奥の列に並んで。説明はしてくれると思うよ」


終わったらこっちに来てね、そう言って蒼香はさっさと手前から2番目の列へと並ぶ。

一番奥。

3人しか並んでいないところである。

とりあえず言われたとおりに3人の後ろへ並ぶ。

結構簡単な手続きのようで割とあっさり俺の番までやってくる。


「お早う御座います、冒険者の登録申請ですね?」


「あ、はい」


「ではこちらの用紙に記入をお願いします」


そう言って紙とペンがカウンターに置かれる。

何々?


まずは名前。 ユーキ、と。

年齢。 17。

魔術師か、錬気師か。 一応魔術師。錬気師って何だろうな?

魔術師の場合は属性を記入。 光、と1つだけ書く。

また、ある場合はその特性を記入。 ? 分からないから空欄、っと。

戦闘経験。 ……無しでいいか。



……。

とりあえず書ける欄は書いた。

受付のお姉さんに用紙を渡す。


「はい、ユーキさんですね。年齢は17、魔術師で属性は光、戦闘経験は無し、特殊技能も特に無し。間違っていませんね?」


頷く。


「では、ギルドの説明をしましょうか?」


「是非」


「かしこまりました。我々ギルドは世界各地に存在する大型の冒険者、及び傭兵登録所のようなものです。市民や国からの依頼を受け、成り立っています。冒険者の方々にはそれぞれランク分けされており大きく下位、中位、上位とそれ以上の4つとなっております。あなたは戦闘経験も無いようなので一番下のランク、下位の黒石ブラックストーンです。ランクを上げるためには自分のランクの依頼を10個、もしくは自分より高いランクのものを5個完了し、報告すること。それ以外では自分より上位の魔物を5体倒し、その証拠をこちらへ持って来ることです。ちなみに、あまりにランクが離れている依頼を受けることは出来ませんのでご了承下さい」


ふむふむ。

まあ大体予想できる範囲内だな。


「ランクの細かい区分は?」


「下位は下から黒石、青石ブルーストーン赤石レッドストーン白石ホワイトストーンです」


下位は、ってことは中位と上位は違うのか。

ただ、大体同じように区切られているだろうから、下位から上位だけで約16段階か。

上位になるのに何年かかるんだか。


「1つずつしかランクは上げられないのか?」


「自分のランクと同じランクの依頼を受けていた場合は1つずつです。しかし自分より2つ以上高いランクを受けていたり、危険度の高い魔物を狩っている場合はその限りではありません」


他には……


「自分より上のランクの人と一緒にいる場合はどのランクの依頼まで受けられるんだ?」


「基本的には一緒にいる人と同じランクまで受けられます。ただし、あまりにもパーティーの方々に迷惑を掛けていたり、ギルドの方から見てあまりにも力や経験が不足している場合は我々から処分や注意の通告が行きます」


……どうやって分かるんだ?

ギルドの情報収集能力がそれほどまでに高いのだろうか。


「もうありませんか? では、こちらのカードをお持ち下さい」


手の平に収まる大きさの鈍い黒色のカードが手渡される。

そこには俺の名前や年齢、属性などが書いてある。

いつの間に……。


「こちらが証明書になります。無くさない様にして下さい」


これで終わりです、と営業スマイルで見送られる。

うーん、それほど時間は掛からなかったな。

蒼香は、と見てみると2番目で蒼香の後ろには並んでいない。

しょうがない、行くか。


「終わったぞ」


近づくと前の人の申請も終わったらしく、蒼香の番である。


「こちらは旅団手続きです。今日はどのようなご用件で?」


先程のお姉さんと同じ営業スマイルで迎えてくれる。

うーむ、スマイルは無料ただっていっても向こうではしてくれなかったりするからな……。

仕事をするのに愛想が悪いのはどうかと思うね。


「新規に旅団を作りたいんですけど」


「では、こちらの用紙に必要事項を記入して下さい」


渡されたのはさっき俺が書いていたものよりも1回りほど大きな紙。


「じゃあここに名前とランクを書いて」


蒼香からペンを受け取って言われた通りに書く。

こいつのランクってどれくらいなんだろうな?


「はいよ」


用紙を返す。

蒼香は用紙に色々と書き込んでいくが、聞かれることもないので俺は口を出さない。

ほとんど書き終えて、最後の項目で蒼香の手が止まる。

覗き込むと、旅団名が書かれていない。


「何がいい?」


こちらを向いて聞いてくる。

うーむ、名前ねぇ……。俺にそんなことを聞くとは……、何だか格好よさげな漢字を並べたようなものしか思いつかんよ。


「ま、何でもいいよ。私は思いつかないから」


お前の夢の第一歩がそんな適当でいいのか……?

少しだけにらみつけてやるが特に気にした様子も無く、飄々ひょうひょうとしている。

名前、名前……。

ふと思い出したのは蒼香の魔力の色。

お世辞にも綺麗とは言えない、あの色。

それをこいつは自分で虹だと言ったのだ。

だったらあんな色じゃなくて、本物の虹の色になるように――


「イリス」


確かどこかの国の言葉で虹って意味だった筈だ。

ついでにアヤメの花って意味もあった気がする。


「どこの国の言葉か忘れたけど“虹”って意味だ」


「虹……」


いんを確かめるためだろうが、呟くのは止めろ。恐いっつうの。

やがて呟きも消える。


「うん、いいね。イリスに決定!」


空いていた最後の欄に鼻歌混じりで書き足していく。

随分と上機嫌なんだが、思い当たることも無い。

こいつコロコロ機嫌が変わるよな。

何だっけ、変わりやすいのは乙女心と秋の空だっけ?

むしろ蒼香の心と秋の空にしておいてくれ。


「えー、旅団の新規作成、旅団員は青水晶ブルークリスタルのアオカさんと黒石のユーキさんの2人ですね。冒険者証明書を見せてください」


先ほど受け取った黒いカードを見せる。

蒼香の物を見ると、鮮やかな青いカードである。


「はい、結構です。では確認致します」


読み上げていく言葉に1つずつ頷きを返す蒼香。

俺は今横から見てるけど、きっと後ろから見たら寝そうになって頭をカクンカクンやっている感じに見えると思う。


「最後に、旅団名“イリス”。よろしいですか?」


「はい!」


元気のいいことで。

俺はもう立ってるのもめんどくさくなってきたよ。


「では、こちらの旅団証明書をお受け取り下さい」


渡されたのは冒険者証明書と同じくらいの大きさのカード。

色は透き通る雪の様な銀である。


「説明は必要でしょうか?」


「お願いします」


「かしこまりました。えぇと、利点かどうかは分かりませんがその旅団へ直接依頼がくる、ということでしょうか。その依頼は我々ギルドを介さないものですから自己責任となりますが、ここで依頼を待つだけよりも効率的に仕事をこなせますね。そして冒険者のランクとは別に旅団のランク、まあ知名度のようなものです、があります。もちろんランクが高ければ良い仕事や危険な仕事がきますね」


うん?

ギルドを介さないってことは――


「その、旅団が直接受けた依頼はギルドの方、例えば個人のランクとかには何も加算されないのか?」


「そうですね。例えどれだけ危険な仕事を受けたとしても基本的にこちらの記録には残りませんから。それにギルドを介さない、ということはそれをするだけの費用が無いか、またはギルドに頼めないような仕事であるとか。そんなものの方が多いです」


良い事ばかりじゃないんだな。

つーか、聞いてると悪い事の方が多い気がするぞ?


「しかし、うわさの力とは侮れないもので。ある程度こなしていくとギルドにもその噂が入ってきます。その噂がギルドに頻繁に入ってくるようになった時、我々が審査を行い、信用に足る旅団であれば資金の援助などを受けることが出来るようになります」


なるほど、ギルドからの援助はありがたい。

生活だろうが旅団だろうが金は必要になるからな。


「何かご質問は?」


「いや、今のところは無いから、分からないところがあったら聞きに来るよ」


「そうですか。ではあなた方に良い巡り合わせがあることを願っております」


登録完了、っと。

あの程度ならまだ頭に詰め込める範囲内だ。

次は……


「少し依頼を探してみる?」


「いや、その前に服を買ってくれないか? 流石にこれじゃ動き難い」


学ランのままだから脚に余裕がないし、それほど強度があるわけでもない。

蒼香は俺の体を上から下まで見回す。


「そっか、色々必要な物があるもんね」


そう言ってギルドから出る蒼香。

俺を置いていくなというに。

必要な物、ね。

薬や携帯食料とかかね。

そういえば。


「お前はナイフとか持ってなくていいのか?」


こいつ丸腰のような気がするんだが。

そう思い、蒼香のこれまでの格好を思い出してみるが、どこにもナイフなんかの刃物や身を守れそうな物は無かったと思う。

いくら魔術があるからって何も持っていないのは緊急時に危険だろう。


「あぁ、大丈夫。私はこれがあるから」


ほら、と言って取り出したのは小ぶりのナイフ。

刃渡りは15センチもないだろう。

特に何か細工がしてあるという訳でもなく、無骨な感じがする。

つーか今どこからこれを取り出した!?


右手にあった筈のナイフはいつの間にか消えていて、そうかと思うと左手にある。

視線を外していないのにも関わらず、気付いたときには左手に握られていた。

回転させるように上へ放り投げ、一番高く上がり下がってくる時には消えている。

そうこう見ているうちにまた無手へと戻る。


「ふふ、ちょっとした特技なんだ」


誇らしげに笑う蒼香。

悔しいが全く種が分からない。

さて、遊びはこのくらいにして、と。

服屋や武具屋はギルドの向かいと隣に建っている。

武器・防具は当たり前だが、冒険者や傭兵からの需要の方が圧倒的に多いためだ。

蒼香が言うにはちゃんと町の人用の服屋も町の中心にあるらしいが、今のところは町の外に出るための服が欲しいのでそちらには行かない。

武器は一応バルドスのおっさんの剣があるからいいとして、俺たちはギルドの向かいにある服屋へと入る。


「いらっしゃい」


恰幅かっぷくのいいおばさんが挨拶をしてくれる。

ここの店員なのだろう。

エプロンを掛けて、ポケットからは採寸用のメジャーが見えている。

店の内装は、売っている物が冒険者や傭兵用ということを除けば自分の世界とほとんど変わりない。


「どんな物をお探しで?」


「動きやすくて頑丈な服を」


それぐらいしか思いつかん。

採寸をしてもらって、少し時間が掛かると言われたので適当に店内を見る。

荷物を多く持てるってのも魅力的だけどそれだけ動き辛くなりそうだし。

いや、荷物を多く持てて、なおかつ動きやすいってのは一人旅とかで重要だから普通に売ってるか?

あぁ、でも金を出すのは俺じゃないからな。

最低限の機能があれば十分だ。

安ければなお良し。


しかし、まあ色んな服があることで。

誰が買うのか分からないような物凄くキラキラした服とか、機動性が全く期待できないような全身を覆うフルプレートもある。


「はいよ、こんなんでいいかい?」


声をかけられて振り向くとさっきのおばさんが若草色のコートとズボンを持って立っていた。

一見すると普通の服にしか見えないが……?

いつの間にか蒼香が手に取って見ている。


「うん、しっかりした作りになってるし、中々いいと思うよ」


「試着してみても?」


どうぞ、と了解を得たので試着室に入り学ランを脱ぐ。

む、このコート、内側に何個かポケットがあるな。

羽織ってみるとそれほど重くも無く、むしろ軽い方である。

続いてズボン。

少し余裕があり、走ったりしても問題無さそうだ。

試着室内の姿見で格好を確認するが、いかんせんファッションに気を使ったことがないのでよく分からない。

とりあえず聞いてみるか。


「蒼香ー、っ?」


カーテンを開くとそこには今日着ていたパーカーではなくドレスを着た蒼香がいる。

髪の色とは反対の鮮やかな赤。

胸の上から膝上までピッタリとしたラインで、すそが広がっているマーメイドドレスである。


「……何でそんなもん着てるんだ?」


「え? いや、あったから?」


……相変わらずこいつの思考回路が分からん。

いや、確かに綺麗だがな?

ただ、やっぱり普段のイメージからか可愛いの方が強い。


「何か言ってくれないの?」


「……まあ、似合ってるんじゃないか?」


何で疑問系なのよ、と言われるが照れ隠しだ馬鹿野郎。

元も良いから結構似合ってるんだよ。


「ユーキも中々似合ってるよ」


そうか、それだけ聞ければ十分だな。

後はインナーを何枚か買えばいいかな?

学ランは……、売るか?

そもそも買い取ってくれるのか?

そこまで考えて頭を振る。

まだ元の世界に返ることを諦めたわけではないのだ。

その時まで持っていなければならない。


「えーっと、いくらなんだ……?」


「あ、払うよー」


蒼香がおばちゃんに銀貨を渡している。

ここの金の価値も知らないんだよな、俺。

後で聞かないと。

知らないことが多すぎるな……。

仕方ないといえば仕方ないんだが、それで済ますつもりもない。

試着室に置きっぱなしだった学ランとズボンを畳んで持ってくる。

もちろんバルドスのおっさんから貰った指輪の小箱は今着ているコートのポケットに移し変えた。


「まいど。お兄ちゃん、蒼香ちゃんを大事にしてやってくれよ?」


「はい?」


何だそれは。

まるで俺たちが恋人同士のような――


「ち、違います! ユーキはただのパートナーです!」


最後まで考える前に顔を真っ赤にした蒼香の叫び声でかき消された。

うん、なんだろう。間違ってはいないけど複雑な気分だな。

蒼香はおばちゃんにからかわれながらお釣りを貰っている。

どうでもいいけど、そのドレスはちゃんと返しておけよ。




はあ、こんなんで大丈夫なのか……?


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