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Page10:朝食とその前に

夢を見ている。

こっちの世界に来てからよく見る夢だ。

真っ白な空間に1人だけポツンといる。

立っているのか座っているのかも分からない。

ただそこにいる、という感覚だけがある。

そしていつもそこにいる人――


――や、■■。また来たんだ。

その人が誰を呼んでいるのかは分からない。

――聞いてよ、また仕事増やされたんだよ! 信じられない!

ただ毎回愚痴を言われるんだよなぁ……。

――上が相変わらず人使い荒いのよね。逃げようかしら。

なんかお役所仕事してるみたいだよな。

――あ、逃げればいいのか。気付かなかったわ。

……毎回こんな調子だし。

――うーん、じゃあ近いうちにそっちに行くから、よろしく!

え、ちょっ、待って。

――ほら、呼んでるよ? 行ってあげな。

だから――



「待てっつーに!」


「あ、起きた」


チチチチチ、と小鳥特有の高い鳴き声が聞こえる。

今日はいい天気らしく、陽の光が室内にまぶしいほど入ってきている。


またあの人か……。一体誰なんだよ。

今までは気にも留めなかったが、流石におかしい。

元々夢を見ない(覚えてない)人間だ。

だけどこうも立て続けに同じ夢?を見たら何かあると思ってしまう。


「蒼香、今何時だ?」


「8時。朝ご飯食べようよ」


ちゃっかりと椅子に座っている蒼香に尋ねる。こいつ部屋の鍵使って入ってきやがった。

格好は水色の半袖のパーカーと紺の膝上のスカートである。

青い色がよく似合うことで。


腕を上げて、体全体を伸ばす。右手の肘を掴み、頭の後ろへとやる。

肩を回してみる。大丈夫、問題ない。

ベッドから降りて屈伸。膝が鳴ったけど問題ない、昨日の後遺症は無し、と。


「着替えるから、先行っててくれ」


「うん、下で待ってるよ」


パタン、とドアを閉める音。

ま、着替えるっつっても学ランなんだけどな。

ハンガーに掛けてある俺の服を取る。

着替えを買わなきゃマズイよな……。


通し慣れた袖に腕を入れる。

面倒なのでボタンは留めずにそのまま。

ポケットの小さな箱の存在を確かめて洗面所兼トイレへと向かう。

部屋についている洗面台で顔を洗い、口をゆすいでから、用を足す。

つーかこの世界、何でも魔術で補ってるからそんなに機械とか無いのな。

今使っている水道も、魔術で動いているらしい。原理は分からんけど。


壁に立て掛けてある幅広の剣ブロードソードを手に取り、鞘に入れたまま見よう見まねで正面に両手で構える。

これも使えるようにならなきゃ持ち腐れだよな。

元の場所に立て掛けなおし、今持っていくものが特にないことを確認してから部屋から出るドアへと近づく。


部屋から出て廊下を抜け、階段を下りていく。

ここの宿屋は3階建てで、1階は主にギルドの人や傭兵たちが使う食堂。

2,3階が宿屋となっている。

俺たちが使っていたのは2階の階段に近い2部屋。

理由は、まあ俺が動けなかったからなんだが。

ここに着いたのがまだ早い時間で、部屋が空いていて本当に良かったと思う。


流石に人が多いな……。

4人掛けの木製の丸テーブルを囲んでいくつものグループが座っている。

蒼香を探してみるとカウンター席に座っている。

ここでは色んな髪の色が見れるけど、それでも青い髪って見つけやすいね。

あいつ以外に青い髪はまだ2人しか見ていない。


蒼香の横に腰掛ける。

まだメニュー見てるし……。

何でもいいだろうに。俺もメニューを見てみる。


この世界の言葉や文字は不思議である。

ひらがなやカタカナ、漢字があると思えば、全く読めないミミズがのた打ち回った様な文字もある。

蒼香がいうには後者は古代文字だそうで、別に読めなくても生活に支障は無いとのこと。


パラパラとメニューをめくる。

ん、普通に朝の定食でいいわな。

メニューを閉じる。


「決まった?」


いつの間にか蒼香はメニューではなくこちらを見ていた。

決まらないんじゃなくてわざわざ俺を待ってたのかよ。


「朝定食」


「わかった。お姉さん、朝定食2つ!」


はーい、とカウンターの奥の厨房からいい返事が聞こえる。

朝食が出来るのは少し時間が掛かると思う。


「なあ、光の魔術ってどんなもんなんだ?」


その間に蒼香に色々聞いてみることにする。

無の属性は手探りでやるしかないのだから後々やるとして、光の属性は確認できているのだから練習もしやすいだろうという考えである。


「うーん、小さなあかりを点けることから始まって、光の矢や槍を作ったり、かな」


こんな感じだよ、と蒼香は人差し指を天井に向ける。

薄っすらと白い光が見えてくる。

昨日の神父さんの光よりもかなり薄い。


ともれ』


蒼香の呟きとともに人差し指から少しだけ離れた場所に小さなあかりが発生する。

照明が点いているから分かりにくいが、光の球体が確かにそこにある。


「これが出来てようやくスタートラインだね」


グサリと言葉の矢が突き刺さる。

どうせ初歩も出来ない未熟者だよ。


「でも、これくらいならコツさえ掴めば1日かからずに出来たりするから、そう悲観することはないよ」


蒼香よ、お前は忘れていることがある。

森の中で初歩の初歩すら成功の兆しが見えなかった俺に、そんなことを求めるのは間違っているんだよ。

昨日のあの後、ここに着いてから体が動かないのでベッドの上で自分の中にある魔力を感じ取ろうとひたすら唸っていたのだが、結果は惨敗。

少しも進歩は無かった。


「ふふっ、まあ焦らない焦らない。気長に頑張ればいいんじゃない?」


へいへい、気長に頑張るとしますよ。

厨房から若いお姉さんが盆を持って出てくる。


「はい、朝定食2つお待ちどう様!」


俺たちの前にどこででも出るような朝食のメニュー、オムレツやハムなどの軽いものが乗った皿と主菜―魚だった―が置かれる。

さて、まずは朝ご飯としますかね。




しゅーりょー。

オムレツが美味しかった。

お姉さんも綺麗だし、ここが繁盛してる理由も分かる気がするね。

時刻は9時を少し過ぎた頃。

店内の人は少なくなってきている。

蒼香はアイスのようなデザートをようやく完食したところである。

ちなみに追加メニューである。


「うん、じゃあそろそろ行こうか」


「その前に口を拭こうな」


アイスが着いているぞ。

ハンカチを差し出して、着いている部分を指差して示す。

慌てて俺のハンカチで拭っているが、何と言うか微笑ましいな。


「で、昨日言ってたギルド、だっけ?」


拭き終わったのを確認してから問いかける。

ハンカチを返そうとしてくるが、俺が持ってるのは何となく変態くさいので持たせておく。


「そう。ギルドでユーキの冒険者の登録申請と私の旅団の申請しなきゃいけないから」


うーむ、冒険者か。

それだけ聞くとゲームみたいだよな。

覚めない夢を見ている気になるけど、それは自分で自分を否定するようなもんだからな……。

まあ、今俺は確かにここにいるのだからそんなことはないのだけれど。


「じゃあ行こう、登録が終わった後はユーキの魔術の練習か、簡単な依頼でもやってみようよ」


「はいよ」


代金を払って、店を出る。

ここの町は北から南へと縦に長い構造で、宿は南の大通りに面して建っている。

宿から出て右手に進むと町の外の方へと、左手に進むと教会がある広場へと行ける。

一応言っておけば広場を通り抜けて進めば、北からも町の外へと出られる。

気性の荒い傭兵たちが町のど真ん中で喧嘩を起こされても困るため、ギルドは町の南の外れ、つまりここから右手の方である。

ちなみにバルドスのおっさんがいた露天の通りは南側の、大通りから1つ外れた道だった。


「着いたよ」


プラプラと歩いて着いたのは十字の文様が描かれている看板が掲げられた、2階建ての石造りの建物。

筋骨隆々の男たちがその建物から入れ替わり立ち替わり出たり入ったりしている。

うーむ、むさ苦しそうだな。

しかし入らないわけにもいかない訳で。

深呼吸、深呼吸。


「? ほら、入るよ」


ちょっ、まだ心の準備がっ!

ズルズルと引きずられて行く俺。

なんか既視感を感じるな……。




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