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Page8:教会と魔術と(中)

目を覚ましたら蒼香が剣を振り回しているのが見えた。

蒼香は剣なんて持っていなかったから魔術で作ったのだと思う。


思わず息を呑むほど、蒼香の魔術は綺麗だった。

蒼香が持つ剣は薄らと青みを帯びている。

いや、剣だけではない。蒼香自身、青い光を纏っている。

ん? 青い光?

もう一度、今度はよく見てみる。

だが確かに、纏っている色は蒼香が言っていた虹ではなく青である。


「ふぅ……」


風を切る音が止む。

どうやら終わったみたいだ。

蒼香の手から剣が消え、次いで体に纏っている青色も見えなくなる。


「なあ、何で虹色じゃないんだ?」


「うわぁ!?」


休んでいるところで座ったまま声をかけたら驚かれた。

何でだ。

そんなに俺が嫌いか、お前は。


「あ、ごめん。考え事してたから気付かなくて」


申し訳なさそうに謝ってくる。

こいつがこんなに素直だなんて珍しいな。

この町に着いてからは謝られることなんて無かったなぁ……。

ドナドナされたし。


「で、何だっけ?」


「だから、お前の色だよ。虹じゃなかったのか?」


もう一度聞く。

分からないままにしておくと気分悪いからなぁ。


「あぁ、それはね――」


「準備が出来ましたよ」


神父さんが入ってくる。

ぬあぁ、一番気になるタイミングで割り込まれた。


「ちょうどいいや、向こうで説明するよ」


そう言って、蒼香は神父さんが出てきた部屋に入っていく。

神父さんを見ると手招きをしているので俺も入れってことなんだろう。

ドアを開けて待ってくれているのでさっさと向かう。


部屋に入ると中央に石造りの台座、部屋の四隅にも台のような物がある。

蒼香が中央の台座の近くにいるので俺も向かう。

台の上は器のようになっていて、水が滾々こんこんと湧き出ているのが分かる。


「見ててね?」


台の横に立っていた蒼香が水の中に手を入れる。

水の色が少しずつ変わっていく。

だけどこれは……。


「虹って言うか、混沌としてるな」


虹って言うのは普通、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7つの色が見える。

だけど水の色はそれどころではなく、たくさんの色が混ざり合って何とも言い難い色になっている。

もっと綺麗な色が良かったんだけどね、とぼやく声が聞こえる。


「で、さっきユーキが見たのはこの色でしょう?」


蒼香がそっと息を吐いて何かを呟く。すると合わせる様に水の色が混沌としたものから青だけになっていく。

あぁ、さっき見た色だ。

鋭いような、冷たいような青である。


「“氷”の属性の特有色ですね」


黙っていた神父さんが俺に向かって言ってくる。

青は氷の属性なのか。

だったらさっき蒼香が持っていたのは――


「氷の剣、か」


「正解」


よく出来ました、と褒めてはいるが素直に喜べん。

蒼香は濡れた手をハンカチで拭いている。


「私だけなのかは分からないけど、何か属性を使っているとその属性の色だけが表層に出てくるんだよね」


普通は混ざり合って出てくる筈なんだけどなぁ、と首を捻っているのだから、蒼香自身、なんでそうなるのかは分からないのだろう。

神父さんが俺の横に来る。


「あの水は魔力を通しやすく、また影響されやすいものなんです。だから自分の属性が分からない人たちはみな、教会へ来てこれに手を浸していくんです」


そのまま触媒としても使えるんですよ、と補足説明もされる。

で、俺もあの水に手を入れろってことだよな?


恐る恐る右手を伸ばす。

指の先が水の表面に触れる、が何も起こらない。

そのままゆっくりと手首まで入れる。


「ふむ……」


神父さんが声を漏らすが、特に何もない。

泣きたい。


あれか、俺の不思議ぱわぁが足りないとでもいうのか!?

駄目で元々、蒼香から教わった最初の練習をしてみる。


イメージする。

自分の体にあるチカラを右手に集める。

ただ集めるのではなく、体をめぐって最終的に右手へと行く感じだ。

右手に熱がこもっていくのを感じる。

集められたチカラは放出され、世界へと還っていく。


「あれ、色が……?」


何か聞こえるが今の俺に反応する余裕など無い!


イメージする。


――ノイズが走る――


――その■の人は優しく微笑んで、こちらを見ている――

  「ねえ、■■。私のお願い、聞いてくれるかな?」

――何も無い空間。白い世界がずっと続いている――

  「そう、良かった。私ね、疲れちゃったんだよ」

――誰かは珍しく溜息を吐いて、気だるそうな感じである――

  「大体なんで私が事後処理だとか組み直しだとかやらなきゃいけないのよー?」

――いや、俺に聞かれてもどうしようもないんだが――

  「あ、ごめんねー。最近■たちがうるさくってさー」

――何だか大変そうである。というか何なんだここは――

  「そうそう、お願いだったね」

――俺の意見は無視か――

  「私を、私たちを■して――」



頭に重い衝撃。

その後、倒れたようで体にも鈍い衝撃がくる。

組み立てていたイメージが崩れていく。


「ユーキ! ストップ!」


蒼香が叫んでいる。

うん、出来れば殴る前に言って欲しかった。

側頭部がズキズキと痛む。


「で、何だよ?」


体だけ起こして蒼香に聞く。

途中でそれたけど、それまでは結構いい感じだったと思う。

その証拠に右手がまだ熱い。


「何だよ、じゃないよ! こっちは危うく消し飛ばされるとこだったんだからね!?」


「は?」


辺りを見回す。

部屋の中で台風が起きたかのように荒れている。

何が起きたんだ……?


「あなたの魔術が暴走したんですよ」


座って壁に寄り掛かっている神父さんが言ってくる。

よく見れば神父さんの服が所々切れてボロボロである。

これが、俺の魔術の暴走で……?


「これぐらいで収まったんだからいい方なんだよ? 暴走して町が無くなるだなんてよくある話なんだから」


「……マジで?」


驚いて聞くと頷いてくる。

鈍痛が頭に響く。痛い。


「ですが、あなたの属性もその危険性も分かりましたし。何よりこれだけの被害で済んだのです、よしとしましょう」


散らかった部屋を見回しながら神父さんは言う。

いや、もう何かすみません。

って――


「属性分かったのか?」


こんなことを起こした直後に聞くのも何だが、それでも聞きたい。


「……“光”と“無”の属性」


言いにくそうにしていた蒼香が口を開く。

光と……無?

光は分かりやすい。

あれだ、光の矢とか、なんか主人公みたいな感じのもんだろ?

だけど無って……。


「ちなみに主要な属性は無の方だから」


分かりにくい方かよ……。

蒼香は何か知らないのか?


「“無”の属性は私も今まで見たことがありません。御伽噺おとぎばなしの中だけのものだと思っていたのですが……」


神父さんが驚いた表情でこちらを見ている。

何か微笑んでいる以外の表情は似合わないな、この人。

しかし御伽噺、ねぇ。


「具体的にどんな属性なんだ?」


「御伽噺にあるようなことだけですが……いいですか?」


頷く。

今は少しでも情報が欲しい。

あの、誰だかわからない人も気になる。

ポン、と手を叩く音が聞こえる。


「その前に片付けようか」


蒼香は笑っている。

あの顔は恐らく俺にほぼやらせるつもりだ。

俺がこんな風にしたのだから文句も言えないが。



……逃げたい。



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