ヤンデレメイドを屈服させます
三作目
湯婆婆と打とうとしたら予測変換に百合えっちと出てきて戦慄したので初投稿です。
『生徒会長さん。これ、どういうことでしょうか?貴方には彼女がいたはずなのですが、女性の、それも教師とホテルに入っていくなんて…』
『ひっ、な、なんでそれを。や、やめてくれ!それを公にする事だけは…!』
『では、土下座して下さい。そして、私は篠崎様の従順なる下僕ですと宣言して下さい』
『なっ!?そんな馬鹿な事が出来るか…!』
『では、ばら撒きます。学園生活と、彼女の人生にお別れするのが良いでしょう』
『う……わ、分かった!やるから!やるからばら撒くのだけは……』
「くふふ、良い。良いです。生徒の見本である生徒会長。信頼も厚い彼が無様に土下座しながら赦しを乞う……凄く興奮します…」
篠崎 雛菊は赤に彩られた天蓋付きベッドに腰を下ろしながら、昼間に納めた動画を見て恍惚とした表情を浮かべた。
雛菊が多くの子会社を束ねる篠崎グループの令嬢であるということは、多くの人間が知る事実だ。
しかし、親の七光りという訳ではない。腰まで伸びた艶やかな黒髪と、猫のように大きく開かれた瞳。すらっと伸びる鼻筋に鮮やかな桃色の唇は、大和撫子を体現したような清楚な佇まいを助長する。
篠崎家の長女として生まれ、幼い時から英才教育を施されてきた彼女は容姿だけでは無い。品行方正、温和怜悧、質実剛健を地で行くハイスペックぶりを発揮する。
社長令嬢という地位を歯牙にもかけず人々と接していく様から非常に人気が高く、正に理想のお嬢様といった具合だ。
しかし、そんな彼女だが、一部の人間からは名を聞かせただけで震え上がるほどの恐怖の対象とされている。
その理由は雛菊の持つ性癖。その被害にあったからだった。
雛菊は社長令嬢であるために、強くあることを教えられてきた。人を利用し、踏み台にし、下に付かせる。そんな教育を長々と続けられていた。
結果、拗らせた。
人間を、特に高い地位や力を持つ人間を地べたに這いずらせて、無様に懇願する様を見る事に快楽を見出すようになっていたのだ。
「くふふ、これで四十九作品目ですね。お父様に始まり、沢山のペットを手に入れてしまったものです」
【奴隷】と名付けられたアルバムに、今日の生徒会長が加わった。普段は威厳ある人物達の情けない土下座の姿が映し出されている。
雛菊はご満悦の表情を作る。しかし、彼女の欲望は止まることを知らない。
「さて、さっそく五十作品目に取り掛かりましょう」
奴隷を作り終われば、次の奴隷へ。
雛菊は歪に口角を釣り上げると、ベッドから立ち上がってデスクへと移動する。次の獲物は決めてあり、そして長い間楽しみにしていた相手だった。
構えられているパソコンを見る。次の獲物の姿が、ありありと映し出される。
『お嬢様………』
映し出されているのは、とある部屋。その中央では、白と黒を基調にしたひらひらのメイド服に身を包んだ少女が切なげに声を上げていた。
多摩 玲。昔より雛菊の専属メイドとして働いている少女だ。
セミロングの亜麻色の髪と、小動物を思わせる小柄な身体と顔つき。しかし、胸部には二つの立派な丘が立っており、いわゆるロリ巨乳というワードが当てはまる少女。
『ああ、お嬢様。今日も可愛らしく美しく可憐で美麗で壮麗でとにかく素晴らしかったのです。私の語彙力ではお嬢様の素晴らしさを語れないのが悔やまれるのです』
取り憑かれたように言う玲の視線の先には、部屋中に貼り付けられた雛菊の写真。幼少のものから最近のものまで無数。
玲はしばらくの間、うっとりとして両頬に手を添える。しかし、突如豹変するように瞳から光を失わせると、爪を噛みながら呪詛を紡ぎ始めた。
『しかし、お嬢様に近付く輩が最近多過ぎる気がするのです。多少の接触なら許容してやるのですが、明らかにスキンシップ過多な人間が見受けられるのです。許せない、許せないのです。玲の宝石に触れる屑共、どう始末してやろうか。お嬢様もお嬢様なのです。御身が世界より価値のあるものと理解していないのです。やはり、厳重に閉じ込めて保存するのが一番良いのです、そうに違いないのです』
その後もブツブツと鬱憤を吐き出し続ける玲を監視カメラ越しに見て、ぱっちりと開いた瞳に愉悦を孕ませて満足げに頷いた。
「くふふ、順調に拗らせていますね。私の事が好き過ぎるヤンデレちゃん」
幼い時。幼稚園でいじめられていた玲を救った時から、二人の関係は始まった。
内気で臆病。家では親同士の喧嘩が絶えず、行く場もなくずっと泣いていた彼女に、玲は見兼ねてメイドという立場を与えた。
当時の雛菊はまだ特殊な性癖に目覚めていたわけではなく、単純な善意で玲を助けた。
雛菊に救われた玲は、それはそれは努力した。彼女の居場所は雛菊の隣しか無い。絶対に捨てられる訳にはいかず、努力家な雛菊ですらびっくりの成長速度で力を伸ばした。
結果、玲はメイドとして一流の力を手に入れ、暗い雰囲気を取り払いちゃんと人間関係を作れるようになっていったのだが、深層意識にはしっかりと刻まれた。
【お嬢様を失えば、私も終わり】と。
玲はその感情を凄まじい雛菊への執着へと昇華させ、ヤンデレメイドが誕生してしまった訳である。
それを知った雛菊はーーーこれは使える、と歓喜した。
漫画や小説で見ても、ヤンデレキャラというのは不思議と強い。
雛菊はその理由を失うものが無いからだと判断した。好きな相手意外に興味が全く無いから、しがらみに縛られない。だから、普通の感性を持つ人間より遥かに身軽で、強い。
つまり、
「ヤンデレ。好きな相手にしか執着せず、他を疎かに出来るからこそ強い。そんな相手を屈服させれば、どれほど心地良いのでしょうか」
という思考に雛菊が至るのは当然だった。
そして近くに都合良く、一人自分のことを好いているヤンデレがいる。利用しない手は無かった。記念すべき五十作品目を、長い付き合いである彼女で飾ろうというのも自然だろう。
「そうと決まれば、早速明日発破しましょう」
焦らしは既に十分。あとは少しつついて暴発させるだけ。下準備も終えてある。
雛菊はくすり、と妖しく笑んだ後に、明日を想いながらパソコンを閉じるとベッドへと歩んでいった。
*****
「玲、聞いてくれますか?私、好きな人が出来たんです!」
「………え?」
玲との登校中、雛菊は導火線に点火した。
玲の瞳からはみるみるうちに光が失われていく。しかし、お嬢様の前で異変を悟られる訳にはいかないと踏んだのか、笑う。しかし目が全く笑っておらず、チグハグさが不気味。
「ダレ、なのデスか?」
「恥ずかしいから教えないわ。けど、玲にはもしもの時の相談に乗って貰いたくて。私の一番信頼するメイドですから」
「ナラ、教えてくれても良いのですよ?私は口が硬イのデス。相手が分かッテいたほうが、処理が簡単なのでス」
「教えないったら教えないわ。出来るだけ自分で解決したいの。玲に頼るのは、行き詰まった時にするわ」
「そう、なのですか。畏まりました」
これ以上の追求は従者としてふさわしくないと判断したのか、玲は引き下がる。しかし、雛菊の後ろでは怨念篭ったオーラを醸し出しており、雰囲気だけで人を殺しそうだ。
学校に着くと玲は雛菊を教室まで送る。二人には多くの挨拶がかけられ、雛菊が愛想良く答えると、その度に玲の怨嗟は増していった。
教室に着くと玲はもう堪え切れないとばかりに雛菊に告げる。
「雛菊様、少しお手洗いに行って来るのです」
「ええ、分かったわ」
雛菊は社交的な笑顔で玲を見送った後、耳にイヤホンを装着する。ホームルームが始まるまで時間があるため、音楽でも聞いて時間を潰すーーーと、いうわけではない。
それは、玲の襟元に仕掛けた盗聴器から送られる音声を伝えてくれるものだった。
『コロ、シテヤル。コロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤルッ!!お嬢様の心を私から奪ったのです…命を奪われても仕方ないのですそうに違いないのです間違いないのです……ッ!!!。……ソウダ、やっぱり閉じ込めて仕舞えば良いのです。誰の目にも触れさせない、私とお嬢様だけの楽園で退廃的な余生を送るのです。今まではお嬢様の意を組んで自由にさせてきましたが…流石にオイタが過ぎるのです。ああ、なんて素晴らしいのですか!早速しましょう!そうしましょう!」
雛菊は盗聴器を切ると、くすりと笑みを浮かべた。良かった、ちゃんと爆発したみたいだ。
玲は本気だ。このままだと、間違いなく雛菊を監禁しにくる。しかし、そこまで雛菊の計画通りだった。雛菊には、玲に監禁された上で勝利する算段を持ち合わせているのだから。
「くふふ、放課後が楽しみです」
仕掛けて来るとすれば、放課後のティータイム。恐らく睡眠薬でも混ぜて雛菊を眠らせ、玲が独自で開発している地下室へと引きずり込むつもりだと踏んでいた。
雛菊は敢えて、それに乗る。
相手がこちらを術中に嵌め、絶対優位を確信した状態。自分の方が強いという勘違いを正したその瞬間こそが、最も気持ち良いと確信していたから。
「………………」
玲は、無言で襟元の小さな盗聴器を見つめていた。
***
雛菊はうっすらと、目を開けた。
視界に入るのは薄暗い部屋。コンクリートの壁しか見えない。
体は動かず椅子に縄で縛り付けられていた。指と足の先くらいしか動かせる箇所が無く、頑丈な拘束であるとすぐに分かる。
その二つから、雛菊は直ぐに理解した。ああ、連れてこられたのだなと。朧げに、玲が用意した紅茶を飲んだ後に強力な眠気に襲われたのを覚えていた。
計画通りに事が運んでにやけそうになる。しかし、バレる訳にはいかない。雛菊は大きな瞳を不安に揺らす演技をしつつ、震えた声音を上げる。
「こ、ここはどこですか?体が動かない…誰か、誰かいないんですか!」
外面は悲痛な叫びを上げる少女。しかし、中身はこれから訪れる勝利に酔う狼。
弱気な声という餌に釣り上げられ、子羊ーーー白黒のメイド服を見に纏った亜麻色の髪の少女が現れる。その顔は、幾度となく見てきた玲のもの。
作戦は、成功だ。
「れ、玲!助かりました。この拘束を解いて貰えますか?」
「…………嫌なのです」
「どうしてですか!…まさか、貴女が私をここに?」
「…………………」
「答えてください!!」
部屋に甲高い声が反響する。それを合図にするように、俯いていた玲は髪の間から虚ろな瞳を覗かせるように顔を上げた。
「お嬢様が、いけないのです」
「私、が?」
「お嬢様が他人と話すのがいけないのです。お嬢様が他人と触れ合うのがいけないのです。お嬢様が私の想いにいつまでも気付かないのがいけないのです。お嬢様が、想い人が出来たなどというのがいけないのですっ!!!お嬢様がお嬢様がお嬢様がお嬢様がっ!!」
「何….を…」
狂ったように叫ぶ玲。悪魔に取り憑かれたと言われてもおかしくない発狂のあとに、それが嘘だったかのように晴れ渡るような笑みを浮かべた。
「お嬢様は私だけのモノなのです。今日はそれを教えるために、監禁させて頂いたのです!」
「意味が、分かりません!」
「それを今から教えてあげるのですよ」
雛菊は玲の豹変に恐怖するーーーなんてことは全く無く、それよりも一連の会話を上手くやり遂げられた事に非常に安堵していた。
しかし、まだ油断してはいけない。釣り上がりそうになる口角を叱咤し、監禁された令嬢の演技を続ける。
「玲、こんな事をしても無駄ですよ。あなたと私が不在であることなど、直ぐに知れ渡ります。この場所も直ぐに破られるに違いありません!」
「確かに、雛菊様を監禁し続けることは不可能に近いのです。篠崎グループの令嬢ですから、騒ぎになれば直ぐにバレるのです。だから、」
玲は亜麻色の髪を口元に咥えながら、被虐的な笑みを浮かべた。
「調教、するのです。お嬢様を心身共に屈服させ、私以外を見れなくするのです。つまり、心の監禁なのですよ。雛菊様には誰を一番大切にすべきで、誰を好きになるべきかを知って頂くのです」
玲はこれから行う行為に関して、恍惚として頬に手を添える。雛菊はそれに対しーーーにたり、と微笑むのを危うく堪えられなくなりそうだった。
だって、面白すぎる。酷い茶番だ。
それに、遂に長きに渡って玲に施し続けた【調教】の効果が発揮される時が来たのだ。既に雛菊の脳は大量の快楽物質を生成し、興奮冷めやらぬ状態になり始めていた。
「それでは、早速調教を始めるのです。大丈夫なのですよ。痛くはないのです。ただ、ちょっと気持ち良くなって貰うだけなのです」
「性的拷問、という事ですか…」
痛みを伴う拷問では、雛菊の身体に傷を付けてしまうものが多い。監禁しきれない玲は雛菊が外に出た場合でも他人に調教を悟られない必要があるため、傷のつく拷問は避けたいと思うのが道理だろう。
傷を付けず、痛みを伴う拷問もあるだろうが効果は前者より低いのは明確。制限時間付きであることと、雛菊が我慢強い事を考えると適当ではない。
そのため、玲が選ぶのは性的拷問。快楽を使った調教で、雛菊を屈服させようとしているのだろう。
しかし、玲は性的拷問を行うためには、致命的欠陥を抱えていることを知っている。それこそが雛菊がした仕掛けであり、安全にこの場をやり過ごす術だった。
「では、始めるのです。私のテクに溺れ狂うと良いのですよ」
妖艶に嗤う玲が、雛菊へとゆらりと歩み寄る。
そして右手を雛菊へと伸ばすとーーー頭へぽん、と手を置いた。
「まずは…頭なでなでからなのです!」
そして自信満々に言い放つと、雛菊の艶やかな黒髪を櫛でとくように撫で始めた。
「どうですか?私が鍛えに鍛えた撫でテクは。腰が抜けてしまってもおかしくないのですよ」
普通の人間なら、は?と返してしまいそうな言葉。しかし、玲は本気も本気だ。
しばらくされるがままにしていると、玲はふっと笑った。
「流石はお嬢様。中々に耐えますね。ならば、これはどうなのですか。おててを繋ぐのです!」
雛菊は動かない右手をぎゅっと繋がれる。玲は恍惚の表情を浮かべ、荒く艶かしい吐息を吐いている。
そう、これが【玲にとっての性的行為】なのである。
(情報統制。くふふ、上手くいっているようです。玲は致命的なまでに、性的知識が欠如しています)
雛菊は、あらゆる箇所に手を回し玲を性的な情報から遠ざけ続けた。その結果生まれたのが、頭を撫でるやら手を繋ぐやらを性的な行為だと勘違いしている純真無垢ヤンデレ。
玲は本気で、それらで雛菊を快楽堕ちさせようとしている。しかし、それでは一生かかっても雛菊を快楽堕ちさせるなんて出来るはずもない。
これこそが、雛菊が地下室への監禁を恐れなかった理由だった。
更に言えば、この襲撃に関して雛菊は事前に使用人達にこの地下室の情報について教えてあり、歯の中に仕込んである小さなスイッチを起動することで合図を出せるようになっており、助けはいつでも呼べる。
使用人達には危険だと反対されたが、彼らの後ろめたい秘密を仄めかして黙らせた。
そして、玲に仕掛けてある盗聴器で恥ずかしい一部始終と、主人を監禁などという従者にあるまじき行為の証拠は抑え済み。音声データは全てパソコンに送られて保存されている。
このまま事が運び、玲が拷問を失敗し雛菊が解放されれば、玲は間違いなく雛菊の専属メイドを外され、雛菊から遠く離れた地に送還されるだろう。
ヤンデレの玲にそれは絶対に耐えられない、しかし、篠崎グループの力に叶うはずもない。そうなれば、玲に出来るのは雛菊に咽び泣きながら謝罪する事のみ。
(勝ちました。くふ、くふ、くふふふふ!玲が、ヤンデレが、私に屈服して泣き悶える様が直ぐ目の前に!ああ、楽しみ、楽しみです。屈服した後の玲をどうしてやりましょーーー)
「それではお次は、お胸を触るのです」
「ひゃん!」
寸前にまで迫った勝利への妄想。
それを止めたのは、胸部への感覚だった。
「お、ようやく効果が現れ始めたのです。慎ましやかなお胸ですが、ちゃんと感じるのですね」
「よ、余計なお世話です!くぅぅ……」
地味に気にしているところを突かれ素で返事する。玲はその後も、雛菊の胸を弄り続ける。
「う、く、あ…」
不思議な感覚がぴりぴりと、脳を刺激して時折変な声が漏れ始めてしまう。刺激を堪え、雛菊は起きている異常について分析を始める。
(………?おかしい、玲に与えている最大の性知識はハグにしてある筈です。胸を触るなんて知識は無いはず)
情報統制は完璧のはずだ。
しかし、生まれてしまった懸念を放置しておくというのも出来そうにない。雛菊は、恐る恐るといった具合に玲へと問う。
「れ、玲。これは徐々にレベルが上がっていっている感じですよね?」
「はい、そうなのです」
「後、どれくらいあるんですか?」
「今がレベル9だとして……30くらいはあるのです」
「さんじゅ!?」
思っていた何倍も段階があり、目を見開いて思わず驚愕の声を漏らした。
同時に、雛菊の中に大きな不安が生まれた。もしかしたら、もしかすると玲はーーーー
(まさか、玲は知っている!?【キスをすれば子供が出来る】ということを知っている可能性があるのですか!?)
キスをすれば子供が出来る。万民が知る子作りの方法だ。原理などはよく分からないが、恐らく結婚した後に国から資料でも届くのだろうと踏んでいた。
玲は絶対に知り得ない子作りの方法。流石に、同性である玲にされるのは非常に抵抗がある。子作りは【スゴイ】なんて聞いたことがあるため、もしかするとーーー
しかし、雛菊は直ぐに冷静さを取り戻した。
情報統制に不備があったとして、優位な状況には変わりないのだ。歯の中に仕込んたスイッチを押せば直ぐ様助かる、焦る必要などない。
雛菊は心の中で深呼吸すると、冷静さを取り戻す。よし、もう大丈夫。
「次は、キスなのですよお嬢様」
「な、な、な!?き、きす!?」
「はい」
冷静さは一瞬で消えた。
突然の子作り宣言に、冷静さを保っていられるはずもなかった。
「ききっ、きすをすれば子供が出来てしまうのですよ!!流石にまずいでしょう!」
「………構わないのです。お嬢様との赤ちゃんなら大丈夫なのです」
「な、何が大丈夫なんですか!?」
どこか馬鹿にするように目を細める玲。
雛菊は本能で察した。玲は、本気だ。本気で接吻をして雛菊を孕ませようとしているのだ。
遊んでいる余裕はもうない。証拠は十分。それらを理解してからの行動は早かった。奥歯を噛み締め、スイッチを入れる。使用人達を召喚して玲を止めてしまえば勝利ーーー
「え…!?」
「お探しものはこれですか?」
玲の指先には赤い小さなボタンが乗せられていた。それは使用人達を召喚するスイッチであり、雛菊の命綱。
抜きとられていた。奥歯には何もなく、ただ噛み締めただけに終わる。背に嫌な汗が伝うのを感じた。
「か、返しなさい!」
「そう言われて返す馬鹿はいないのですよ。ああ、でもお詫びに、一つ良い事を教えてあげるのです」
次に玲が紡いだ言葉は、雛菊に鈍器で殴られたような衝撃を与えた。
「キスで子供なんて出来るわけないのですよ」
「な!?あり得ません!私の調べでは確かに…」
焦りを浮かべる雛菊を、愉悦を孕んだ双眸が貫いた。雛菊はあの瞳を知っている。動画に映っている、強者を屈服させ、地に這わせる時の自身のそれと一致していた。
それを見た瞬間、賢い雛菊はすぐに理解した。
ーーー情報統制
性的な知識が入らないよう、玲に管理されていた。
「ありえ、ません。メイド長とはいえ、あなたはただの一メイドの筈です。そんな大掛かりな仕掛けが出来るわけが…」
「そうなのです。私一人では、流石にそんな仕掛けは出来ないのです。けど、私に協力してくれる【強い人】なら沢山いたのですよ」
玲に協力する強い人。
雛菊は直ぐに思い当たる。今まで散々な目に合わせてきた、下僕達。
「………あの、奴隷共ッ!!だとしたら玲、あなたは…!!」
「はい、お嬢様が仕掛けたカメラや盗聴器にも気付いていたのです。無知なことも演技、少なくともお嬢様より豊富な知識を持つのですよ。そして私は、篠崎 雛菊の異常性癖を矯正する事を頼まれているのです。流石に、お嬢様の性癖には皆さん頭を抱えているらしいのですよ。そう、使用人達も言っていましたよ?」
全員が、グル。
その事実を知り雛菊は目の前が真っ暗になる感覚に襲われた。それだと、全てが瓦解する。そして、今までの勝利ですら手のひらで踊らされていたに過ぎなかった可能性すらあるのだ。
そんな失意に沈む中、雛菊はもう一つ絶望に気付く。それは今まさに、この状況。
「ではお嬢様、頂くのです」
「ひ、いやっ……あ…………………」
玲の亜麻色の髪と幼い顔立ちが目の前に現れ、口内が蹂躙される。今まで子作りだと信じていた行為の衝撃は筆舌に尽くせず、雛菊は為すがままにされて腰を抜かせた。
呼吸がうまくできず、視界がちかちかし始める。それを見計らったように玲は吸い付きをやめて唇を解放した。
伝う淫靡な涎を拭う。脳がとろりと溶けたような感覚が止まらない。
「ご馳走さまなのです。どうでした?初めての子作りのお味は」
「あ…………あ………」
何も言葉を返せなかった。スゴイとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかった。中から侵略され、支配されていくような感覚。今まで味わったことのない悦楽に思考がまとまらない。
しかし、雛菊に呆けている暇など無かった。何故なら、これはレベル10。まだ、20段階のグレードが存在するのだから。
「じゃあ、次に行くのです。どこまで耐えられますかねー」
「……や、やぁあ!」
まだ、先がある。雛菊は遂に恐怖から涙腺が決壊した。
怖かった。今まで支配する側だった少女は、支配されることにどうしようもない恐怖を抱いてしまっていた。
「や、やらない!もうやらないから!みんなにも謝る!!だから許して!」
情けなく、浅ましく許しを請う。そこに支配者としての恥も見聞も無い。
しかし、雛菊は忘れていた。その謝罪に何の意味も無い。何故なら、
「ああ、勘違いしないで欲しいのですお嬢様。確かに私は被害者の皆様からお嬢様をどうにかするようにと頼まれた身なのです。しかし、そんなのはおまけなのですよ」
「おま、け?」
「私がお嬢様を大好きで大好きで大好きで大好きでダイスキでだいすきでダイスキでダイスキでダイスキでだいすきなのは本当の事なのですよ!!他の人間がお嬢様に触れていると反吐が出る!会話していると血が沸騰しそう!ああああ、殺したい、殺したいのです!お嬢様の半径2キロ以内の人間全てを殺して空気を浄化したいのですぅ!」
「ひっ……!」
そうなのだ。玲の本質はヤンデレなのだ。
逃げられるわけがない。逃がされるわけがない。舞台が整ってしまった以上、雛菊に残された道はもう一つしかないのだ。
「さあ、お嬢様。えっちのお勉強なのですよ。そのお年になって、性知識が無いというのはあまりにお恥ずかしいですからね」
「や、やめ、やめて!やめてやめてやめて!やだ、知りたくない!こわい、こわいよ!」
「大丈夫なのですよ。ちゃんと、堕としてあげるのです。怖さなんて感情すら、吹き飛ぶくらいに」
玲は嗤う。満面の笑みで。そして二度と逃げられないように、愛する人の身体と心に服従を刻もうと、獲物の服をゆっくりと脱がし始めた。
***
「最悪の気分です……」
翌日、雛菊は珍しく一人での登校をしていた。となりに玲はいない。あんな危険人物を隣に置いておくなど考えられない。
「下僕共…私に逆らったこと、後悔させてやりますよ……もう遠慮しません。二度と立ち上がれないように完膚なきまでに…」
散々な目にあったが、根強い欲望は未だ耐えていなかった。むしろ、一度負けた事で復讐の炎も加わり、かつてない業火と化していた。
学校に着き、教室を目指している途中。雛菊は生徒会長を通路で視界に入れた。
昨日の鬱憤も溜まっている。丁度良いし彼で発散しようと歩み寄ろうとする。
しかし、どこからともなく現れた玲が、耳元でぼそりと呟いた。
『昨日、あれだけきゃんきゃん鳴いていた雌犬が何をしようとしているのですか?』
「…………ッ!」
雛菊は涙目になりながら、背後をキッと睨む。そこには、どこ吹かずの笑みを返す玲の姿。
認めたくない。今まで数多の人間を屈服させ、下に付かせてきた自分が敗北し、奴隷達と同じ立場になってしまったなどと。
でも、勝てない。
悔しいのに、絶対に勝てない。
雛菊は昨日、身体に刻まれてしまったのだ。
玲への絶対の敗北を。
『毎日、可愛がってあげるのですよ。誰を愛するべきなのか、頭がぐっちゃぐちゃになるくらいしあわせにして教えてあげるのです』
雛菊はぶるりと身を震わせた。何をやっても抗えずに蹂躙される自分を想像して、頬を少しだけ赤く染めながら。
えちえちエンドばっかしてるので次からちょっと作品の感じが変わります。多分。
次・【幻想百合】
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