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お悩み相談部へようこそ  作者: 白太朗
6/21

第六話

第6話にはタイトルは拘束車内です。

楽しんでいただければ幸いです。

「……んっ」

 目が覚めると,いくつもの座席が連なった所に寝かされていた。

 独特な匂い。低い天井。……ここは?

 車の座席のような椅子で,細かく振動して揺れている。

 ……車? いや,バスか。 動いている。

 なぜ自分がこうなっているのか思い出せずぼうっとあたりを見渡す。

 確か……灯さんに言われた本を買いに行って,それから……?

 動こうとしたら背中がズキリと痛んだ。

 「ぐっ……⁉」

 そうだ、スタンガンを受けたんだった。

 そのまま気を失って……

 僕は現在の自分の状態を正しく認識することに努めた。

 横たわった状態から,起き上がろうと座席に手を付けようとして気づく。

 両腕は後ろ手で手錠のようなもので手首を絞められ,動けなくされていた。

 ……縛られてる⁉

 手には手錠のようなチェーンは無く、鉄の板のようなものに手首を掴まれて全くの自由が利かない状態にされていた。

「んっしょ……」

 何とか額を手の代わりにして座席に座るように起き上がると,大型のバスの中だということが分かった。

 一番後ろの座席に寝かされていたようだ。

がらんとした薄暗い車内は窓にカーテンがかけられていて隙間から差していることから日が出ている時間帯だと分かった。

あれからずいぶん時間が経っている様だ。気絶させられたのが日の落ちる寸前だったから一晩は眠っていたことになる。

 「ああ、起きた?」

ふと男の声が車内に響いた。

 垢抜けした軽薄そうな声が聞こえた方向を見ると,先頭の座席から頭だけ出してこちらを窺うあの男がいた。

 「あんたか……」

 まぁ,居るわな。

 なんだかよくわからない組織の構成員。

僕をスタンガンで気絶させた後,このバスの中に横たえさせ手首に拘束具をはめたのだろう。

 僕は大して驚いた素振りをせず平然と呟いた。

 とりあえず,今一番気になっていることを素直に聞いてみることにした。

 「で、どこに連れていかれるところなの?」

 「へぇ、やっぱり君は面白い。この状況で冷静になれる人はそうはいないよ」

 暴れられる覚悟はしてたんだけどねぇ、とした喰えない態度でそういう。

 その態度にぴくっと眉をしかめると僕は威圧を込めた声で嗤う。

 「望むなら暴れてやってもいいけど?」

 僕は口元に微笑を浮かべながら、しかし豪然たる態度で瞳を細める。

 「はは、血の気が多いな。でも、冷静さを欠いちゃいけない。手が拘束された状態で何ができる?」

 黒瀬は僕の態度を意に介さず,一笑に付し,悠然と状況を考えろと伝えてくる。

 「手は動かなくても,足は動く」

 しかし、僕は態度を崩さずにいつでも暴れる心構えを取り、相手の出方次第で本当に動こうとした。

 黒瀬は,悠然と微笑みながら眼を合わせる。

 数秒の間、僕らは睨み合った。この人の余裕そうな態度が気に入らなく腹の中が煮えていた。

 「「………」」

 バスの中にピリピリとした張り詰めた空気が充満する。

 暫くして,空気を破ったのは黒瀬だった。

 「ふふ……まあまあ,そんなこと言わずに」

 「………」

 嫌にでもなく皮肉気でもなく,ただ面白がるように黒瀬は笑みを溢した。

 その憎めない不思議な笑みに呆然としてしまい、怒りを一瞬忘れてしまった。

 僕は掴みどころのない黒瀬の態度に毒気を抜かれてしまったが、警戒心が払拭されてしまったとを悟らせないように睨み直した。

 「ああそういえば」

 何かを思い出したように腰から銃を引き抜き、僕に見せるようにした。

 「見事だったよ」

 感慨深そうに手に持った銃を眺めながら黒瀬はいった。

 「あの時の君の目的は銃を僕の手から離させることだったんだね」

 「………」

 しみじみと黒瀬は持っている銃にうんうんと頷きながら感心しているようだった。

 「君は、オレが銃を放置して君を追うことをしないと確信していた」

 黒瀬は至恩を一瞥すると,さらに続けた。

 「確かにその通り、誰かに拾われたら大問題だ。おかげで、随分探すのに苦労したよ」

 黒瀬は本当に楽しそうに歯を見せて笑うと,指で銃をくるくると回しながらいう。

 「それをあの一瞬で思いつき実行した。……本当に見事だ」

飄々とした雰囲気の人だ。今見せている笑みは人の警戒心を解かせる不思議な印象がある。

 「あの場所で昔、何度か野球してさ。その度にボールをなくした嫌な思い出があったから」

 あそこの草むらはボールを見つけづらいんだ、と僕は懐かしむように眼を細くした。

 「でも,オレを倒した方がよかったんじゃない?」

いつの間に取り出したのか手に持っている煙草を咥えると火をつけた。煙が緩やかに漂った。

 「……そうするとあなたが僕よりも強かったら逃げ切れないでしょ?」

 相手が自分より格上かなんてのは実際にやってみなければわからない。

 でも、あの場で戦ってしまったらもしもの時に逃げられない。

 「冷静な状況判断。ますますいいねぇ」

 黒瀬は眼を輝かせながら僕を見た。

なんでそんな目で僕を見れる?あんたは男子学生を拉致している犯人だろうに……身代金で何を買うかとか考えてろよ。調子が狂うなこの人は。

 「……それで、どこ連れて行くつもり?」

 僕は黒瀬に褒められて心底気持ちが悪そうな顔をし、警戒しながら話を戻した。

「ああ、今から向かう場所はこれから君に選んでもらう」

 そう言いながら,黒瀬は銃を手でくるくると弄ぶ。

 釈然としない様子で僕は聞き返す。

 「選ぶ?」

 「ああ,君の選択肢は2つだ。どっちか好きな方を選んでくれていいよ」

 無理やり連れてこられて好きなところに連れてってあげるよって、馬鹿かと僕は胸の内で呟き、抑えるつもりすらない苛つきを吐き散らした。

 「ふざけん――――」

 「だけど、君がなんでこんな目に合っているのかの説明をしようか」

 僕は怒鳴り声を遮るように言葉を被せると、黒瀬はそもそもなぜ拘束されてバスに揺られているのかを説明してくれるという。

「それを聞いたら僕が納得してその2つの選択肢とやらの中から行き先を選ぶと?自分から拉致される場所を指定する被害者は、これまでの犯罪史にもいないと思うよ」

無駄話をするなと言外に告げたつもりだったが、どうにもこの飄々とした男には届かないようで『確かにっ!』とせせら笑った。

「ハハッ、だとすると君は犯罪史の中で一際目立って見えることだろうねぇ。人気者になれるよ!いっそオレなんて霞むくらい際立てばオレがやったことも霞の様に消えてくれるかも」

「消えるわけ無いでしょ……そうだ、あんたに追い掛け回されたとき警察に通報しておいたんだ!僕を今頃探してくれているかも」

僕はまだ希望が残っている事を思い出してこの車内で初めて笑みが浮かんだ。

「ああ、あれか。あの時は個人情報をペラペラと話してくれて助かったよ」

「えっ?」

どうして?……どうしてそのことをあんたが知っている!?

おかしいだろ……確かにあの時110番を掛けた。たった3桁の番号の打ち間違いなんてしていない!

「名前に電話番号、そして一番ありがたかったのは住所だね」

「っ………!」

つまり、警察まであちら側についているということ。その事実は、頭に岩をぶつけられるような衝撃を僕に与えた。

「あれがあったおかげで、家の前に張り込んでられたんだよねぇ」

そんな……警察は社会の安全を守ってくれる組織で、善良なる市民の個人情報を犯罪者に流すようなことはない。そんなことは有り得ない。

要するに僕の情報が警察を通じてこの人に流れた理由は—————

「僕は、被害者(・・・)じゃ(・・)ない(・・)………?」

僕が出した結論に、黒瀬はにぃ~とした軽薄そうな口を曲げた。

「ハハハ、よく考え付いたね。その通り!君は残念ながら被害者なんかじゃあない。オレらの組織も警察同様、国に仕えた組織だ。そんな組織の構成員が君を捕まえに来た!君がここで拘束されているのも、銃を向けられたことも、スタンガンを受けたことも全て国の意向だよ!」

な、なんでそんなことが……

無意識にも背中を触ろうとして、手錠のような拘束具が腕に喰い込んで腕に痛みが生じると同時にズキッとした疼痛が背中に走った。

「………っう」

一層痛みが強く存在を主張して、黒瀬の言葉が更に重くのしかかった。

「現状を少しは把握してきたみたいだね。これは『拉致』ではなく『輸送』だよ。本来ならば君に選択権なんか無い。けれど、特別に選ばせてあげようと言っているんだ」

 口に咥えた煙草を離して煙を吐き出した。火種からの煙か、黒瀬が吐き出した煙が僕の鼻孔に届いた。

僕はこの匂いを嗅ぐと母のことが脳裏にちらついてくる。僕にとっては思い出すだけで気持ちが滅入る人だ。この香りは過去と絡みついて思い出を引っ張り上げてくる。

「分煙をしてくれない?この匂い大っ嫌いなんだ……」

「ああ、知っているよ。君のことは調べている。確かお母さんが愛煙家(ヘビースモーカー)なんだよねぇ。この煙はもう何年も前の親御さんとの痛ましい思い出を呼び覚ますのだろう?」

 全てを知り、見透かしている言葉が僕に止めを刺した。

 「殺すぞ……お前」

 煙への不快感に黒瀬への嫌悪感が波のように押し寄せて、僕の心をざわめかせた。

 いっそ冷静ではいられないほどの自分でも信じられないような瞋恚が沸き立ち、全身が粟だった。瞬間———

 ガッキーンと車内に鋭い音が響いた。

 黒瀬に迫り、拳を振るうために邪魔な腕につけられた鉄の拘束具が弾け飛んだ。

 人には決して外すことができないだろう、と思われた鉄の拘束具が異質な取れ方で弾け飛んだ。

 黒瀬はそれを驚きもせずにまるで分っていたかのようにもう使い物にならないであろう金属の残骸を目で追うと口端を曲げた。

 冷静さの欠片もない僕はそれに気づかずに黒瀬に突っ込み拳を振り被った。

 しかし、放たれた拳は宙を切った。僕は既視感を抱いて愕然と眼を見開いた。

 黒瀬は下にいた。僕より圧倒的に背の高いはずなのに小さく屈んで、目にも止まらない速度で右回転、綺麗な反撃(カウンター)で回転前蹴りを胸に繰り出した。

 前に迫り出た体は逆方向に吹き飛んだ。

 最後部席の背もたれに勢いよく叩きつけられた。怒りで忘れていた背中の痛みが再度発生して最大に顔を歪めた。

 「ぐっ、うっ……あああ……」

 僕は激痛で屈み、痛みを堪えていると、黒瀬は咥え煙草でゆっくりと僕が壊した拘束具を拾い上げてそれに白い煙を吹きかけた。

 「これ見てごらん?」

 僕は激痛に耐えながら目を向けると、最初何を見させられているのか分からなかったが背中を抑えている腕に『あれ?』と違和感を感じて手を前に突き出した。

 「あ、あれ?外れてる……」

 自由を奪うものが無くなった腕を愕然と見下ろすと、さっきまで拘束されていた証のように手首には鉄が喰い込んだ後がくっきりと残っていた。

 「……それ……僕がやったの……?」

 人間には起こせない現象を自分が行ったことに現実感が無く、つい疑問が口を衝く。

 「そう。これが今、君がここにいる理由だよ」

黒瀬がとうとう理由を語り始めようとした。

 「でも、その前に謝らせてほしい。君には酷いことをした」

 「は?」

 行き成りのことを言われて唖然としてしまう。

 「これからする話を信じて貰うにはあの前段階が必要だったんだ」

 また、憎めない笑みで謝罪する黒瀬に我を忘れるまでの怒りが風にさらわれてしまった。

「君、ニュース見てる?」

「ニュース?毎日見てるけど、特に天気予報は」

 尊敬している暴力お姉さんが務める朝の楽しみは可能な限り欠かさない。

 「それじゃあ、君の近くで起きた怪奇的な事件は知っているね?」

 うちの近くで起きた事件……?ああ、『赤い部屋』のことか。

 近所に住んでいる住人が一晩で消失した事件だ。いなくなっただけなのになぜ『赤い部屋』と呼称されているのかは、事件現場の家のリビングが血で真っ赤に染まっていたからに基づいている。

 しかし、一家の柱である田鎖直哉さんは家の近所で遺体として見つかったと今朝……昨日のニュースで報じられていた。

 「うん、知ってる。その事件がなに?この状況と何か関係が?」

 事件には灯さんが関係して……いると思われる。こんなことがなければ昨日の晩に問いただすことが出来たのに、多忙な灯さんの愚痴を聞けたかもしれなかったのに。

 「犯人は田鎖直哉、一家の父親が家族を殺したんだ」

 「え?」

  黒瀬は短くなった煙草を手に持った携帯灰皿に入れながら、さらっと重大なことを口にしたような気がした。

 「……いや、でも遺体で……って、そもそも何の話をしているんだ」

 『赤い部屋』の真相が例えそうだったとしてもそれが何?あんたは何の意図があってこの話をする?

 「田鎖直哉は一家を惨殺後に逃走したんだよ。それを我々『ツノ掴み』が処理した。これが『赤い部屋』と呼ばれている事件の真相さ」

 「うそっ……あの人が…?」

 黒瀬はもう一本の煙草を出して、火を着けながらなんでもなさそうに言うものだから驚きも半減してしまって、そんな言葉しか口から出なかった。

 「そして、田鎖直哉は君と同じ病を持ったものだった」

 「あんた何言ってんだ?どこも悪くないよ。強いて言うならあんたにやられた背中が痛いくらいで」

 僕の言葉を予想していたのかそもそも全く聞いていないのか意に介さず、話を進めた。

 「彼はマークしていたんだが、想像より早く変異が起こちゃってね。いや~ほんとに大失態だったよ」

 「そういう人をある場所に連れて行くのがオレの役目で、それをしないと君の近しい人が大変なことになるんだ」

 『近しい人』と聞いた時一瞬灯さんの顔が浮かび、僕は表情を固くしてしまった。

 「……大変な事ってなに?」

 黒瀬は僕の表情の機微から悟ったように眼を細くし口調を改めて答えた。

 「傷つける、もっと酷いことにもなりうる」

「そんなありえないこと、信じられるわけない」

僕が灯さんを傷つける?命の恩人に手を上げると?

自分が死んでもしないであろうことを言われて顔を顰めて呆れ笑いまで浮かんでしまった。

「いいか、黒瀬。そんなことは絶対にありえない」

「そう。これまでの全てが、オレらの忠告を否定するんだ。そして、全員が浮かべるのが大切な人を傷つける筈が無いと、確信しているその顔だ」

 何度も、何度も見てきたような重い言葉だった。

 嘘を吐いているとは思えない。

「田鎖家も幸せそうな家庭と記録にあった。奥さんや娘たちは父親を信頼していて、父親も彼女らを守るため仕事に励んでいたそうだ」

だが、惨状は『赤い部屋』と呼ばれるような真っ赤な悲劇が幸せ幸福を塗り潰した。

僕は何度か田鎖家を見かけたことがあった。家の登下校の途中にある家だから、稀に遭遇する時があった。

おはようございます。こんにちは。この二つの言葉しか交わしたことがなかったけれど、母親と思われる人は穏やかで優しそうで、小さな娘さんが2人彼女の足元を猫のように引っ付いていたのを覚えている。そして、父親は寡黙そうだったが、彼女たちが笑って喋りかけていることからきっと人格者なのだと思っていた。

縁がなかった良き家族とはああいうものなのだろう、と僕に思わせてくれた。

だから、あのニュースを最初に知ったときは思わず家から飛び出して現場の家に向かった。そして、警察の多さに絶望したものだ。

本当に起こったことなんだと、誰だこれをやったのは、許せないと、そんな何の義理もないのに僕の中には確かな絶望の穴と、そこから噴き出る瞋恚の炎があった。

そして分かっていたことだったけれど、現実を呪った。何かがあったことは間違いが無い、その一滴の毒で全てが瓦解した。現実への希望も、僕の理想も、全て。

だから、さっきも父親が犯人と聞かされた時も信じられなかった。僕が見たあの父親があんなことを大切な家族にする人ではないと。


「君の病は、全てを狂わせる病だ。放っておくと取り返しのつかないことになる」

 

核心を衝く黒瀬の言葉は、重く僕の心を穿った。

前髪を垂らすように俯き少しの間黙って思案すると、諦めたように苦笑いを浮かべた。

「…………」

少しの間、ゴオオオオというバスのエンジン音のみが空間を占領した。

 「はは……それが嘘だったとしたら大したものだなぁ」

 失意の表情でバスの天井を仰ぐと,ぽつりと呟く。

 「嘘だとしても,もう帰れない……」

 それが嘘だって確信するまでは,もう帰ることなんかできない。

 本当だったら,殺したいほど自分を恨むだろうから。

 「………」

 その様子を黒瀬は黙って見つめると、本当に不思議そうに質問を投げかけてきた。

 「そんなに大事な人なのかい?今の家族とは、血が繋がっていないだろう?」

 黒瀬は毅然とゆっくりとした声色で分かり切っていることを問うてくる。

 「……うん、血は繋がっていないよ。でも」

 至恩は自分の髪を触りながら微笑んだ。

 「空っぽだった僕に大切ないろんなものくれた大恩人なんだ」

 地の底から救い上げてくれたと、表情を綻ばせて思いを漏らした。

 「………」

 僕の思いに、黒瀬は一瞬だけ申し訳なさそうな暗い表情になると、すぐに表情を毅然としたそれに戻した。

 「でも,君には選んでもらわなければならない」

 冷然とした声色で黒瀬は告げる。

 「我々の組織に来るか、君のような人が多くいる所に行くか」

 黒瀬は至恩の眼をしっかりと見つめてそう口にした。

 「……どっちか、か。僕のような人が多くいる場所ってなに?」

 「学校」

 「……学校⁉ え? 学校に連れてかれるの?」

 至恩は学校と聞いて,素っ頓狂な声を発してしまう。

 「その病気は治らない。しかし、君はまだ若い。そこに可能性がある。病気を治すのではなくうまく付き合っていく方法を見出すかもしれない」

 「治らないって……まじか」

 「治るなら,こんな大掛かりなことになっていないよ」

 黒瀬は苦笑いを浮かべてそういった。

 そうだよなと僕も思う。

 にしても、病院とかじゃないんだな。なんで学校?

 僕は思案しているとそれに答えるように黒瀬は話した。

 「学校というのには深い意味はないよ。君はまだ学生でこの春、高校生になるそうじゃないか。だからこちらでしてする学園で学生をしてくれればそれでいい」

 僕は納得するようにへぇ、と漏らした。

 もう一つの選択肢を僕は明確にしようと質問する。

 「基地ってあんたが言ってた……『ツノ掴み』の基地?」

 「ああ,そうだよ。基地に行くなら,我々の構成員として働いてもらう」

 本当に冗談みたいなことを言われた気がした。多分冗談じゃないんだろうけど。

 「君が望むなら,どちらでも構わないよ」

 『ツノ掴み』と学校。……よくわからない組織と学校か。

 「学校にするよ」

まさかまだ、学生やれるとは思わなかったけど,そもそもちゃんとした学校なんだろうか?

 自分の気持ちを素直に答えた。

 黒瀬は分かったと呟き,運転席の方を向き,ドライバーに届くように大声を発した。

 「迎え!」

 ビクっと肩を揺らせてしまうほどの鋭い声音に、『うわっ、吃驚した⁉あ、そうだよ!運転してる人いるよね!』と思い直した。

 軍人が部下に命令するような威厳が籠った指示だった。

 黒瀬と運転手は,『あと,どれぐらいで着く?』『30分ぐらいです』などと話している。

 僕は景色が巡る窓の外見ながら息を吐いた。

あの時メッセージを本に残してよかった。


 灯さんへ

 愚痴ぐらい聞いてあげられる家族になれなくて、ごめんなさい。

 でも、いつか会いに行ってあなたから受けた恩を返しに行きます。


 車内を薄暗くさせていたカーテンを捲って、空を眺めなる。

 綺麗な朝日だ。朝日ってこんなに綺麗なんだぁ。

 バスに揺さぶられながら,寂しそうに笑う至恩の顔が窓ガラスに浮かんだ。


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