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お悩み相談部へようこそ  作者: 白太朗
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第五話

黄昏,太陽が赤く淡く輝き沈もうとしている。赤光に照らされた草木はとても美しく、幻想的ですらあった。

 あの場所から離れるため全力疾走をした僕は息が絶え絶えになって壁に手をついていた。

 「はぁはぁ,ぜぇぜぇ」

 壁に背を付けて息を整えようとする。汗が頬を伝って顎から落ちた。

 それにしても,あの人は一体?

 『ツノ掴み』……なんかすごそうな名前だったな。

 ……銃まで向けてきたな。

 いくらあの場所はひとけがないにしても、人が来るかもしれなかったのに。

 焦っていたのか?

 あんなところ誰かに見られたら大事になっていただろうに。

 だとしたら,随分捨て身だったな。……そうなると、逃がしてくれそうにないなぁ多分。

 僕は高校合格祝に持たせてもらったスマートフォンをポケットから取り出し,画面を付けた。丁度17:02と表示された画面を見つめて思考を巡らした。

 警察に通報した方がいいだろうか?

 銃を向けられたのは事実、警察に助けを乞えばこのまま逃げ切れるのではないだろうか。

でも、もしそれで逃げおおせたら、公共の場で銃を向けてきた黒瀬の姿が余りにも軽率な行動を取った阿保だということになる。………どうにもピンと来ない。

 相手は組織で動いている、警察に行っても安全だとは限らないかも。

『ツノ掴み』か、銃まで向けてきたんだ警察も黙認している可能性がある。……いや、大丈夫でしょ。だって警察だよ?市民の味方のお巡りさんだもん大丈夫だよ。

 僕は疑心暗鬼になる心を必死に宥めるため自分の大丈夫に何度も頷いた。

 髪が前に垂れ下がり,自分の紅髪が視界に現れる。

 「『家族の証』か……」

 血がつながっていない僕を迎え入れたとき家族の証として同じ髪色にすることが,灯さんの方針だった。

 ……灯さんと同じ髪の色にされて、当初は目立つのなんのって恥ずかしかったなぁ。

 6年前、父が死んで、母がおかしくなった。挙句居なくなって、親戚で僕の押し付け合いが始まった時に灯さんが颯爽と現て僕を引き取った。

 今思うとあの決断力は凄まじい。

 「ふぅ~」

 重い溜息を吐き、汗で張り付いた前髪を搔き揚げると、手に持っている袋から本を取り出す。

 「………はぁ」

 どのタイミングで見てもヒドいな。

 再度,本のタイトルを見て僕は肩を落とし,辟易としてしまう。

 胸ポケットからボールペンを取り出し,本のジャケットを外して本体の表紙にペンを走らせる。

 「ふぅ~、よし行くか」

 書き終えて,カバーを戻し,袋に入れる。

 息は整い,安定した呼吸を確かめるように大きく深呼吸をしてから,歩き出す。

 なるべく人が通る場所を選び,家路を急ぐ。

 さっきの男がいないか注意を張り巡らせ,速足で歩く。

 すれ違う人々の顔を確認していたから,睨まれたりもする。

 「まぁ,僕が悪いか」

 そうこうしている内に遠目から家が見えるところまで辿り着いた。

 立花家,親に捨てられた僕を受け入れてくれた恩のある家。

 諦めたのか?と楽観的な思考が脳を過ると思わず口が緩む。

 やったー!逃げ切った。

 だが、一瞬の歓喜も束の間,後ろから何者かが走ってくる足音が聞こえた。

 「っ!」

 瞬間、僕も走った。

 束の間の鬼ごっこ。

 速い。僕も走っているのにどんどん足音が近づいてくる。

 謎の追跡者が真後ろに迫った時、やっとの思いで表札まで着くと走った勢いのまま本が入った袋を乱暴にポストに投函した。

 「はぁはぁ、……ハハっ、間に合っ――――」

 追跡者にすぐ肩を捕まれたと同時に,腰あたりに何かを押し付けられた。

 「悪いね……」

 先程の男と同じ声がしたと思ったら,突然衝撃が体中を走り,体が揺れた。

  「がっ⁉」

 足が無くなったのではないかと思うほどの浮遊感が訪れ直ぐにアスファルトに崩れ落ちた。

 一瞬何をされたのか判然としなかったが,倒れた拍子に男が持っていたそれが見えた。

 スタンガン。

 至恩は後ろに勢いよく倒れ,空を仰ぎ見る形になった。

 薄暮,太陽が沈む寸前の空はまるで昼と夜が同時に存在しているような二重の色合いがあり夜側の部分は星々がと輝いていた。

 なんで空はこんな綺麗なんだよ。

 意識を失う束の間,憎まれ口を空に心の中で吐いた。

 だが,それとは裏腹に僕の相貌は柔らかかった。

 「こうするのがオレの任務なんだ。悪いな…」

 謝罪を口にする黒瀬は、悠然とした声音で倒れた僕に言葉を落とす。

 薄れゆく意識の中でその言葉を受けながら、僕は意識を失う直前に微笑んでこう思った。

 

 最後に約束、果たせてよかった。

 

 僕の意識はそこで完全に沈殿した。

あけましておめでとうございます。

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