別々の永遠。
麻酔銃で眠らされた愛子はさらに、大きな注射器で毒薬を注射され、そのまま毛皮屋に引き取られた。
立派な毛皮が取れたとサーカス団にはたくさんの謝礼が入り、その謝礼として得た代金の一部は優香であるマリコの豪華な水色の衣装に使われた。スターであるマリコはさらに脚光を浴び、ハッピーエンドを迎えた。
シーザーとして一生を終えた愛子の身体は頭は剥製に、毛皮は敷物にされ、一番見栄えのするショーウインドウに飾られた。それはまるで見せしめの姿。
「優香が優香であることを愛してあげたら、帰してやってもよかったのにね。」
クローネが毛皮を見てつぶやいた。
そう。無償の愛情を与えない愛子は永遠に帰らない。無償の愛情をもらえなかった優香はこの世界で永遠に生きる。
元の世界では失踪事件として大々的に捜査が行われたが、未解決のまま終焉を迎えた。優香の父親はショックで自殺をして、あの家は空き家になり、もう何年も経つ。
優香は、元の世界のことをすっかり忘れ、今日も別の物語の主人公として元気に生きている。ありのままの愛情を与えてくれる人たちに囲まれながら。
魔女が現れたら、神隠しが起こるよ。
子供を愛せない親は、怖い魔女が連れていってしまうよ。
親に愛されない子供は、優しい魔女が連れていってしまうよ。
今日もクローネは水晶玉を見つめる。あなたの後ろに魔女が現れるかもしれないよ。
【完】