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スターとライオン。

殴られてヨレヨレになった愛子は、今度は鉄格子の中にいた。

「さあ、練習の時間よ。」

ある女の子が鉄格子を開けた。

「練習って何?」

「ほら、ガウガウ言ってないで出てらっしゃい。スターのマリコの言うことが聞けないの?」

ムチで床をピシリと鳴らす。

「早く!悪い子ね!」

またムチが鳴った。

…ちょっと、今度は何?言葉にならない。話そうとすると猛獣の叫び声が響く。

首の辺りに重みを感じる。足元には太い鎖と大きな毛深い足。

愛子が動くと鎖がガチャガチャと鳴り、毛深い足が一緒に動く。そして自分の顔を触ろうと手を動かすとその足が愛子に触れた。

…コレは、私の手なの?そんなバカな!

愛子はサーカスのたてがみの立派なオスのライオンになっていたのだ。

「シーザー!ネコみたいに顔を洗ってる場合じゃないわよ。今日こそ火の輪をくぐれるようにならないと、もう毛皮にしちゃうわよ。」

またムチが鳴ると、身体に痛みが走った。叩かれたのだ。

鎖をグイグイと引っ張られ、火の輪の前に連れていかれる。

「さあ、飛ぶのよ!」

「飛べない!助けて!私はライオンじゃないのよ!」

力の限り叫ぶも、言葉が出てこない。

「雄叫びとたてがみだけは一人前ね。」

冷たく言い放つマリコを見て、愛子は絶句した。サーカスのスター団員マリコは優香だったのだ。

「優香、ママよ。助けて。」

かけよってすがると、優香がよろける。がしかし、実際は吠えながら飛びかかったことになった。優香が声を張り上げる。

「何するのよ!悪い子ね!アンタなんか要らないわ!代わりのライオンはいくらでもいるんですからね!」

優香の声を聞いて団員たちが駆けつける。スターのマリコに逆らったことで大騒ぎだ。

「マリコさん大丈夫ですか?ケガは?」

「お前、今度こそ毛皮屋に売ってやる。役立たずめ!」

「スターにとびかかるとは何事だ!」

団員たちが口々に怒鳴り、ムチで叩く。そして愛子は再び檻に閉じ込められた。薄暗い空間。冷たいコンクリートの床。そんな空間でぽつんと一人きりになった。


…私はどうなってしまうの?どうして?

愛子が檻の中で涙をこぼすと、クローネが現れた。

「芸のできないアンタは悪い子。要らない子。このまま毛皮にされたら、もう元の世界には戻れない。アンタはここで一生を終えるのさ。」

愛子は絶望した。ここで死んでしまうのはイヤだ。

「条件って何?火の輪をくぐれたら助かるの?」

愛子がクローネに問う。うやむやになっている条件のことを思い出したのだ。

「甘いね。まだ気づいていないのかい?自分のしてきたことを棚に上げて。」

「だって、私は優香に愛情をかけてきたわ。服だって不自由させていないし、勉強しやすいように本をたくさん買ってきたわ。」

「服の枚数だけは足りていたようだね。優香の好きな色を知っているかい?どんな本が好きか知っているかい?」

「女の子はピンクが好きに決まってるじゃないの。本だってためになる本を揃えてあげたわ。」

「それはアンタの決め付けであって、理想だろう?あの子は水色が好きなんだよ。本にしても参考書や図鑑よりも絵本が好きなんだよ。」

「そんな。優香は何も言わなかったわ。」

「言えなくさせていたのはアンタだよ。やたらと手を上げるアンタが怖くて、何も言えなかっただけだよ。絵本を勝手に処分したり、ピンクの洋服ばかり買い揃えたり。100点を取らなくて叩いただって?それのどこが愛情なんだい?」

「賢い子のほうが好かれるわ。いいところにお嫁に行けるわ!」

「まだ気づいていないようじゃ話にならないね。毛皮になっておしまい!ここでお別れさ。最後に教えてあげるわ。条件ってのはね、無償の愛情を与えることさ。」

「無償の愛情って何?」

「芸ができないばかりに愛されないシーザーは幸せだったと思うかい?優香に対してしてきたことと同じさ。」


クローネが姿を消すと、檻のまわりにさきほどの団員たちとともに白衣を着た獣医がやってきた。

「誰か、助けて!優香、ごめんなさい!」

「うるさいライオンめ!」

愛子が叫ぶが、やはり雄叫びにしかならない。クローネと話していた声も、人間たちにとっては、長い時間ほえ続けたことにしかならなかったのだ。

―ピシッ!

一瞬の痛みののち、愛子が倒れる。獣医が麻酔銃を放ったのだ。

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