どうして私は殴られるの?
―バシッ!バシッ!
「やめて、ぶたないで!」
子供の姿になった愛子が叫んでいる。
「アンタみたいな子供はウチには要らないんだよ!100点を取らないんだから!」
愛子を罵り、叩き続けるのは鬼の形相の女。愛子は訳がわからないままさんざん叩かれた末にひょいと丸太のように抱き上げられた。
「今日はご飯抜きだよ!」
その声とともに暗い物置小屋に放り込まれた。外からはガチャリとカギをかける重い音。
「どうして?」
涙が溢れる。家にいたはずなのに、知らない場所に来て、いきなり誰かに叩かれるなんて、さすがの愛子もショックが大きい。
「出して!出してよ!」
壁か扉か区別がつかないままに、そこかしこをドンドンと拳で叩いて叫ぶも、助けられることがないまま夜が更けていった。
疲れてうとうとしだした頃にガチャリという重い音とともに光が差し込む。一目散に光の元に駆け寄ると昨日の女がいた。
「掃除をしたら学校にお行き。」
そう言って女は手にしていたホウキとランドセルを投げつけるように渡すと去っていった。
呆然としているとまた女が現れた。
「このグズが!掃除もできないのかい!」
また罵りながら叩かれ、さらに今回は蹴りまで入れられた。
よろよろと起き上がった時に視界に入ったランドセルは、とても新品とは思えないほどヨレヨレだった。
愛子はまた泣けてきた。どうしてこんなことになってしまっているのか?どうしてこんな風に誰かに暴力をふるわれなければならないのか?
愛子が送り込まれたのは、母親に愛されない女の子の物語。もちろんクローネの意向だ。
「おはよう。“愛子ちゃん”、目が覚めたかい?」
「あ、あなたは…!」
姿を現したクローネに、愛子は怒りと憎しみを向けた。
「そんな目ができるなら、まだ大丈夫そうだね。またお母さんに叩かれる前に学校に行きなさいよ。100点を取ってきなさいよ。あ、さっきの人、ここの世界でのアンタの母親。今にまた叩きに来るわよ。クックックッ。」
皮肉たっぷりに言うクローネに、愛子はさらに激しい怒りを向ける。
「どうしてそんなことしないといけないのよ!何が100点よ!」
声を張り上げる愛子を見て、クローネは声を立てて笑いだした。
「何がおかしいのよ?」
「どの口がそんなこと言えるんだろうね。ああ可笑しい!」
愛子は何を嗤われているのか気づいていない。気づいていないだけに更にクローネへの怒りが増した。そしてクローネはそんな愛子にさらに憎しみを覚える。
「虐待と誘拐で、あの女もアンタも警察につき出してやる!」
「警察だって?面白いこと言うねえ。ここではアタシがルール。アンタが目を覚まさない限り、ここから出られやしないんだよ。」
「愛子!愛子!まだいるの?」
遠くから女の声が聞こえる。
「おっと。お呼びだよ。」
クローネはニヤリと笑って姿を消した。
「遅刻だなんて恥知らずめ!」
「ギャァ~!助けて~!」
女はまた愛子を殴り始めた。