〜秋の風〜
お昼を少し過ぎた時間。
わたし、川島湯乃は絶賛お仕事中。
サッ・・・サッ・・・サッ・・・と
枯葉を箒で掃く音が駅前に響きます。
景観を保つのも駅長の務めなのです。
赤や黄色の美しさを見せていた紅葉たちは
茶色くなり、地面を覆っています。
「まるで地面の茶色を吸い込んだみたいですね」
『おや、詩人だね』
いずみさんのその言葉に
どうも。と答える。
芸術の秋です、
少し詩的な表現もいいかもしれないですね。
箒で掃く度に、枯葉は集まり
こんもりとした山になりました。
ちょうどたき火をするのに良いくらいの
ベストな大きさです。
「・・・焼き芋」
お昼は食べたのですが、この時期は
美味しい物が食べたくなる季節。
それに、この地域は山の幸が美味しい!
川魚に山菜などなど挙げればキリがありません。
『先程の詩人の発言とは思えないな』
「残念ですが、同一人物の発言です」
自分で言ってあれですが、誰が残念ですか?
残念じゃないですよ。
残念な女性じゃないですよ。
ここは、ちゃんとした事も言わないと
ただの食いしん坊になっちゃいますね。
「でも、食欲の秋です。
食欲は無いよりもあった方がいいですよ?」
食は身体を作ります。食事はちゃんと取りましょうね。
お姉さんとのお約束だよ♪
『確かに。
それにこの時期は美味しい物が多いからね。
いい季節さ』
賛同を得られました。
実りの秋、芸術の秋、食欲や運動の秋。
一つの季節にたくさんの秋。
なんでもない物事にすら意味を見出したくなる
誰もがみんな芸術家。
四季折々を感じる駅でわたしの出会う秋の風。
ピューという音を立てて風が吹く。
木の葉を揺らし、髪と肌を少し冷たい風が撫でる。
秋を感じられる空気感。
ほんのり肌寒く、それでいて、どこか温かみを感じられる季節の変わり目。
空を流れる雲、風に舞う木の葉・・・
「・・・あ」
『おや・・・』
地面にあった木の葉は風と戯れました。
まるでワルツを踊るように。
「落ち葉のワルツですか・・・」
『ふふっ。詩人だね』
自然も、人も、みんながみんな芸術家。
そんな小さな秋の出来事です。
本編が書き進まない中、幕間劇は進みます。
なんでもない日常は好きです。