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27話

俺とヒラガは相撲のように組み合い、訳も分からず押し合った。5分ほど張り合ったところで、自分は何をしているのだろうかという。根本的な疑問に思い至ってしまい。俺は力を緩め組み合っていた体勢を崩した。


「はあ、はあ…気は済んだかヒラガ?」

「ふふふ、僕をここまで追い詰めるなんて奴じゃないかスドウ。」

「俺はどこまでお前を追い詰めたのかさっぱりだよ。」

「6:4でヒラガ君の判定勝ちってところかな?ウイナー、ヒラガ君!」


そう言ってカレンはヒラガの右腕を高々と掲げる。


「やったー。僕の勝ちだ」

「俺が負けたのか?…なんだろう急になんか悔しくなってきた…。おいヒラガもう一勝負…。」

「やだよ、僕はもう疲れたんだ。それよりマリカーしようよ。」

「勝ち逃げかよ!…まあいいか、よく考えるとやっぱり勝っても意味はないしな。」

「なんだよ、もっと悔しがれよ。相変わらずスドウは冷めてるな。この…クールガイが!」

「うるせえよ。つうかなんだよそれ。貶したいならもっとわかりやすく言ってくれ。なんだよクールガイって。」

「クールガイ?メノウ君ったら、いつの間に氷結属性を!」

「僕たちと戦った時とはまるで別人だ。スドウの奴いったいどんな修行を?」


俺たちは高校時代によくあったやり取りを行う。なんだか少し懐かしい気がしたが、タジマの奴はどこか居心地が悪そうにしているのに気が付いた。

…タジマを庇うの変に思われるか?でもこれくらいなら…。


「そこまでだ。タジマが話についてけてないぞ。お前ら頭を冷えせフリーズ。」

「スドウのフリーズ。場は凍りついた。」

「俺が滑ったみたいに言うのは止めろ、ヒラガ。」

「ははは、ごめんねタジマッち。私たちいっつもこんな感じなんだよ。慣れないとびっくりするよね。」

「いい」


「そう言えば、さっき氷結とか言ってたよね?それを聞いたら僕、なんだか喉が渇いてきて。」

「あ、私も私も。」

「カレンもかい?それじゃさ、スドウ僕と一緒に買いに行こうよ。」

「おい、俺たちはみ…。」

「僕たちは喉が渇いたからジュースを買いに行く。ただそれだけだよ。そこに問題はないだろ?」

「…ちゃんと片付けろよ?俺んちなんだから。」

「わかってるさ。大丈夫大丈夫。」


ヒラガの奴は調子よくそんなこと言う。こないだ酔いつぶれたあげく後始末を俺に押しつけたことを覚えていないのか?

…覚えてないんだろうな。


「あの…なにか買いに行かれるのですか?でしたら私が…。」

「…タジマさんだっけ?こういう時は男に任せてよ。僕とスドウで行ってくるからさ。」

「でも…。」

「気にしないでいいよ。適当に食べ物も買ってくるけど、何かリクエストはある?」

「いえ、私はとくに…。」

「ハイハーイ!私は豚足。っ…あいた、なんで叩くのさ、メノウ君!」

「そう言う無茶ぶりをヒラガにするのは止めろよ。こいつ本気にするだろ。」

「え、豚足くらいなら僕見つけて…。」

「今度はどこまで探しに行く気だ!?俺も一緒に探すなんて嫌だぞ。カレン、豚足は無理だが…チャーシューくらいで手を打て。いいな?」

「OKだ。ダーリン!それじゃ行ってらっしゃい。」

「…行ってらっしゃい。」


陽気なカレンと控えめなタジマに見送られながら、俺とヒラガは買い出しに出かけた。


「ホントに買ってこなくていいのかな豚足?」


アパートを出るなり、ヒラガはそんなことをつぶやく。


「いいんだよ、カレンは適当に言ってるだけだ。別に本気で食べたいわけじゃない。」

「ええ、そうなの!?」

「本気で言ってるときは…感じが違うんだよ。もっとこう…なんだろう。うまい言えないけど。違うんだよ。」

「…そうなんだ。」

「おまえなあ…。カレンに頼まれるといつもその調子なのか?聞いたぞ、小学生のころカレンに頼まれて海外までお菓子を行こうとしたらしいじゃないか?」

「ああ、あったね!いやーあれは大変だったよ。調べたら空港まで行けば海外に行けることは直ぐ分ったんだけど、そこからが大変でね。空港まで行くのに自転車で5日もかかると思わなかったよ。」

「自転車で5日間か…俺なら2時間くらいであきらめて家に戻るね。」

「ははは、僕もカレンの頼みじゃなければそうしたかもね。」

「…。」

「カレンがさあ、目を輝かせながら話すんだよ、そのお菓子の話を。だからさあ、思っちゃたんだよ。そのお菓子を買ってきたらきっとカレンは喜んでくれるんだろうってさ。」

「…親父さんに輸入してもらったんだろ?そのお菓子。どうだったんだよ?」

「それがさあ、食べてみたらこれがまずくて。見た目は確かにきれいだったんだけど、それだけだったよ。…難しいよな。僕はカレンのために手に入れたかったんだけど、結局うまくいかなかったのが悔しくてさ。泣いていたのを逆に励まされた…ちがうな、謝られたよ、カレンに。」

「…思い通りに事が進まないことなんて誰にでもあるだろ。お前はカレンのために行動した。」

「そうかな?」

「そうだよ。」

「…でもさ、うまくいかないんじゃ意味がないだろ。…相手に慰められるなんてそれこそ最悪だ。カッコ悪い。」

「…カッコ悪くなんてないだろ。お前の行為はちゃんとカレンに伝わってるよ。」

「それこそ…僕が救われないじゃないか…。」


俺はヒラガの言葉に何も言えなくなる。

ヒラガのカレンへの思いにはとっくに昔に気が付いていたから。だからこそ否定も肯定も俺にはできなかった。

それっきり、俺とヒラガは無言で歩く。コンビニについてもそれは変わらず、一言二言交わした後、適当に酒とつまみを買い。コンビニを後にした。

コンビニを出て暫くしてからだ、ヒラガは俺に話したそうに口を開くが、決意が固まらないのか俯くことを繰り返していたことに、俺が気が付くのは。


「なんだよ?話したいことでもあるのか。」

「あれ、気が付いていた?」

「バレバレだよ。さっきから何度もこっちを見ては、何か言いたそう口を開いては閉じてを繰り返されてはな。」

「そっか…バレバレか。…それじゃ聞くけど。スドウ。なんで、お前の部屋に…タジマさんがいたんだよ?」

「…なんだそんなことか。」


なんてこともないような態度をみせつつ。俺はタジマがカレンに説明した内容をヒラガに聞かせてやる。本当に起こったことは巧妙に隠したまま。


「そうか、そういう訳だったのか。」


ヒラガはそう言ってあと、何度か頷きそのまま黙り込んでしまう。俺も何を言ったらいいかわからず、俺たちはそのまま無言でしばし歩く。


「なあ、スドウ。…信じていいんだよな?」


ともに歩んでいた足を止め、ヒラガが急に俺にそんなこと言った。

ヒラガの問いに心臓が早打つ。胸の内に苦しいものが湧き上がってくる・


「何を言ってるんだよ?…気になるならカレンにでもタジマにでも聞けよ。何にもないさ、お前が気に病むことなんて。」


だが俺はそんな内心をおくびにも出さず、平然とそう答えるのであった。


「…そうか。…そうだよな。」


俺の返答にヒラガはほんとにうれしそうに笑顔を浮かべるのだった。


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