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22話


(やっちまった。)


俺が待ち合わせ場所に急に来なくなったことを、カレンの奴はさぞ不審に思ったことだろう。

ギラギラとやたらまぶしいモニターを呆然と見つみながら、考えることは先ほどの自分が犯した失態だ。


(待ち合わせ場所まで行っておきながら、なんで逃げるんだよ。)


先ほどまで、スマホの液晶には、カレンとヒラガの名前が交互に浮かんでは消えるのを何度も繰り返していた。

早くと出ろと急かしてくるスマホさんのけたたましい催促から逃れるように、俺はやかましい騒音を響かせていたゲームセンターに転がり込んでいた。

辛抱強く、電話に出るように訴えてきたスマホさんだったが、俺が機械仕掛けのお馬さんとのコインゲームで遊んでいたら、疲れてしまったらしい。今は静かにご就寝だ。


(…電話に出て何を言えばいいんだよ。浮気した後ろめたさで体調が悪いから行けませんんってか?…それが言えれば苦労はないんだよ!)


間抜けな動きでゴールを目指すお馬さん。…またはずれだ。順調に減っていくコインを眺めながら思う。今何を選んでも今日は裏目にでるなと。


(あれからカレンはどうしたのだろうか?)


電話が鳴らなくなってから既に30分以上が経過していた。まだ待ち合わせ場所にいるなってことは流石にないだろう。次の行動をとっているはずだ。


(諦めて帰ったか、しかたなくヒラガと一緒にカラオケに出かけたか、それとも……。)


俺の頭の中にある考えがよぎる。その瞬間、先ほどまで鳴り響いていた騒音が一切聞こえなく、視界が真っ白になる。


(俺を探して…アパートに向かった!?)


何も聞こえない、何も見えない。ただ、心臓の鼓動だけがうるさい。


(落ち着け、そんはずは…いや。でも…アイツ(カレン)は…。)


カレンにはアパートのカギは渡してある。恋人なんだから当然と、強引に持って行かれた。


(カレンが来るはずがないだろ!)


しかし、あんな変な断り方をしたんだ。もしかしてカレンは俺が急病じゃないかと要らない気を回す可能性だってある。

それでアパートに踏み込まれでもしまったら。


(タジマは帰ったはずだ!)


だけど、俺が家を出てから1時間しかたっていない。俺はタジマに直ぐ帰れだなんて言っていない。帰るなら鍵を閉めろと言っただけだ。

なら、まだいてもおかしくない?


(電話だ!カレンに電話を…。)


俺は思わず立ち上がり。スマホを取り出すとカレンの名前を探しだし、通話ボタンを押そうとする。しかし。


(なんて…言えばいいんだ?)


家に別の女がいるから、行かないでください?馬鹿か?言えるわけがないだろう!そんなことは。


(電話をかけるならタジマだ。今すぐ家を出るように…。)


タジマの名前を必死で探す。しかし、あるはずがなかった。

タジマは昨日までタダの同僚だ。バイト関係で連絡を取るときは店長経由が決まりだったし、何も関心がなかった相手の番号など聞いているはずがない。


(なんでないんだよ!)


俺は苛立ちのあまりスマホを地面に叩きつけたい衝動に駆られるが、こらえる。


(落ち着くんだ。慌てるな。パニックになるな。)


アパートに固定電話はない。タジマに連絡を取ることはできない。だから、連絡を取るならカレンが正解だ。

(すっぽかした理由はこの際どうでもいい、いまはとにかく、カレンに連絡を取らないと。)


俺は震える手で、スマホを操作する。焦りのあまり思った通りにアプリを操作できない自分が、もどかしくて仕方がなかった。

カレンの名前を見つけた俺は、即座に通話ボタンを押す。間抜けなコール音が俺の耳元で

ささやくのが苛立たしい。


(早く出ろよ!頼むから。)


永遠に思えたコール音は、突如途切れる。


(よかったつながった)


どうやら間に合ったようだ。俺は安堵に胸をなでおろすと電話先のカレンに対して急いで語りかける。


「カレンか!いまどこに…。」

「おかけになった電話番号はカレンちゃんのものですが、拙者はただいま所用にて、出ることができぬ。御用がある方は愛のあるメッセージを…」


なにもかも上手くいかないいら立ちから俺はスマホを思わず床に叩きつける。その瞬間、ゲームセンターの客が一斉に俺を振りかえる。


(冷静になれ、自棄になるな。まだ、まだ大丈夫だ。まだ…。)


俺のことを奇妙な生き物のように見つめる観客を尻目に、俺は荒い息のまま、スマホを取り上げると、そのまま走り出す。


(アパートに早く戻らないと…)


脳内に浮かぶ最悪の展開に急かされるように、俺は繁華街を全力疾走した。


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