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2話

「おはようございます。」


俺はバイト先のコンビニに適当に挨拶をしながら入店する。

商品を補充していた女が、控室に向かう俺を一瞥するが、すぐに視線を戻し、作業を再開する。今日もアイツがいっしょか…。


但馬晶タジマアキラ俺のバイト先の同僚。性別は女性。年は確か19。年上だ。それ以外は何も知らない。

話しかけても必要最低限の答えしか返ってこない無愛想な女。それがタジマに対する俺の印象だ。

俺がタジマと交わすのは仕事に関する話だけ。どこの生まれか?大学には行ってるのか?趣味は?バイト先の同僚だというのに、俺はタジマについて何も知らない。

だがそれでいいと思う。仕事が同じだから、同年代だからといって相手を理解し、共感する必要などはないのだから。


制服に着替えた俺は、タジマに作業状況を確認しようと声をかける。


「作業はどうすればいい?」

「いつも通り、商品の補充。惣菜関係はまだ大丈夫。」

「わかったよ。」


そう言って、俺はタジマに背を向け作業を開始する。単純だが、ただ何も考えずに手を動かせばいい作業は今の俺には救いだった。


「私、控室にいるから。」


タジマは作業を終えたらしい。そう俺に声をかけると、さっさと控室に行ってしまった。俺も補充作業がちょうど終わりだ。

空になった商品ケースを片付けるとレジに立つ。

深夜のコンビニのバイトなど楽なものだ。繁華街ならともかく、町はずれにあるようなコンビニに来店するような暇な奴など数えるほどしかいない。

俺もタジマと一緒に控室にこもっていればいい。そう思うのだが、何となく足が進まなかった。

何を話せばいいかわからないし、話したいことなどない。黙っていればいいのかもしれないが、もし会話することになったらと思うと気が重い。

俺の現状を話して憐みの感情でも持たれたら、それこそやりきれない。誰も来ないレジに立ちながら、そんなろくでもないことばかり考えていた。


「おーい、何をぼーっとしてるの?はいこれ、くださいな!」


くだらない思考に意識を飛ばしていた俺は、そんな脳天気な声で現実に引き戻される。目の前には見慣れたショートカットの女が立っていた。


「ダメだよ。バイト中なんだから、気を抜いちゃ!でも、物思いに耽るメノウ君もいいね!かっこいい!!」

「カレンか…。バイト先には来るなって言っただろ…。」

「やだ。」


まるで幼子のような言葉で、俺の命令を拒絶するカレン。俺はため息交じり肩をすくめるとレジを打ち始める。


「こうでもしないとメノウ君に会えないでしょ!最近はバイトバイト言ってロクに会話もできないじゃない。私、メノウ君の恋人さんなんだからね。」

「悪かったよ。」

「ブーブー。」


カレンは可愛らしく唇を尖らすと拗ねたような顔になる。


「…一人暮らしで、いろいろ物入りなんだよ。だからバイトしないと…」


俺はカレンに後ろめたい罪の意識を感じながら、それをごまかすように言い訳をする。

本当のところは金になんて困ってはいない。

逃げているだけだ。カレンに会えば、両親に会えば、勉強をすれば、いやでも現実を思い出してしまう。アルバイトをしている間だけは、それを忘れることができたから。

最近は時間ができるとつい、いやなことばかり考えてしまう。進学のこと、両親のこと、そしてカレンのこと…。


「まあ、しかたない。新生活も始まったばかり、いろいろ物入りだもんね。許してあげましょう。カレンちゃんの寛大な心に感謝しなさい。具体的には今度の日曜、今話題のアイスクリームさんの屋台に私を連れて行くこと。いいかねメノウ君?」

「その日もバイトなんだよ…。」

「夜からでしょ?お昼からでいいから。」

「いや…。」

「ほんの少しだけ?ねえ、いいでしょ?」


カレンの奴は俺の手を取ると、執拗にデートの約束を取り付けようと執拗に食い下がる。その強引な態度とは裏腹に、カレンはどこか不安そうな表情をしていた。


「わかったよ。行けたらな…。」

「やったー。カレンちゃん大勝利!ちゃんとおしゃれしてきてね。普段の三倍増しで可愛くしていくから。」

「何が三倍増しだよ。」

「なによ、そのあきれた態度は!ふん、日曜日は吠え面かかせてやるから覚悟しなさいよ。それでは、さらばだ。メノウ君!」


カレン奴はレジ袋を受け取ると、陽気に去っていった。

高校の時と変わらない、いつものやり取り。それなのにカレンはどこか無理しているように思えた。そのはずだ。彼氏がこのざまでは無理していないはずがない。

必死に高校時代と変わらない態度をとることで俺との関係を保とうと必死なのだ。

カレンの気持ちには気が付いている。気が付いているが、今の俺にはカレンを思いやる気持ちより、日曜の約束をどうにか断れないかと考えるダメな人間だった。

いっそのこと別れたほうがいいのかもしれない。そう考えながらも、俺はそれをカレンに切り出すことができない。

自分がどうしたいのか、どうすればいいのかがわからない。俺はいったいカレンとどういう将来を望んでいるのだろうか?


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