16話
俺はいまだ焦げ臭い異臭を放つ電子レンジに苦戦していた。最悪なことに、弁当の容器が少し溶けたらしい。汚れがこびりついて落ちないぞ。
諦めて知らん顔したいところだが、こういう汚れを放置すると火災の原因になると聞いたことがある。それに汚れを放置すると、今回の件が店長に気づかれる恐れがある。もう少し頑張ってみるか。
「…あの、大丈夫ですか?」
俺が電子レンジの清掃に四苦八苦していると、タジマが恐る恐るといった様子で話しかけてきた。
「うーん。汚れがこびりついちゃっていて、なかなか…。」
「そうですか…ごめんなさい。迷惑をかけてしまって。」
「大丈夫なんとかするよ。それよりタジマさん、もしかして調子悪い?だったら、こっちはいいから休んでいてよ。」
これ以上、仕事増やされちゃたまらない。俺はそんな内心をおくびに出さず、笑顔なままタジマを追い払おうとする。
「…でも。」
「いいからいいから。」
「ごめんなさい。私が役立たずのせいで、スドウサさんに余計な手間を取らせてしまって…。」
タジマは力なくうなだれる。俺の顔色を窺いビクビクするその姿はまるで叱られた子犬のように頼りなかった。
「タジマさんが役立たずなんて、そんなことないよ。たまたまだって。調子が悪い時ぐらい誰でもあるよ。」
俺はそんな月並みな言葉をタジマにかける。慰めてほしいのは分かるが、さっさと引っ込んでくれ。これ以上、俺に手を煩わせないでほしい。
「スドウさんは…。」
「え。」
「やさしいですね。」
「…そんなことはないよ。」
「いえ、やさしいです。失敗した私のために一生懸命になってくれて、私のことまで気遣ってくれて。」
「別に大したことじゃないよ。」
「それだけではないです。お金に困っている私のことも助けてくれました。」
急に俺のことを持ち上げて、タジマの奴はいったい何がしたんだ?
今日の失態で俺に迷惑をかけたことがそんなに後ろめたいのだろうか。俺は気になって、作業の手を止めると、タジマに向き直る。タジマの奴は泣いていた。
「タジマさん!?どうしたの?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
驚きとまどう俺に対し、タジマは罪の言葉をただ繰り返すだけだった。