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14話

「もう、こんなに可愛い彼女が部屋に遊びに来ているっていうのに、空き缶の相手をさせるだなんて、この男ときたら何を考えているんでしょう。」

「文句言ってないで働け。」

「せっかく彼女を部屋に連れ込んだんだよ!?もっとあるでしょ、こうリビドー的な?」

「このゴミだらけの部屋でか?」

「わかってないな、メノウ君。愛に場所なんて関係ないんだよ。」

「そうなのか?」

「そうだよ。さあ、バチコイ!!」

「悪いがコイツの相手をしてくれないか?」


両手を広げ、唇を尖らせるカレンに俺は持っていたゴミ袋を押し付ける。


「や、だめ。彼氏がそばにいるのに…そんな激しい。嫌、見ないでメノウ君!ああん。」


俺の目の前で、カレンはゴミ袋に押し倒されながら、激しく抱擁し甘い声を上げる。こいつまだ酒が抜けてないんじゃないだろうな?

カレンはこんな調子なので、昨日の宴会で後始末は、結局のところほとんど俺一人で片づけをしまった。


「ヒラガの奴は何で来ないんだよ?」

「ヒラガ君はバイトだって。ごめんって言ったよ。」

「さよですか。」

「さよですよ。これで最後だね。さあイチャイチャしようぜ。マイハニー。」

「あほか。」

「あいて、もう何すんだよ。」


飛びついてきたカレンを、俺はチョップで黙らす。カレンは不満そうに唇を尖らすが、俺は無視して、ゴミ袋を玄関口に置きに行った。

ゴミ袋を置いて戻ってくると、カレンは不思議そうな顔で手に取った何かを眺めていた。


「これどうしたの?本なんて珍しいね。」

「ああ、ちょっと知り合いがな。本好きみたいなんだが、押し付けられちまった。」

「へえ、そうなんだ。知り合いって誰?私が知ってる人?」

「バイト先の人だよ。」

「それじゃ、私分からないね。」


興味を失ったのか、カレンは本をテーブルに上に戻す。


「部屋も片付いたことだし、デートしようよ。メノウ君!面白い映画があるだって。友達が言ってたの『デビルマンVSメタルマン 世紀の大決戦』。面白そうでしょ。」

「なんだよ、そのいかがわしいタイトルは、大丈夫なのかそれ?」

「えーなんで?世紀の大決戦だよ!面白そうじゃん。ね、行こうよ。」

「仕方ねえな…。」


カレンに腕を引かれ、俺はしぶしぶ了承する。

夕暮れというには遅く、夜というには早い曖昧な時間の中、俺とカレンは連れ立って歩く。俺の横を歩きながらカレンはたわいのない話を笑顔でする。先日までギクシャクしていたのが嘘のようだ。


(これでよかったんだよな?)


カレンに対する劣等感はなくなったわけでない。それでも仲直りしたことで、カレンはこんなにも喜んでくれている。

俺がほんの少しばかり我慢すればいいだけだ。不満を飲み込めばいいだけだ。

付き合う相手のすべてが理想的でなければならないなんて、そんな幻想的なこと言ってもしょうがないことくらい理解できている。


(俺はカレンことが嫌いじゃないんだから。)


俺は頭に沸いた疑問を振り払い。カレンとの会話に意識を集中しようと努める。しかし、目の端に見知った人影が写り、足を止めてしまう。


「どうしたの?」

「いや、知り合いが…。」


足を止めた俺を不審に思ったのか、カレンが俺の顏を覗き込んできた。俺は人影のほうを振り向き事情を話すが、相手も俺に気が付いたのか走り寄ってきた。


「スドウさん。奇遇です…ね。」


近づいてきたタジマは腕を組む俺とカレンの姿を見て、何やら驚きの表情を浮かべる。俺に腕を組んで歩く女がいたことがそんなに意外と思われていたのか。なんだか不愉快だ。

「今晩はタジマさん。」

「…こんばんは。」


タジマはどこか弱弱しい様子で挨拶を返してきた。おそらく、俺一人だと思って話しかけてきたが、カレンがいて戸惑っているってところか。内向的な性格みたいだし。


「だれ?」

「バイト先でよく一緒に仕事しているタジマさん。」

「そうなんだ。私は牧島花恋マキシマカレン。なんとスドウ君の彼女なんです。よろしくね。」

「彼女…い、いえ。すみません。私は但馬晶タジマアキラと申します。よろしくお願いします。」

「よろしくね。」


タジマ気の毒なくらい狼狽えている。無理もない。明るいカレンの芸風にタジマはついて行けないんだろう。あまり困らせても悪いし、早いとここの場を離れるとするか。


「これから映画を見に行くんだ。時間も迫ってるんでこれで失礼するよ。」

「おいおい、ただの映画鑑賞じゃないだろ?“愛する彼女と一緒に”が抜けてるぜ。ダーリン。」

「うるさい。お前は黙ってろ。それじゃタジマさん。またバイトで。」

「ええ、気を付けて。」

「バイバイ。タジマさん。」


そう言って俺たちはその場を後にする。タジマは小さく手を振って俺たちを見送ってくれた。


「ふーん。バイト先にあんなかわいい子がいたんだ。知らなかったよ。」

「なんだよ、やきもちか?」

「ちがうもん。カレンちゃんはそんなに度量の小さな女じゃないもん。」

「そんな顔するなよ、ただの同僚だよ。」

「その割には、私も見てショックを受けていたみたいだけど。」

「うん、何か言ったか?」

「べーつに、このにぶチンが!」


拗ねたような表情でカレンは俺の脇腹をつついてくる。俺はなぜか機嫌が悪くなったカレンをどうやってあやすか頭を悩ますのであった。


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