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11話

月曜の昼下がり、俺は近くの市民図書館で勉強に勤しんでいた。アパートで勉強しない理由は、別に環境を変えて集中したいとかそんな殊勝な理由でない。単に俺の部屋がゴミだらけだったからだ。

誤解してほしくはないのだが、別に俺は片付けができない人ではない。犯人は別にいるのだ。

俺の部屋を汚した下手人たちは、昨日深夜まで飲み散らかしたあげく、今日は朝から講義があるからなどいう理由で片付けもせず慌ただしく出て行った。

一人残された俺は、汚れた部屋で勉強する気にはなれなかったが、あの馬鹿共カレンとヒラガの尻拭いを素直にするに気にはなれない。連中に掃除させる間の妥協案として、俺は図書館で勉強をしているというわけだ。


「8割がた正解ってところか。」


採点を終えた俺は、何気なくそんなこと呟いた。この結果には何の感慨もわかない。目標大学の過去問くらいできて当然なのだから…。

今日はここまででいいだろう。根を詰めてやるほど切羽詰まってない。忘れない程度に、継続すればいいだけだ。すこし遅いが昼食でも食べて帰ろうか?

俺は日課の勉強を切り上げると席を立ちあがる。


「え、うわ。」


振り返った瞬間、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。すぐ目の前に人がいたからだ。

すぐ俺の背後にずっといたのか?全く気が付かなかった。


「す、すみませ…。」


驚いたことが失礼かと思わず謝ろうとした俺は、思わず言葉に詰まる。目の前の人物に見覚えがあったからだ。


「えっと…。タジマさん?奇遇だね?どうしたの?」


俺はしどろもどろになりながら、タジマに問いかける。いつからいたんだ?まさかずっと俺の後ろにいたんじゃないだろうな?軽くホラーだぞ、それ。


俺の頭の中はパニックだ。だがタジマのほうも様子がおかしい。俺の問いかけにどこか答えにくそうに、もじもじとするばかりだ。なんだ、俺に用があるわけじゃないのか?

タジマは口を開き言葉を発しようとするが、決心がつかないのか、再び口を閉じてしまう。俺はじれったくなるのを我慢しながら、辛抱強くタジマの言葉を待った。


「スドウさんの姿が見えたので…。」


何度目かの逡巡の後、タジマは消えりそうな声でそんなこと言った。俺の姿が見えたからなんなんだ?なんでこいつはここにいるんだ?こっそり背後をとってタジマは何がしたかったんだ?俺はこの答えにどう切り返せばいんだ?次々と脳内に浮かんでくる疑問に俺は翻弄される。


(次に俺は何を言えばいいんだ?)


迷ったあげく対応を決めかねた俺は、逃げることにした。


「そ、そうなんだ。あの、そのタジマさん。俺これからお昼なんだ。」


それじゃさよなら。そう続けようとした俺の言葉は、タジマの予想外の一言に遮られた。


「私もお昼まだ。」

「…そうなんだ。」


なんなんだこの女?俺にどうして欲しいんだ?まさか一緒に食べたいとでもいうのか?特に親密でもない俺と?何を好き好んでそんな気まずいことしなければならないんだ?

うまいこと断れないか俺は考えを巡らすが、心細そうに俺を見上げるタジマの視線に、俺は自身の敗北を悟る。


「…図書館前のファミレスでもいいかな?」


タジマは黙ってこくんを頷く。なんともいない居心地の悪さを感じたものの、俺はあきらめて事態を受け入れるとファミレスに歩き出す。タジマは静かに後をついてきた。


(俺はこの女といったい何を話せばいいんだ?)


ファミレスに移動するまでのわずかな時間、俺はそのことで頭がいっぱいだった。


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