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倒れた黒猫

ヨハン視点→アルロンド視点になります


ヨハンが精霊の後をつけると、冬物の上着などをしまっているクローゼットに入っていった。皆嬉しそうにニコニコしている。


(クローゼットに何か置いておきましたかね?食べ物を運んでいましたし…動物でも入り込んだのでしょうか?)


ヨハンが考え込んでいると、クローゼットの中から物音がした。


(ん?これは……)


ヨハンはさっきまでは感じなかった人間のような気配と、同じ契約精獣のケットシーの魔力が不安定な状態で存在していることに気がついた。意図的に気配を消そうとして、けど上手くいかず魔力が溢れるような状態でもあった。



(人間?だが、ケットシーの魔力?わからないですね、まずは見てみましょうか)


ヨハンがクローゼットの扉をそっと開けると同時に、ゴトンと何かが落ちたような大きな音がした。


「何の音でしょうか?…………子供?」


クローゼットの奥には、汚れてボロボロのTシャツを着た、黒髪の子供が床にぐったりと倒れていた。子供の回りには、様々な種類の精霊が浮いていて、心配そうに子供を揺すっていた。床には林檎やティーカップに入ったミルク、膝掛け、パンなどがあり、精霊達がこの子供の世話をしていたようだ。



「どうやらさっきの音はこの子がたてた音でしょうか?精霊達よ、この子は誰でしょうか?」


ヨハンが声をかけて、精霊達は初めて自分達以外がいることに気がついた。



ータスケテー


ータスケテー


ーコノコ、タオレター


ーゴハン、タベナイー


ーオネガイ、タスケテ!ー



一斉に精霊達が叫びだし、それぞれの魔力が暴走し始めた。暴走する魔力は鋭い刃となり、ヨハンの束ねていた髪をほどき、服を破き、頬に切り傷をつくった。強い風が通り過ぎ、眼鏡が吹き飛んだ。


「おやおや、精霊達よ落ち着いて下さい。この子供が倒れたのですか?少し見せて下さい。」


頬から血が垂れても、ヨハンは全く慌てず、冷静に精霊に話しかけた。すると、目の前に火の精霊が現れ赤い瞳でヨハンを鋭く睨み付けた。


ーコノコニ、ヒドイコトスルカ?ー


「いいえ、そのような事はいたしません。」


ーホントウカ?ー


「誓って、倒れたそうなので見てもよろしいですか?」


ーコノコヲ、キズツケルコトハ、ユルサナイ………タスケテクレー


「随分と好かれていますね。」


火の精霊がよけたので、ヨハンはそっと子供の肩に触れ揺らした。


「もしもし、大丈夫ですか?」


声がけに反応はなく、触れている肩は細く、とても熱かった。


「熱がありますね。」


顔が見えないため両腕で持ち上げると、見た目よりも軽く、裾からこぼれた足は折れそうな位細かった。苦しそうに荒い呼吸を繰返し、顔を真っ赤にした子供は、良く見ると黒髪の中に伏せた猫耳があり、黒い尻尾がだらりと力なく垂れていた。


「ケットシー?いや、人間の気配もしますね」


顔を見ても、触れてみても、いまいち存在がわからず、ヨハンは内心困っていた。


「体調が悪いようなのでベッド「わぁぁぁぁー!!!」に移動しましょうか」


ヨハンの言葉に被せるような叫び声が、二階から近づいてきた。ヨハンは子供をお姫様抱っこに抱え直し、近づいてくる声に溜め息をはいた。






アルロンドは光が当たり、ポカポカするソファーにだらしなく横になっていた。今から研究を始めても、ヨハンの食事やら風呂やら掃除やらで邪魔されてしまうため、二度寝しようと微睡んでいた。


ウトウトしていると、一階から精霊の魔力の暴走を感じて目が覚めた。


「……なに?」


一階の魔力を探ると、すぐそばにヨハンもいるようだ。


「ヨハンいるならいいかな~?ん?」


大事になったらヨハンが呼ぶだろうと、二度寝を再開しようとすると、風の精霊が凄いスピードで二階のこの部屋に向かっていた。


あっという間に部屋の前まで来ると、強い風が力業で扉を吹き飛ばし、部屋の中は竜巻の中のように風で荒れていた。書類や薬草が舞い上がり、アルロンドは青ざめた。


「何なんだいったい……うわっ」


立ち上がろうとすると、風で体が浮き複数の風の精霊が周りを飛んでいた。


ータスケテ!ー


ーアルロンド、タスケテ!ー


精霊の悲鳴のような声に驚いていると、そのまま凄いスピードの風に押されて一階に向かって運ばれた。それはこの世界にはないジェットコースターより速く、ぐらぐらと不安定に揺れる恐ろしいものだった。


「わぁぁぁぁー!!!」


自らの魔法で浮いたり飛んだりするが、あまりの不安定さにアルロンドは真っ青になって叫んでいた。


ぐるぐる回る風のなかもう少しで吐くという所で、アルロンドは床にお尻を打ち付けた。風の精霊はアルロンドを乱暴に風から落としたようだ。

目は回る、気持ち悪い、痛い、アルロンドは色々不満を言いたいが、いまだに周りで精霊がタスケテと叫んでいるため、ぐっと堪えて目を開けた。目の前には、2日前にみたケットシーのような子供を抱っこしたヨハンが立っていた。


「えーと、どうしたの?何があったわけ?」


「私もたった今この子供に会ったばかりです。熱があるようですね。」


良く見ると、苦しそうに呼吸を繰り返していた。


「この子、精獣界に帰ってなかったの?」


「アルロンド様はこの子供を知っているのですか?まぁ、後でお話し下さい。かなり衰弱していますし、熱もあります。客間に寝かせますね。」


「そうだね、精霊たちも落ち着かないみたいだし」


精霊達は子供の顔を覗き込んだり、頭を撫でたりとぱたぱたと動き回っていた。


二人は二階のアルロンドの隣の部屋に子供を運んだ。精霊達は心配そうに後をついていった。



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