新キャラは執事
今回はリンちゃん出ません
朝陽がベッドの中に射し込み、アルロンドは綺麗な顔をしかめながら唸った。
「う~ん、ダルいな~」
ゆっくりと上半身を起こし、両腕を天井に向かってぐっと伸ばすと関節からポキポキと音がなった。
「いたた、お腹が減ったな~」
ベッドから降りて、デスクに置いてあった冷めた珈琲をグビッと飲んだ。
「不味い…これ、いつのだ?」
パンやクッキーが入っていた籠は空っぽで、回りには積み重なった本や、書きなぐったあとの紙が散らばっており、食べ物は無かった。
「よし、ヨハンを呼ぼうかな」
部屋の隅のスペースに向かって、アルロンドは召喚用の呪文を唄い始めた。呪文に合わせて、床に金色の魔方陣が浮かび上がってきた。
「いでよ眠り誘う羊、ヨハン!」
一陣の風が吹くと、そこには濃いグレー色のウェーブのかかった髪を後ろで結び、口髭のある執事服をピシッと着こなした60歳位の老執事が立っていた。眼鏡の奥にある緑色の瞳をスッと細め、アルロンドを上から下まで見て
「アルロンド様、最後に入浴されたのはいつですか?不潔です。洋服も着替えを出しておいたはずですが、あれはどうしましたか?まさか一人で着替えも出来ないのですか、情けない。お食事はどうしましたか?日持ちのするパンやクッキーを用意しておきましたが、あれは間食用なので、量がそれほど無かったと思いますが。人間は飲食をしなければ死んでしまうのでしょう?死にたいのですか?あぁ、忘れていました、アルロンド様おはようございます。」
召喚されてから一方的にアルロンドに話したのは、アルロンドの召喚獣の〈眠り誘う羊族〉のヨハン。本来は羊の姿をしており、名前の通り、人間が寝付きやすいように羊の数を数えるという迷信から生まれた精獣である。人間の枕元にたって良い夢が見れるようにし、そのときうまれる幸福感を好んでいる。人間の近くにいたせいか、人間の生活に興味を持ち、人間になりきって溶け込むように生活をしている者が多い。ヨハンもその一人で、何度か貴族の家で執事の仕事を経験してきた。今はアルロンドの召喚獣となり、この家の家事をしている。本来なら精獣界に帰らず、アルロンドの世話をしたいが、小言が多いためアルロンドが嫌だと帰してしまうのだ。
「相変わらずだねヨハン」
いつも召喚のたびに同じ事を言われるため、アルロンドは苦笑した。
「アルロンド様がしっかりしていただければ、私も毎回言いません。」
ヨハンはピシャリと言い返すと、指をパチンとならした。温かい風が吹くと、アルロンドの体はスッキリとした爽快感に包まれた。
「あ~気持ちいい。ありがとう!」
「キッチンを片付けたら、温かいお茶を準備しましょう。その後入浴されてから食事にいたします。では、一度失礼いたします。」
ヨハンが頭を下げて、扉に向かおうとすると、アルロンドは慌てて声をかけた。
「ヨハン!僕はトマトスープパスタが食べたい!」
「かしこまりました。」
ヨハンはまず、浴室を掃除しようと思い一階に降りた。浴室の扉を開けると、大きな窓から朝陽が入りとても明るく、とても綺麗だった。
「…入浴していなかったのでしょうか?…」
いつもなら、泡が飛び散り、脱いだ服が床に散らばっているはずだが、珍しく使用しなかったのだろうとヨハンは判断した。では、次にキッチンへ行こうと廊下に戻ると、横を浮いた妖精が通っていった。
「今日は一段と精霊が多いですね。」
土地柄として精霊は多いが、こんなに家の中で見かけることは珍しかった。ヨハンは首をかしげながらキッチンへ向かった。キッチンの扉を前に立ち、ヨハンは深呼吸をした。毎回このキッチンは悪臭が酷く、ヨハンでさえ気合を入れないと扉を開けれない魔境だった。
「…行きましょうか」
ゆっくりと扉を開けると、朝陽を浴びて白い食器がキラキラと光を反射し、爽やかな柑橘系の石鹸の香りがした。ゴミは一つも落ちていない状態に、ヨハンは驚いた。
「これは……あのケットシーがしたのでしょうか?いや、彼は濡れるのが嫌いなのでキッチンには来ないはず……アルロンド様は……ないですね」
いつもと違う様子にヨハンは首をかしげた。
(何かいつもと違いますね……また精霊ですか ……精霊?)
考え事をしていると、視界に林檎を抱えた木の精霊がふよふよと浮いているのが入った。そのまま妖精を目で追うと、廊下の奥に向かって飛んでいた。良く見ると、光・風・水の精霊がそれぞれ、パンやティーカップ、ミルクの瓶を持っていた。リビングの部屋からは、火の精霊がアルロンド様が気に入っているフワフワな膝掛けを運んでいた。
(精霊達が食べるわけではないですし、みな同じ方向に向かっていますね。)
ヨハンはそっと音もたてずに後をつけた。精霊達はみなリンが喜ぶ顔を思い浮かべていたため、ヨハンには全く気がつかなかった。
次回、リンちゃんとアルロンドがやっと関わります




