おいしいご飯ウマウマ
フィリップからウサギの人形をもらったあと、リンは人形を抱き締めながら眠ってしまったため、アルロンドはリンを抱っこしながら、馬車で過ごした。フィリップとヨハンが残りの食器や、寝具、家具などを購入し終わる頃には、陽が傾き始めていた。カンバール家に戻り、馬車から降りる振動でリンは目が覚め、アルロンドの肩の向こうにいるヨハンと目が合った。
「アルロンド様、リン様が起きたようです。」
ヨハンの声にアルロンドはリンを抱き直すと、まだ眠そうに目を擦るリンに微笑んだ。
「リン、おはよう。目を擦ると赤くなるからやめな。」
アルロンドから頭を起こして周りを見ると、ガジールがフィリップから上着を受け取っていた。
「フィリップ様、アルロンド様、夕食の準備が整っています。食堂にて旦那様がお待ちです。」
二人は頷き、揃って食堂に向かった。リンはアルロンドの肩越しにガジールを目で追っていると、顔を上げたガジールと目が合い、パッと隠れた。もう一度そーと顔をあげると、ガジールはニコニコとリンを見ていた。リンはどうしようか迷ったが、小さな手をヒラヒラと振ってへらりと笑った。リンの姿にガジールはキョトンとした表情をしたかが、柔らかく微笑むと小さく手を振り替えしてくれた。手を振り替えしてくれたのが嬉しくて、リンはアルロンドの肩に頭をグリグリと擦り付けた。
「ん?リンどうしたの?」
アルロンドがリンに目を合わせて聞くと、リンはクスクス笑いながらアルロンドにすり寄った。
『ひつじしゃんが、バイバイしてくれた』
アルロンドが後ろを振り向くと、ガジールが姿勢良く後ろを歩いていた。
「アルロンド様、リン様は可愛らしいお嬢様ですね。」
面白くなったのか、いまだにアルロンドの肩にグリグリと頭を押し付けているリンをチラリと見てから、アルロンドはガジールに微笑んだ。
「リンは本当に可愛いよ。妹が出来たみたいで、何でもしたくなってしまうよ。」
アルロンドの言葉に横を歩いていたフィリップも微笑んだ。
「確かにリンは妹みたいだな。我が家の可愛い妹は何をしても可愛らしいな。」
3人がクスクス笑っている事に気がついたリンは首を傾げたが、フィリップに頭を撫でられて嬉しそうに笑っていると、食堂についた。扉の先にはジェームズが座って書類を見ていた。
「父上、ただいま戻りました。」
「お帰り、買い物はすんだかい?」
「大体はすんだかな?服はまた時間をつくって買いに行くよ。父さん、リンの人型はまだ見てないよね?さっそく新しい服を着てきたんだよ。」
アルロンドの問いにジェームズは書類から顔をあげると、アルロンドの腕の中に黒髪にオレンジ色の瞳の小柄な女の子がいた。黒髪からのぞか猫耳と尻尾はパタパタと動き、服装は何処かアルロンドを意識したようにシャツやリボンの色合いが似ていた。
「リン、新しい服はアルロンドとお揃いで似合っているよ。」
ジェームズの言葉にリンの尻尾はバタバタとせわしなく揺れ、ジェームズに向かって頬を赤くしながら興奮したように話した。
『パパしゃん!あのね、リンね、アルしゃんといっしょがいいっていったの。じーじがアルしゃんといっしょのリボンでかみをぎゅってしてくれたの!フィーしゃんがウサギのにんぎょうかってくれたの!ウサギしゃんね、アルしゃんとおんなじおめめなの‼リンね、リンね、うれしくて、ぎゅーしてたらね、ねちゃったの。』
アルロンドと一緒と言われて嬉しかったのか、この世界にきて一番話したリンは、最後には息切れをして呼吸を荒くした。アルロンドもここまで話す姿は初めてで、ポカーンとリンを見ていた。驚いていたジェームズは、はじめは驚いていたがクスクス笑うと優しくリンを見つめた。
「リンはアルロンドが大好きなんだね。」
『うん!リン、アルしゃん、だいすき‼』
ニコニコと話すリンを、アルロンドはぎゅーと抱きしめた。リンも嬉しそうにアルロンドの頭に顔をすり付けて笑った。二人で笑い合っていると、キュルキュルと小さな音が食堂に響いた。皆がリンのお中に、注目するとまたキュルキュルとリンのお腹がなった。
「リン、お腹が空いただろう?皆で夕食にしよう。」
ジェームズの声を合図に、使用人達が食事を運び始めた。フィリップはジェームズの隣へ、アルロンドはジェームズの向かいに、リンは子供用の椅子がフィリップの前にあったのでアルロンドの隣に座った。アルロンド達には、大きなチキンソテーや籠にたくさん積まれたパン、サラダにトロリとした温かいスープなどがドンドン並べられた。リンの前には野菜が小さく細切れにされ、よく煮込まれたリゾットが少な目に盛られた器が置かれた。
「リン様は、まだ食事が多く食べれず病み上がりとヨハン様からうかがいましたので消化に良いリゾットにしました。」
ガジールがコップにリンゴジュースを注ぎ、準備が出来たところでジェームズらが手を組んで食事前のお祈りをした。
「「「精霊様、日々の恵みに感謝を。」」」
リンは真似ようとしたが、うまく言えないのでいつものように、手を合わせていただきます、と挨拶をした。
「それはリンの国の挨拶かい?」
『んー、たべものやいのち、そだてたひと、つくってくれたひと、ぜんぶにありがとって、てれびでいってた』
リンは前にテレビで見た内容を思い出しながら説明した。
「それは素敵な挨拶だね。僕も真似しようかな~」
アルロンドはリンのように、いただきますと手を合わせて言った。リンはもう一度、いただきますと言い、スプーンを持ってリゾットをすくった。熱々の湯気がのぼったため、一生懸命にフーフーと息を吹きかけた。
(もう、いいかな?)
リンは小さな口を開けて、パクリと食べた。お米も野菜も柔らかく、トロ~としたチーズも入っていたリゾットは美味しく、リンはへにゃりと笑った。猫耳もピクピクと震え、尻尾はゆら~と大きく揺れた。続けてすくった二口目もフーフーしてから食べ、また幸せそうに笑った。
「リンは美味しそうに食べるね。」
ジェームズの言葉にリンは口をモゴモゴさせながら顔を上げた。よく見ると、ジェームズ以外にもアルロンドやフィリップ、ガジール、ヨハン、配膳をしていたメイド達がニコニコとリンを見ていた。リンは口の中のリゾットを飲み込んでから口を開いた。
『みんな、どうしたの?ごはん、おいしいよ?』
首をかしげたリンの口の回りにお米がついているのを、ヨハンが優しく拭いてくれた。リンはお礼に、スプーンですくったリゾットをフーフーして、ヨハンに向かって腕を伸ばした。
『じーじ、これおいしいよ、あーんだよ』
ヨハンはマナーよりリンを優先して、パクリと食べた。
「リン様、美味しいですね。ありがとうございます。残りは、ゆっくりとお食べください。」
『うん!』
リンは皆に見られているのを忘れて、また一口ずつ冷ましながらゆっくりと食べた。ニコニコと幸せそうに食べる姿に、癒されなからアルロンド達は食事を始めた。
リンはリゾットを半分食べるとお腹が苦しくなり、リンゴジュースを一口飲むとお腹がパンパンになってしまった。横を見ると、アルロンドは美味しそうにお肉を食べており、フィリップやジェームズも食事を楽しんでいた。ヨハンを探すがいないためキョロキョロしていると、横にいたアルロンドが気が付いた。
「リンどえしたの?」
『アルしゃん、リン、おなかいっぱい……』
「もともと少なかったけど、半分が限界か……気持ち悪くない?」
『だいじょうぶ……のこして、ごめんね』
食べ物を残したことに罪悪感を感じていると、アルロンドが優しく頭を撫でてくれた。
「無理して食べてお腹壊すほうが心配だから大丈夫だよ。」
「アルの言う通りだ、毎日食事を食べていたら、少しずつ食べれるようになるから無理はするな。」
「量が少ないぶん、回数を増やそうかな?夜中にお腹が空いても、何か摘まめるようにしておこう。」
優しい口調で話す3人に、残したことで怒られると思っていたリンはホッとした。




