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うさぎさんを抱き締める黒猫

すみません、長くなりました。




ガジールが用意した馬車にアルロンドとフィリップが乗り、リンはアルロンドの膝の上にいた。ヨハンは精獣魔法で姿を隠し、護衛としてついていた。馬車が動き出すとカタカタとリズムよく揺れたため、リンは眠気がしてあくびをした。


「リン、眠いなら寝ていいよ。店までは少しかかるから。」


『うー、そと…みてみたい』


「帰りも見れるよ。店についたら起こすから…おやすみ。」


『アル、しゃん………おやす、み』


リンは馬車の揺れと、アルロンドが背中を優しく撫でる心地よさに眠ってしまった。寝てしまったリンを撫で続けていたアルロンドは、正面からの視線に顔をあげた。顔の傷や、体つき、鋭い目元のせいで、自分と比べられ周りから怖いイメージのフィリップは、実は小さくて可愛いものが好きだった。お酒も飲めず、甘いお菓子が好きだが周りからは理解されず、出されるお菓子は苦手だろうと回収されてしまう始末だ。基本動物にも逃げられるため、怖がらないリンが気になり、子猫のリンを撫でてみたいのだろう。指先がモゾモゾ動くのを押さえるのか腕を組んでおり、理由を知らなければ威圧されているようだった。


「兄さん、早くリンと仲良くなれるといいね。」


アルロンドの声にフィリップは顔をあげた。アルロンドは悲しそうな顔でリンを撫でていた。


「ケットシーのリールが僕にリンの事を説明するために造った、リンが生きていた時の記憶をまとめたモノを視たんだ。あんなに酷い事をする親がいるんだね。虐待はこの国にもあるけど、小さい頃から続く暴力に、いつも小さな弟君を抱き締めて庇って守っていたんだ。狭い部屋で二人で音をたてないように静かに息を潜めて……生まれてから一度も外には出たこともないみたい。」


アルロンドはリンの記憶をフィリップに話した。数えきれない暴力、少い食事は弟に与えリンは空腹で痛いお腹をニコニコしながら耐えていた。リンの最後の記憶は、泣きながらリンを呼ぶ弟の姿だった。


「兄さん、僕はリンがこの世界にこれたのは奇跡だと思うんだ。だから、たくさん幸せになってほしい。これから来る弟君も一緒に幸せになってほしい。あんな狭い部屋だけでなくて、色々な所に連れていってあげたい。リンにしてあげたい事がたくさんあるんだ。」


アルロンドは優しくリンを撫で続けた。リンの人型はガリガリで、きちんと食べて子供らしくふっくらしたらますます可愛いだろうとアルロンドは思った。

リンの過去に落ち込んでいるアルロンドの姿にフィリップは困ったように笑い、アルロンドの頭をガシガシと撫でた。


「な、なに!兄さん?」


「焦るな。いきなり色々させたらリンはパニックになるだろう。まずはこの世界の生活に慣れさせるんだ。リンの体調が整ったら、少しずつ色々なモノを見せて、させてあげればいい。」


自信なさげな顔をしていたアルロンドは、ボサボサの頭でフィリップをポカンと見ていたが、くしゃりと笑った。


「兄さん、僕頑張るよ!」


「困ったら助けてやる。父上も協力してくれるだろう。無理はするな。」


「うん、まずはリンと仲良くならなくちゃ!」


二人で笑い合うと、馬車が止まった。


「着いたみたいだね……リン起きて」


アルロンドはリンの額を軽くつつきながら起こした。


『…………ついた?』


「うん、ここからは人が多いから、さっきみたいにポケットに入ってようね。」


アルロンドは家にいたときのように、リンを胸ポケットに入れた。馬車けら降りた二人は少し歩くと、カンバール家がいつも服を頼み双子の兄妹が経営する《パラドン》に入った。扉が開くとチリンと軽やかな音が響き、カウンターから黒のシャツの袖を捲ったほっそりとした手足に、紺色の髪の男性が出てきた。


「いらっしゃいませ……おや、アルロンド様とフィリップ様ではありませんか。おひさしぶりです。お店にいらっしゃるのは珍しいですね、お買い物でよろしかったですか?」


「カナン久しぶり。ちょっと子供服が必要でね、下着から洋服、上着、靴まで一式揃うかな?」


「サイズにもよりますが、大丈夫だと思います。」


「ありがとう、リリーナはいるかな?僕たちは女の子の服は良くわからないから、女の人の意見が聞きたいんだ。」


「奥で作業をしているので、ただいま呼んできます。」


カナンがカウンターの奥の扉に入ってしばらくすると、カナンとともにややふくよかな女性が出てきた。


「ごきげんようアルロンド様、フィリップ様。お呼びのようですが、女の子の服ですか?」


カナンの妹のリリーナは、カナンと同じ紺色の髪をポニーテールにして、ゆったりとしたエプロンドレスを着て挨拶をした。


「さっきカナンにも言ったんだけど、7歳………の体じゃないな、小さい女の子の服が一式欲しいんだ。」


「アルロンド様、そのお嬢様には会うのは難しいですか?小さいだけでは少し難しくて……」


アルロンドは少し悩んでからポケットに向けて話しかけた。


「んー、リンちょっとだけ人型になれるかな?本当に少しでいいよ、カナンは見たらだいたいのサイズがわかるから。怖いかな?」


『……こわくない?』


「カナンもリリーナも怖くないよ。僕や兄さん、カンバール家が代々服に関してずっと担当している店なんだ。」


『…だっこ…』


「ん?」


『だっこ、してくれるなら………ちょっとだけいいよ』


「お願いされなくても、いつでも抱っこしちゃうよリン。ちょっと待っててね。カナン、大きなタオルないかな?使ったのはそのまま購入するから。」


カナンは商品棚からフワフワな大きめのタオルを渡した。アルロンドは、ポケットから小さな黒い子猫を出してタオルで包み、「いいよ」と呟くと、ポンっとした音と共にタオルが少し膨らんだ。アルロンドが抱き直すと、モゾモゾと動くタオルから黒髪と黒い猫耳、下からは黒い尻尾がだらりと垂れた。アルロンドの肩に顔を押し付けているので顔は見えなかった。


「驚かしてすまないね。この子は子猫の精獣のリンだ。事情があって人が怖いんだ。二人なら見てわかると思うけど、リンはガリガリに痩せているんだ。着るものがいっさいないから、下着から靴までお願いしたい。」


ポカンと見ていた二人だが、カナンは手持ちのメモ帳にリンのサイズを書き出し、それを見てリリーナは店内を歩き始めた。


「アルロンド様、リン様ありがとうございます。リリーナが用意するまでこちらでお待ち下さい。フィリップ様もどうぞ。」


カナンはリリーナとは反対方向に案内をして、ソファーに促した。カナンがお茶をいれようとすると、何処からともなくヨハンが表れた。


「カナン様、お茶はすでにいれておきました。勝手にキッチンをお借りてすみません。」


ヨハンは一礼すると、人数分の紅茶をテーブルに出した。カナンは驚いたが、自分がいれるより美味しいだろうと気にしなかった。アルロンドの前には小さな子供用のカップに入ったミルクが湯気を出しており、横には可愛らしい猫の形をしたクッキーがお皿にのっていた。


「こちらのお向かいのお店購入してきました。リン様良かったら食べて下さい。」


ヨハンの声にリンの耳はピクリと震えた。タオルがモゾモゾ動くと、長い前髪から大きなオレンジ色の瞳が見えた。


『じーじ?それなぁに?』


「クッキーですよ。」


『くっきー?なにそれ?たべもの?』


「リンはクッキー食べたことないのか?甘くてサクサクして美味しいお菓子だよ。」


不安げなリンにアルロンドが説明すると、リンが瞳をさらに真ん丸にして見上げてきた。


『おかし!リン、おかしたべたことない!おかしたべてみたかった。』


リンの言葉にみんな驚いたが、アルロンドはクッキーを一枚取ってリンの口元に運んだ。


「リン食べてごらん、アーンだよ。」


アルロンドのアーンにリンはおそるおそる小さく口を開けて、端っこを噛んだ。モゴモゴと口を動かすと、小さな欠片はりんごとは違う甘さで驚いた。


(あまい!おいしい!)


リンの気持ちがあらわれ、耳はピクピクと震え、尻尾はブンブンと揺れていた。アルロンドが差し出すクッキーにさっきよりも大きな口でかぶりつくと、甘いクッキーがサクサクしていてリンは夢中になって食べた。


『あれ?くっきー、ないよ?』


夢中になって食べていたら、アルロンドが持っていたクッキーを食べきってしまい、喜んで動いていた尻尾も耳もしゅんっと垂れてしまった。ペロペロと名残惜しそうにアルロンドの指を舐めていると、横にクッキーが表れた。


『くっきー!』


リンは嬉しそうに、目の前のクッキーにかぶりついた。垂れていた尻尾も耳も嬉しそうに揺れ始めた。


「アルロンド」


「なに、兄さん」


「リンがお菓子を貰って人についていかないように、きちんと教えなければひとさらいにあうぞ。」


二枚目のクッキーは横に座ったフィリップがあげていた。クッキーの前に警戒心はなくなり、嬉しそうに食べるリンにフィリップは癒されながら、同時に不安になった。アルロンドも同じなのか、神妙に頷いていた。


リンが3枚目を食べきり、ミルクを飲んでいると両手に服を持ったリリーナが戻ってきた。


「アルロンド様~、リンちゃんの服選びました。サイズは大丈夫だと思うので、色やデザインを選んで下さい。」


色とりどりの洋服をリリーナはどんどん並べていった。ヨハンがリンの抱っこを変わったため、フィリップとアルロンドはあれが似合う、この色がいいと選び始めた。リンは4枚目のクッキーをヨハンから貰い、嬉しそうに食べていた。


「そういえば、リンはどんなのがいい?」


リンはクッキーを飲み込んでからアルロンドを見た。


『んー、アルしゃんといっしょ』


「僕と?」


『うん、おんなじがいい』


「同じって……これ?」


アルロンドは自分の服を摘まんで首を傾げた。リンは頷きながら、またクッキーを食べ始めた。


「僕は同じって難しくない?」


アルロンドは嬉しいが、困ったように頭をかいた。フィリップもリリーナが持ってきた服を見ながらリンのリクエストがないか探し始めた。いつの間にか席をはずした双子が両手に服を持って駆け込んできた。


「アルロンド様、リン様のリクエストに近いコーディネートでこちらはいかがですか?」


「アルロンド様と同じ白いシャツに、リン様は痩せておりますので腰元のリボンでウエストの調節出来るカボチャ型のショートパンツ、胸元のリボンは今アルロンド様がつけているオレンジ色のリボンでどうでしょうか?」


「手足に傷痕があるようなので、長袖を中に着て、下はタイツをはきましょう。リボンは髪も結べるので、色違いを複数用意しましょう。」


双子がポンポンと説明しながら差し出す服を、受け取りリンを見ると、キラキラした目で洋服を見ていた。


『リン、アルしゃんといっしょがいい』


「リンがいいならいいけど、その格好は寒いし、着替えてくるかい?」


「私がお手伝いいたします。」


ヨハンが服を受けとると、試着室に移動した。待っている間にゆったりとしたワンピースや寝間着、ブーツなどを選んだ。


「アルロンド様、リン様の着替えが終わりました。」


ヨハンの声に皆の視線が集中するが、ヨハン以外の姿が見えずにキョロキョロすると、ヨハンの足元から黒い尻尾がゆらゆら揺れていた。


「リン、僕に見せてくれないの?」


アルロンドの声にリンは顔を半分出してゴニョゴニョと呟く。


『リン、はずかしいな……』


「僕と一緒……お揃いなんでしょう?みたいな~」


リンはモジモジとしながら、ヨハンの後ろから出てきた。胸元はアルロンドとは違い大きめのリボンを結び、よく見たらバラバラだった髪の毛をアルロンド同じ紺色のリボンで結び、ポニーテールにしていた。恥ずかしいのか頬を赤くして、アルロンドを見上げた。


『アルしゃん、にあってる?』


ポカンとしていたアルロンドは早足で近付くとリンを抱き上げた。


「リン、似合ってるよ!凄く可愛い!髪を結んだリボンも一緒にしたのかい?」


『じーじがしてくれた。』


リンはほめられたのが嬉しくてニッコリ笑った。ここに来て始めて笑ったリンの笑顔は可愛らしく、双子もフィリップも驚いたように見いっていた。リンはアルロンドの後ろにいたフィリップに気がつくと同じように笑顔になった。

もともと可愛いモノ好きなフィリップには大打撃であり、リンに堕ちた瞬間だった。


一通り服を決め終わると、フィリップがリンに人形を差し出した。ピンク色のウサギはやや大きく、リンは両手で持たないと持てなかった。


「リン、今日の買い物のお土産だ。」


『フィーしゃん、これくれるの?』


「私からのプレゼントだ。」


リンは両手で持ったピンク色のウサギを見たら、目の色が紫色だった。


『おめめが、アルしゃんといっしょ?』


「その方が嬉しいかと思ったんだが、どうかな?」


リンが気に入るか不安だったフィリップがリンを見ると、、細い腕でぎゅっとウサギを抱き締めて頬刷りしていた。


『フィーしゃん、ありがと。リン、うれしい!』


リンはアルロンドに下ろしてもらうと、ウサギごとフィリップの足に抱きついた。グリグリと額を擦り付けなが笑顔でフィリップを見上げた。子供に怖がられることは多いが、抱き付かれるのは始めてで驚いたが、フィリップは大きな手で優しくリンを撫でた。



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