キラキラがいっぱい
アルロンドは階段を上り、3階の廊下へ向かいながらリンに話しかけた。
「リン、今から僕の父さんへ会ってもらうよ。」
『とうしゃん?』
「そう、あと兄さんにもね。リンがこれからこっちの世界で生きていくために、二人にはリンの事話しておきたいんだけどいいかな?」
『リンのこと?』
「困ったときに助けてくれる人がいた方がいいからね。基本的には精霊の森…さっきまでいた家だね、そこで暮らすけど、定期的に王都にも来ないといけないから、まずは僕の家族に慣れて欲しいんだ。」
『アルしゃんとじーじいっしょ?ここ、おとなのひとがおおい』
「勿論、一緒だよ!大人は怖いかい?誰もリンに怖いことはしないよ。けど、初めて会うのが怖かったらここに隠れていていいよ。」
『いっしょなら、いい。』
リンはアルロンドの胸ポケットに潜り込んだ。猫になったせいか耳がやけに音を拾い、人の気配に敏感になっていた。ほとんど家から出たことのないリンは、大人が家に来るときは痛い事しかなかったので、少し怖くなってきた。
「……リン、僕は怖くなかったの?」
『こわい?……びっくりはしたよ。アルしゃんは、だいじょうぶってにゃんにゃんいってた。』
リンはポケットの中からアルロンドを見上げた。綺麗な紫色の瞳は髪と一緒でキラキラで綺麗だった。
『それに……そうちゃんまっててもいいって、いった。アルしゃんはやさしいの。じーじもやさしいの。リンはふたりがすきなの。』
少しの時間しか一緒にいなかったが、二人はリンにとって初めて痛いことをしない大人だった。刷り込みかもしれないが、生まれた時から辛い思いしかしなかったリンは、優しく頭を撫でてくれた二人が大好きになっていた。リンはスリスリとアルロンドの指に額をおしあてた。
「リンにそう言ってもらえると嬉しいな。僕もリンが大好きだよ。リールが早くそうちゃんを連れてきてくれるといいね。」
アルロンドが話ながら歩いていると、ひとつの扉の前で止まった。
「ついたね。……コンコン……父さん、アルロンドです。入ってもいいですか?」
アルロンドの問いに、間が空いたあと内側から扉が開いた。リンは慌てて、ポケットに潜り込んで息を潜めた。
「アルロンド?明日ではなかったか?」
「ちょっと用事があって、一日早く戻りました。父さんと兄さんに話があって、今ガジールに兄さん呼んでもらっているんだけど時間大丈夫?」
「ちょうどお茶を頼もうと思っていたところだ。取り敢えず、中に入りなさい。」
ソファーに向かい合うように座り、ヨハンはアルロンドの後ろに立った。リンは大人が怖いが、声の人が気になってそっとポケットから顔をだ。テーブルを挟んだ先にアルロンドと同じ金髪は短く、深い緑色のややタレ目な目元には笑い皺があった。ジーと見ていると緑の瞳がリンを見て、ニコリと微笑んだ。
『に!』
驚いたリンはしゅっと隠れた。とても優しそうだったが、驚いたのと大人は怖いという思いから体がぷるぷると震えた。リンの震えが伝わったのか、アルロンドがポケットの上からぽんぽんと優しくたたいた。
「おや、怖がらせてしまったかな?」
「ちょっと事情があってね……それを相談したくて来たんだ。リン大丈夫だよ?」
『…アルしゃん…』コンコン
弱々しいリンの声に続いて、ノックの音が響いた。
「旦那様、フィリップ様を御呼びしました。」
「入りなさい。」
扉が開く音がすると、二人分の足音が近づいてきた。
「アルロンド久しぶりだな、元気か?お前に呼ばれたようだが何かあったか?」
「兄さん久しぶり、急にごめんね。騎士団は?」
「今日は非番だ。このところ休みなしだったから、3日間の休暇だ。話ってそのポケットに入ってるやつか?随分怯えているようだが……」
「事情があって大人が怖いんだ。取り敢えず説明するから、紹介は後でもいいかな?」
アルロンドの問いに、二人は頷いた。ガジールが人数分のお茶を用意してくれたので、アルロンドは一口飲んでから話はじめた。
「この子の名前はリンって言うんだけど、違う世界で死んじゃった子なんだよね。いつもみたいに精獣のリールを呼んだんだけど、その時精獣界からの移動の空間にリンの魂が迷いこんだみたいで、リールが自分の魔力をわけたらこの子も精獣になったみたい。けど、もともと人間だったからかケットシーにはならないで子猫に変身するんだ。」
「精獣が魔力を分けるなんて珍しいな。それに異世界の魂か……その子は幼いのかい?」
「リールがリンの記憶を読んだ感じだと、本来は7歳くらいなんだけど、実際は4歳くらいに見える。一番大事な話なんだけど、リンは向こうの世界で親に虐待されていたみたいで、今回死んでしまったのも親のせいみたいなんだ。僕の事はリールに聞いていたせいか、驚きはしたが怖がりはしなかったんだ。けど、大きな大人の人が怖いみたいで…今もポケットの中で震えているんだ。」
アルロンドは悲しそうにポケットごしにリンを撫でていると、背後にいたヨハンが口を開いた。
「リン様には全身に打撲痕があり、こちらの世界と同じでしょうか煙草を押し当てられたあとが何ヵ所かありました。」
「な‼それは本当か‼」
フィリップが表情を固くして言った。騎士団として働くため弱者への暴力は許せなかった。今にも腰にさした剣を抜きそうな迫力だった。
「他にも刃物で切られた痕もありました。リン様は肉体だけでなく魂まで多く傷つけられたため、精獣となっても傷が消えなかったと思います。痣は消えると思いますが、他の傷は残ると思います。」
「子供に手をあげるとは……」
アルロンドの父親も痛ましげに呟いた。優しそうな瞳の奥には、怒りのこもった力がゆらめいでいた。
「まぁ、他の世界だし報復は出来ないのが悔しいけど、今はリンを幸せにしてあげたいんだ。基本的には精霊の森の家で暮らすけど、僕が側にいれないときに二人に助けて欲しいんだ。少しずつ慣れてくれるといいんだけどね。」
アルロンドの願いに、二人は表情を和らげて頷いた。
「私は全くかまわないよ。早くなついてくれると嬉しいな。」
「私は体が大きくて、アルロンドより厳ついから怖がらないか心配だな。」
二人の同意にアルロンドはほっとした。
「あっ‼あと、リンの弟君も今リールが迎えに行っているみたい。リンと同じように虐待されてるみたいで、リンが心配しているんだ。弟君もこちらに来たら紹介するね。」
「子供は守るものだ。早く弟君が来れるといいね。」
「アルロンド、自己紹介位は出来そうか?」
フィリップの問いに、ポケットを覗きこむと耳をふせ、頼りなさげなオレンジ色の瞳がアルロンドを見ていた。
「リン、挨拶出来そう?」
『……アルしゃん…こわくない?』
「大丈夫、怖くないよ。父さんはさっき少し見えたよね?兄さんは体が大きいけど、騎士団……悪いやつをやつける仕事をしているんだ。」
『……わるいひとを、め、するの?』
「そうそう、だから怖くないよ。」
『……アルしゃん、リンあいさつする』
少し考えてからリンは返事をして、ポケットからそーと顔を出した。正面にはさっき目が合った優しそうな緑の瞳の金髪のおじさんが、視線を横にずらすとアルロンドよりも大きな体のおじさんと同じような金髪に緑の瞳のお兄さんが目元は鋭いが、優しい目線でリンを見ていた。リンは上にいるアルロンドを見上げると、不安そうな紫色の瞳と金髪がリンを見ていた。
『ねぇ、アルしゃん』
「ん?どうした?」
リンはもう一度、回りをゆっくり見回した。3人とも日の光を浴びて、金髪がキラキラと輝いて見えた。
『キラキラがいっぱい……みんな、おうじさまなの?』
リンは3人ともキラキラ金髪だから、王子様なのかと不思議そうに首を傾げた。リンの発言に誰も返事が出来ずにいたが、リンは気がつかなかった。
『おうじさま、たくさんいるんだね。リン、しらなかった』
リンはどこか満足げに呟いた。
アルロンドの兄弟は兄だけ、母親はいない設定に変更しました。




