二度目まして黒猫ちゃん
「……………おなかすいた」
リンは自分が呟いた言葉で、目が覚めた。瞬きを繰り返すと、視界に精霊達がリンを覗き混んできた。
『みんな、おはよー』
かすれた声で挨拶をすると、精霊達は涙を浮かべてリンに群がった。心配したと全身で訴える精霊たちに、リンは胸が暖かくなった。
『……しんぱい…ありが ゴホッゲホッ‼』
精霊たちにお礼を言おうと思い話しかけるも、カラカラに乾いた喉にむせ混み、咳が止まらなくなった。リンが苦しそうに咳を繰り返すと、数人の精霊が猛スピードで部屋を飛び出した。残った精霊達が泣きそうになりながら、リンの周囲を飛び回った。
(…せき、とまんない…くるしい)
咳が止まらなく、涙目になったリンが困っていると隣からドタドタと足音が近づいてきた。精霊が開けっぱなしにした扉から入ってきたのは、この世界にきて初めて会った青年だった。青年の後ろからは、髭のあるお爺ちゃんも入ってきた。青年は火と風の精霊に引っ張られており、リンと目が合うと驚いたあと、足早に近づいてきた。
「目が覚めたみたいだね。ちょっとだけ我慢してね。」
青年がリンの喉に手をあてると、喉が温かくなり、リンの咳は止まった。咳が止まった事に驚いていると、青年が背中を支えて起こしてくれた。
「アルロンド様、お水です。」
「さすがヨハン、喉が乾いただろう?少しずつ飲むんだよ」
リンは透明なグラスに入った水を少し口に含むと、ミカンのようなさっぱりした味が美味しくて、そのままゴクゴクといっきに飲みきった。全て飲みきると、もう無くなったのかとしょんぼりした。水を飲んだら頭もすっきりしてきたリンは改めて、青年とお爺ちゃんを見た。
『おみず、おいしかった、えっと……キラキラおうじさまとヒゲのおじいちゃんありがとございます』
リンはニッコリと笑いお礼を言った。リンの呼び名に青年は赤くなり、お爺ちゃんは少し目を見開いてポカンとしてリンを見た。青年は頬をかきながら、リンに話しかけた。
「うーん、王子様ではないかな?」
『…ちがう?』
「そうだよ」
『リン、えほんよんだよ。かみがキラキラで、かっこいいおにいさんは、おうじさまでしょう?』
リンは大好きで大事な、たった一冊の絵本を信じていたのに、否定されて悲しそうに訴えた。気持ちと一緒に頭に張り付くようにへたりこんだ猫耳に青年は焦ったように話す。
「ストレートにかっこいいはなかなか照れるね。僕は王子様ではないけど、アルロンドと言うんだよ。」
『あるどんど?』
「アルロンド」
『あるろんろ?』
「…………アルでいいよ」
アルロンドが言えない姿は可愛く、アルロンドは優しくリンの頭を撫でた。
『アル?アルしゃん?』
「うん、君の名前は?」
『リンはリンだよ!』
リンは手をあげて答えた。
「リンちゃんね……後ろの髭のお爺ちゃんは「リン様、ヨハンと言います。ぜひ、ジイジとお呼びください。」おい、ジイジってなんだヨハン?」
割り込むように話すヨハンをアルロンドは睨み付けたが、普段は無表情しか見せないヨハンが優しく孫を見るように微笑んでいて驚いた。
『……じーじ?』
首を傾げて言うリンは可愛く、首と一緒に黒い尻尾が揺れていた。
「はい、じーじですよ。」
嬉しそうに微笑むヨハンにアルロンドは鳥肌がたった。
「ヨハン、気持ち悪い……本当にヨハン?」
「アルロンド様は失礼ですね。リン様お腹が空いていませんか?」
ヨハンはアルロンドには冷たい視線をむけるが、リンには優しく話しかけていた。ヨハンの問いに、リンのお腹からキュルキュルと小さく鳴った。
「雑炊を作ってきますのでお待ちください。」
ヨハンは素早く一階のキッチンに向かった。ヨハンを見送り、アルロンドはベッドの側の椅子に座った。リンを見つめると、リンはハッとしたように頭を下げた。
『アルしゃん、このまえは、にげてごめんね。』
「リンは悪くないから、頭をあげて。急に違う世界にきて驚いたでしょう?あの時は怖がらせてごめんね。」
アルロンドの優しい声に、リンはアルロンドを見上げた。
(やさしいひと、こわくないおとな)
リンの頭を撫でるアルロンドの手はとても温かく、瞳も優しくリンを見ていた。
『りんね、にゃんにゃんとやくそくした』
「にゃんにゃんってケットシーかな?約束?」
『にゃんにゃんのかわり、そうじする。にゃんにゃん、そうちゃんつれてくるって、まつって、やくそくしたの』
「そうちゃんって誰?」
『そうちゃんは、リンのおとうとだよ!』
そうちゃんの事をリンは嬉しそうに話した。リンより小さくて、リンをねーねと呼ぶ、甘いものが好きで、とても可愛くて、いつも一緒だったと。
「にゃんにゃんはリールという名前なんだよ。リールが早く連れてきてくれるといいね。」
『うん!』
「まずは、リンはたくさん食べて、寝て元気になろうね。」
『はーい!』
リンはニコニコしながら右手をピッとあげて返事をした。心配そうに回りに漂っていた精霊たちも、元気そうなリンに安心して、リンのまねをしてアルロンドに向かって手をあげていた。あまりにも素直で可愛いため、アルロンドはヨハンが来るまでずっとリンの頭を撫でていた。
ヨハンはリンにはデレデレじーじの予定です。




