そのときお嬢様は動いた!
初投稿でございます。
自身が遅筆なので、思った通りに更新できるか分からないですが、どうぞお付き合い宜しくお願い致します。
吸血鬼と幼女の組み合わせはとてつもなく偉大だと思うのは自分だけなのでしょうか。
それはともかくとして、お楽しみいただければ幸いです。
―――窓から外を見る。
凍てつく大地、吹雪く冷たい風。
どれも生まれてからお馴染みの風景。
……飽きた。飽きてしまったのだ。
娯楽という娯楽もない北の寒い辺境の地は、この身にはとてつもなく小さな箱庭にしか見えなくなってしまったのだ。
そんな事を思っていると、居室のドアがコンコンと叩かれた。
「エミリアお嬢様、失礼いたします」
初老の執事のしわがれ声が、いつもこの時間ぴったりに聞こえることには、正直感心している。
……お前は時計か。歴史上の人間にもこんな時計みたいな人がいたらしいが。
「ディートハルト、入りなさい」
「失礼いたします、お嬢様。お茶のお時間でございます」
執事―――ディートハルトがガラガラとお茶のセットを積んだカートを押して部屋に入る。
「お嬢様、本日はシンプルにアッサムティーと、スコーンに致しました」
「今日は紅茶なの?」
「先日コーヒーをお出ししましたが、なにやらお顔が引きつっていらっしゃいましたので。ミルクと砂糖をご用意しておりましたがお嬢様は頑なに入れる事を拒否なさいました。それで―――」
「もういいわ。もういい。ありがとう、お茶は好きよディートハルト」
「……左様でございましたか。本日のアッサムティーに関しましては、ミルクを入れた方がより一層、風味をお楽しみいただけるようでございます。ミルクと砂糖はお入れしてもよろしいでしょうか?」
「……そうなのね……お願いするわ」
陶磁器のカップに琥珀色の液体が注がれる。
「はい。ですから、ここに砂糖を入れることはなにも不自然ではございません」
カップにミルクと砂糖をオーバーアクションで入れるディートハルト。
「ま、まるでコーヒーにミルクと砂糖を入れなかった私が不自然みたいな言い方ね?」
「いいえ、なにもそこまで申してはおりません。ただ、格好つけてブラックで飲んだものの、予想より苦いしコーヒーの美味しさも分からないし、入れる事を断ってしまった手前今更―――」
「―――分かった。分かったわディートハルト。お茶の用意はできているの?」
「はい、ここに。どうぞお召し上がりください」
ディートハルトからカップを受け取り、紅茶に口をつける。
―――美味しい。
「あなたは気がきくんだかきかないんだか分からないわね、ディートハルト」
「左様でございますか? これでも不肖の身ながら、お嬢様の為に精一杯やらせていただいております」
「そうかしら? 私の為に、本当に精一杯やってるのかしら?」
ディートハルト本人は大変不服そうに顔をしかめた。
「もちろんでございます。この自分自身の能力という点では至らぬ点多いこと、大変申し訳なく思いますが、しかしながら、気概をお嬢様に疑われること、……言葉は悪いですが、大変屈辱にございます」
「外に出てみたいわディートハルト」
「いけませんお嬢様」
間髪入れずに、ぴしゃりと返される。
「何度も申し上げておりますが、お嬢様は外の世界を存じておりません」
外の世界を知らない、と言われたのはもう何回目だろうか。小さい頃からこの手の話題になる度に、同じ答えしか返されない。
「このやり取りはもう1万と7891回目のやりとりにございます」
「それだけワタシが外の世界を望んでいるのよディートハルト。もう埒が明かないじゃない!」
「お嬢様は我々吸血鬼が何たるかをまだご存じでないのです」
―――もう自分でも数えきれない程このやり取りを繰り返した。この後の展開も目に見えている。
「……ハァ……」
カップをソーサーに置く。
「あなたの考えていることは分かったわディートハルト。下がっていいわ……」
「かしこまりましたお嬢様。御用の際は遠慮なくお申し付けくださいませ」
ディートハルトが部屋を出て、パタン、とドアが完全に閉まったのを確認する。
こうなったら例の計画通りやるしかない。
諦めたら何かが終了する……と、どっかの偉い人も言っていたし。
「後は……実行あるのみ……」