親
「先輩、寒いですか?」
付き合うきっかけになったあの出来事を思い出していると耳元で蓮姫がそう聞いてきた。
「いや、蓮姫をおぶってるから結構暖かいよ。」
それにプニプニの蓮姫の太もも触ってると心も暖かくなってきて。
「何ニヤついてるんですか。私の太もも触れて興奮してるんですか?」
「.........いや、そういうわけじゃ。」
「......そうですか。私の太ももでは興奮しませんか...。」
不意に声のトーンを落とす蓮姫。
「ご、ごめん!する、するよ!すっごい興奮する!もうずっと触ってたいくらいだ!」
「そ、そんな事は分かってるんですよ!大きな声で言わないでください!」
何処からが演技で何処からが本音なのか付き合って5ヵ月、未だに分からない......。
「ところで先輩の家ってどの辺なんですか?」
「どうしたんだ?突然。」
「いえ、特に理由というのはないんですけど、そういえばまだ知らないなぁと思いまして。」
「そうだな、今まで蓮姫の家には何度も行ってるけど逆に俺の家には来たことないもんな。でも、男の家って女にとっては緊張するもんじゃないのか?俺もそう思って誘ってないんだけど。」
そんなに遠いという事はないが、やはりお年頃の異性を家に招くというのには俺としてもある程度の覚悟が必要なものだ。
「他は知りませんけど、私は先輩の家がどんなのか気になるし行ってみたいですよ?」
「そ、そっか。じゃあ今度来るか?」
「はい、今から行きましょう。」
.....................。
「は?」
「今から行きましょう。」
「いや、まって!意味わかんない。」
即行動な性格なのは知ってるけども!
「どうしたんですか?何か不都合でもあるんですか?」
「不都合...って、まぁ、そりゃ男だからな。不都合の一つや二つ...。」
「女ですか?」
「違う!」
「えっちなやつですか?」
「...違う。」
「少し間があったのが気になりますが、別にいいじゃないですか。今更先輩が恥ずかしがる事なんてないでしょう?まだ付き合ってもいなかった私のパンツを......その、匂い...嗅いだんですから......。」
「あー、うん。間違ってないんだけど、その言い方は凄く語弊がある。」
そもそもそんな恥ずかしがって言うくらいなら掘り下げなければいいものを。
「過程がどうという問題ではないんです。とにかく、今から先輩の家に行きましょう。......ご両親にも、その...挨拶したいですし。」
後半またゴニョゴニョと言葉を濁すが距離が近いだけにしっかりと聞き取れてしまう。
その言葉に俺はぽそりと返した。
「あー、俺、両親はいないんだ。」
蓮姫はえっ?と小さく声を零す。
いつかは......というかこれから来るのならもうバレる事だ。隠す必要も無い。
「いない、ってどういう事ですか?」
「5年前に2人とも事故でな。」
旅客機の墜落事故。
テレビでも連日大きく取り上げられた悲しい事故だ。
「そうだったんですか。...すみません、私...。」
踏み込んじゃいけないとでも思ったのだろう。ギュッと拳を握る蓮姫。
「いや、もう昔の事だし気にしてないよ。今は母さんの親友だった瀬尾佳代子って人の所にお世話になってるんだ。」
「親戚はいなかったんですか?」
「いない訳じゃないし引き取るとも言ってくれたんだけど、カヨ......あー、佳代子って呼ばれるの嫌みたいでカヨって呼んでるんだけど、カヨとは前から少し面識はあったし母さんと約束してたらしいんだよ。お互い助けが必要な時は助け合おうって。ま、ほんとに優しい人なんだよ。」
「そうなんですね。」