ラブレター
「さて、それじゃあ帰るか。」
「ですね。あ、それ返してください。」
蓮姫は俺の手に持っているラブレターを指さしながら言う。
「...は?嫌だよ。これはもう俺の宝物だ。」
初ラブレターってだけでも記念に取っておこうと思ったのに、それがまさか自分の好きな娘からのラブレターだったのだ。
そう易々と渡せるはずがない。
「別にいいじゃないですか!こ、これからは私がいるんですし。」
蓮姫は後半照れて声が小さくなりながら言うがそういう問題ではない。
そもそもラブレターを受け取り、付き合う事になったらラブレター返却なんて聴いたことがない。
「蓮姫が彼女になってくれて本当に嬉しいよ。でも、これは俺の大切な思い出の一つとして残したいんだ。」
「そんな恥ずかしい思い出いらないです!」
「俺はいるんだよ!」
「ぅう〜、写真ばら撒きますよ!」
蓮姫は自分の携帯に写る俺の変態的行動を誤解させる写メを突きつけてくる。
「まて!このラブレターの前にその写メを何とかしてくれないか?」
「嫌ですよ。これは私の切り札なんですから。」
「恋愛に切り札はいらないと思うんだけど?」
「いるんですよ。こういう時の為に。ほら早く渡してください。」
チラチラと見せられる写メに、はぁと息をつき肩を落とすと渋々蓮姫からのラブレターを差し出した。
「まったく、こんな黒歴史が残ったら大変ですよ。」
蓮姫はそう言いながらラブレターをくちゃくちゃに握り潰して自分の鞄へと入れる。
俺の大切な思い出の品を......。
そもそも黒歴史でいうなら蓮姫の携帯に入ってる写メの方が数段残してはならないと思うのだが。
「それじゃあ行きますか。」
蓮姫はくるりと入口の方へと足を進める。
そんな蓮姫を見て俺はニヤリと頬を釣り上げた。
別にこういう事を想定していたわけではないし、ほんの気まぐれだったんだが、3時間前の俺は本当によくやってくれた。
蓮姫もまさか思ってもいないだろう。
俺がラブレターを携帯で写メ撮ってるなんて。
折角の思い出だ。何か残さないと勿体ない。
俺は携帯を開いて画像フォルダを開く。
「.........あ、あれ?」
だがあるはずの場所にあるはずの物が見当たらない。
ない?なんで?なんでどこにもないっ?!
最新の所にあるはずの画像がなく、前の画像にひたすら遡るがもちろんない。
そうして焦りを覚えつつ画像を探していると蓮姫が足を止めて思い出したように口を開いた。
「あ、そういえば先輩。メアド交換の時に先輩の携帯いじってたらなんか手紙の写メがあったんで、それはちゃんと消させて貰いましたよ。」
「はぁっ?!」
「ほら、もうあんな手紙の事は忘れてください。行きますよ!」
蓮姫はまた足を進め先に階段を降り始めた。
そしてその頃、ふと一つの事に気がついた俺はクスクスと小さく笑いを漏らす。
「画像って、消したらゴミ箱に残ってるもんなんだよな。」
ゴミ箱欄にある一つの画像を復元を選択し画像フォルダへと戻した俺はその画像を一生の宝物にする事を密かに心に誓うのだった。