告白
俺がそう答えてから少し、お互い無言の時間が流れた。
俺は頭でさっき目で捉えた物を全力で記憶にすりこみ、蓮姫は俺の言葉の意味を全力で考えていた。
パンツは見ていない。
それはどっちの意味なのだろうか、と。
そして、暫くして蓮姫から口を開いた。
「な、何も見なかったんですね?」
もうその言葉には見てないでくれという切実な思いが込められている事は容易に分かった。
そしてその頃、俺もようやく脳内でのさっき見たものの意味、そしてこの屋上での全てが理解できた。
答えは一つ。
ラブレターの主は蓮姫だったのだ。
自分の履いていたパンツを脱ぎ小箱に詰めて、一緒にラブレターも書いて俺の机に入れる。
そしてラブレターを読んだ俺が屋上へ上がってきて小箱を開けた所をパシャリ。
女物の下着を持ってる写真なんてばら撒かれたら洒落にならない。
それをネタに俺と距離を縮めるつもりだったのだろう。
今思い返せばラブレターには素直になれないとも書いていた。まさかここまでとは思わなかったが。
だが、蓮姫にも予期せぬアクシデントが二つあった。
一つは手に持っているところを写真取るつもりが自分のパンツを俺が顔に張り付かせていた事だ。
だから、俺の写真を撮っている時に顔を真っ赤にしていたのだろう。
そして二つ目、それは紛れもない、今のつむじ風だ。
俺が逆らえないように写真を撮ったのはいいが、自分が履いていなければそのパンツは自分のもの、つまりラブレターの主は自分であると自白したも同然だ。
そして今回のこの素直になれない蓮姫の作戦は俺の見たか、見てないか、それに全てがかかっている訳だが、ここまでタチの悪い罠で俺を追い詰めてくれたんだ、少しくらい仕返ししても罰はあたらないだろう。
俺は蓮姫の何も見なかったのか。という質問に敢えてはぐらかすように返す。
「何も......って?」
蓮姫はうっ...と詰まったように顔を顰める。
本来、履いているのであれば、見たか、見てないかで答えは出るが、今回はそうではない。
俺が履いてないという事実に気がついたのかどう探りを入れようかと顔を赤くしてむぅーっと頭を悩ませる蓮姫。
だが、どうしてもその答えの引き出し方が思いつかなかったようで、蓮姫の目には次第にじわぁっと涙が浮かんできた。
「あー、悪かった、悪かったよ。謝るから頼むから泣かないでくれ。」
「な、泣いてないです!」
蓮姫はそう言うとコシコシと腕で目を擦る。
「.........ごめん、見えた。それと、このラブレターがお前からだって事ももう分かった。」
俺が謝った時点でおおよ分かっていただろうが、ハッキリと言われると、蓮姫は一層顔を紅くして両手で顔を覆い隠した。
よほど恥ずかしかったのだろう、プルプルと体が震えている。
「...で、でも何でわざわざ履いてたのを入れたんだよ。別に新品だって良かっただろ?」
新品でなくとも家には他にパンツが絶対にあるのだから、ノーパンになる必要なんて皆無だ。
「...だ、だって......今日、学校で思いついたから......」
即行動すぎるだろっ?!
「ま、まぁ、何はともかくほら、これ返すよ。」
「.........ありがとう...ございます。」
蓮姫は俺からパンツを受け取ると目の前で履き始めた。
見るなとは言われてないものの、慌てて後ろを向く。
「もういいですよ。」
「あ、あぁ。」
「それで...先輩。色々とごちゃごちゃになっちゃって申し訳ないんですが、もうこの際ハッキリさせたいです。あの手紙に書いてたものは私の想いに違いありません。先輩は屋上に来てくれたって事は誰とも付き合わない、もしくは彼女がいるという事は無いはずです。なら......それなら、私の手紙の答え、聞かせて貰えませんか?」
「...俺も。俺も蓮姫の事が好きだ。毎日1年のクラス前まで行って蓮姫の事だけを見てた。こんな俺で良かったらぜひ付き合ってくれ。」
「はい!」
蓮姫は、俺が入学式で会って以来、一番の笑顔でそう答えるのだった。