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彼女の思惑



「ち、ちちち、違うんだ、これはこの箱に入ってて、それで!あ、いや、それでじゃない、か、風、そう風だ!風が、」


「先輩、何でパンツの匂い嗅いでるんですか?」


思わず写メ撮っちゃった、とさっき撮った写メを確認する蓮姫。


......くっ、最悪のタイミングで......。


だが、そう簡単に諦める訳にはいかない。


俺が女物の下着を持ってきて屋上で匂いを嗅いでいたという、あまりに捻れた誤解だけは解いておかなければ、もうこの先、蓮姫と恋仲になる事は絶対に不可能だ。いや、それどころかもう1年のクラス前に行く事すら......。


「ち、違うんだ、聞いてくれ!これは...」


「まさか先輩が女物の下着に鼻を押し付けてスンスン匂いを嗅ぐ変態だとは思いませんでした。」


「だから違うんだ!これはラブレターと一緒に入ってて、そうだ、もう少しでこのラブレターの主が来るはずだ!その娘に誤解を解いてもらおう!」


「じゃあその娘が来なかったら先輩は女物の下着を持参して屋上で匂いを嗅ぐ変態...って事でいいですか?」


「......い、いいだろう。その代わり、ちゃんと誤解が解けたら俺は変態じゃないって認めてくれよ?」


「...分かりました。先輩がそこまでいうのならそのラブレターの主というのを待ちましょう。」


よ、良かった、誤解が解けぬまま走り去られてさっきの写真を他の人に見せられたら、俺の恋どころかこれからの高校生活が終わるところだった...。


そしてこの際だ、誤解が解けたら俺も告白してやる!


.....................................

.....................................

.....................................。


「来ませんね?」


決意を固めたのはいいが、もうあれから30分もの時間が俺と蓮姫の間で流れていた。


「もう、みんな下校なり部活なりをしている時間です。まだ来ないようならやはりそんな娘はいなかった、という事ですね、先輩。」


「そ、そんな......なんで......あ、そうだ、これを見ろ!」


俺は鞄に入っている受け取ったラブレターを取り出し蓮姫に見せた。


「これがラブレターだ!嘘じゃないってのはこれで確かだろ?!」


「......今私が考えてる事言っていいですか?」


「...あ、あぁ。」


「先輩は女物の下着の匂いを学校で嗅ぎたいという衝動に駆られ、でもそんな所を誰かに見られでもすれば変態だとバレてしまう。そこでラブレターを自分で偽装してその上、風の強い屋上へとやって来た。もし誰かに見られても言い逃れが出来るように。......違いますか?」


「うん、驚くほど間違ってるよっ!?」


「とにかく先輩が変態だという事はもうこれでハッキリしましたね。」


「だから誤解だって言ってるだろっ?!」


「でも、この写真を見たら皆はどう思うでしょうね?」


蓮姫はチラリと撮っていた写真を俺に見せた。


.........やばい。


「いや、それ本当にやばい!顔がバッチリ写ってるじゃねぇか!」


「ということで先輩。もう先輩は私には逆らえないんです。この写真をばら撒かれたくはないですよね?」


「あ、あぁ。そりゃもちろん。」


「じゃあこれからは私の言う事を何でも聞いてくださいね。とりあえずはそうですね、メアド交換しましょうか。」


「メアド?」


「はい。そうすればいつでもパシリとして呼び出せるじゃないですか。ほら早く出してください。」


もう逆らえる立場ではない俺はポケットから携帯を取り出した。


というか、蓮姫のメアドを知れるのは普通に嬉しい。


蓮姫が携帯を両手に、ポチポチと操作をしているとピロリンとメアド交換が完了する音と共にはいと携帯を返してくれた。


「じゃ先輩、これからよろしくお願いしますね。」


「あ......あぁ。」


「あ、それと、そのパンツは没収します。」


「は?なんで?」


「何ですか、逆らうんですか?......それにその反応、やっぱり私の推理は当たって...」


「あー!分かった、分かったよ!」


ラブレターの主に返そうと思っていたが、この状況で渡さないのは俺の沽券に関わるので素直に従ってパンツを蓮姫に差し出した。


「パンツを意地でも守る!という変態ではなくて安心しました。」


蓮姫はクスクスと笑うと携帯を持っていない方の手を俺の持っているパンツへと伸ばした。


と、その時。


ずっと穏やかに吹いていた風が一層強く吹き、ふわぁ!と蓮姫のスカートを捲りあげた。


「えっ、キャッ!」


慌てて両手でスカートが舞い上がらないように抑えようとするが俺の目はその一瞬を意地でも捉えようと、そのスカートの中に目を凝らす。


パンツにこだわりはないが、好きな娘のパンツとなれば話は別だ。


いったいどんなパンツを履いて...............ないぃっ?!


急いでスカートを押し付ける蓮姫を前に、俺はもう頭の中がごちゃごちゃで完全に機能が停止した。


「......み、みみみ、見ましたか?」


顔を真っ赤に染めてそう声を上げる蓮姫。


「..................」


「見たかって聞いてるんですよ!」


さらに大きく声を張る蓮姫にふと我に返って俺は小さな声で答える。


「......パンツは見てない。」


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