其の1 初っぱなから事後
処女作です。批判・酷評はお手柔らかに。
行為が済んだ後のベッドは、お世辞にも寝心地が良いとは言い難い。むしろ、汗が染み込んで湿ったシーツが肌に張り付いてくる感触は、不快の部類に入るものだった。
少しでも乾いた部分を探し求め、寝返りを繰り返す。その度、ベッドはギシギシと耳障りな軋みを上げるが、隣で眠りこけている男が目を覚ます気配は一向にない。50代も半ばを過ぎたであろう中年が、あれだけ激しく腰を振れば、くたびれて熟睡するのも頷ける話だった。
対してわたしは、ほとんどの時間を男に組み敷かれているだけだったから、体力は有り余っている。この後、もう二、三人ほど客をとっても問題ないくらいだ。
(もっとガンガン攻めて疲れた方が、ぐっすり眠れるのかなぁ……)
そんなことを考えて、試しにわたしが相手を押し倒し、主導権を握った性交の様子を想像してみた。恍惚とした表情で男を見下ろし、乳房を揺らしながら上下に動く。吐き出す言葉は殊更に相手の劣情を沸き立たせるもので、受けた相手は歓喜の喘ぎ声を上げる。
フフ、わたしがいいって言うまで、イっちゃダメよ?
ああ、そんなご無体なぁ……。
――ねーよ。
脳裏に浮かび上がった痴女の姿は、わたしが普段、わたし自身に対して抱いているイメージから著しくかけ離れているものだった。ベッド上のわたしは、もっと控え目で萎らしく、されるがまま、と言った感じの女のはずだ。
SかMかと訊ねられたら、まあ、Mと答えるのが正しいと思う。表現を和らげれば、受け身。どちらにしろ、わたしは自分から積極的に攻めていくようなタイプではないのだ。
――そんな取り留めのないことを考えていても、依然として睡魔が襲ってくる兆しはない。今夜はどうも、普段より寝つきが悪いようだった。
どうせ目が覚めているのなら冷たいものでも飲んで頭をスッキリさせようと、身体を起こす。ベッド脇に据えられたサイドテーブルに、水の入ったピッチャーが置いてあるはずだ。
それを手に取り、愕然とする。中身は空っぽだった。
(うぁーー……どうしよ)
補充をしてもらいに厨房へ行くか、諦めるか。十数秒に及ぶダラダラとした思案の末、わたしは前者を選び取った。気だるさを感じないと言えば嘘になるが、それは全身に絡み付くような鬱々としたものではない。
よっしゃ行くぜ、と小さく呟き、わたしはベッドから床に降り立った。
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