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奴隷キャリアプランナーは成功できる職業  作者: Richard Roe
7 勝利までのキャリアプラン
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第二話

 ミーナがふと、俺の机に気が付いたようだった。


「あれは……ガラス瓶と、加熱器具ですか?」


「ああ、ちょっと調薬をしててね」


「調薬ですか!?」


 現在俺がはまっているもの、というと調薬に他ならない。

 調薬。

 様々な材料を元に薬を作ること。

 配合バランス、調薬の課程、それぞれにおいて深い知識が要求される。

 例えば睡眠薬を作るにしても、配合バランスを失敗すれば人を殺す毒になる。

 何をすればどうなるのか。

 そういう詳しい知識がなくては、おいそれと調薬は不可能である。


「……主様って、どんどん色んなことに手を出しますね……」


「まあ、儲かるからな。それに手広く営業相手が欲しい」


 俺が薬を作っている理由は複数ある。

 一つには、病気対策。奴隷が熱を出したり風邪だったりすれば、早期に治したい。

 他の奴隷に風邪や熱が移ってはかなわないからだ。

 もちろん、間に合わないと判断すれば捨てる。

 奴隷商としては、病人は切り捨てる、という判断の方が合理的になるのだ。

 もちろん、なるべくそれは避けたい。利益の観点からも、周囲の奴隷たちの心証を加味しても、あるいは人道的な理由からしてもだ。

 鑑定スキルがあるのだから、初期段階で異変に気付ける。

 そうすれば服用する薬も簡単なものでいい。

 後は体温を高めに保つこと、睡眠を深く取らせること、の二つで大抵は治る。


 一つには、営業。

 俺の作る薬は質がいいらしい。それは当然だろう。

 配合バランスはかなり適切。

 化学変化による薬物の変性を観察できる。

 鑑定スキルにより質の良さを鑑定し、質を揃えられる。

 何ならば、詳細検索により調合の手順のヒントまで貰える。

 これで調合が上手くいかない道理はない。

 結果的に俺は、正しい手順を踏むことにより正しいポーションを量産することに成功していた。

 後はオアシス街の薬師に少し安めに売り卸すのみ。

 当然向こうはこちらと懇意になってくれるというもの。

 こちらも原材料との差額で利益を得るし、向こうもポーションによる利益を得られる。

 こうやって営業先を増やしておく。

 用があればうちの奴隷もよろしくお願いします。

 そう顔繋ぎをすることは、訳ない話だった。


「……あくまで営業の道具なんですか」


「大々的にポーション屋とか薬売りを始めるには、人手も足りないし角が立ちそうだ。何より顧客からの信用がない。……営業展開の視野には入れているけど、今の所は小遣い稼ぎ、という奴だな」


 小遣いというよりは割としっかりした収入源だ。

 だが、様々な困難を思うと本格的に取り組もうと思うほどではない。

 よって今は副業扱いである。

 ユフィに少しだけ教えてはいるが、まだ俺より上手くは調合できないようだ。

 あくまで将来への投資の一つ、ぐらいに考えている。


「もちろんミーナも知りたかったら教えるさ」


「……まあ冒険者ですしね……。暇があったら少しだけ習いましょうかね」


「そうか。薬草の知識とかでいいなら教えよう」


 大凡の汚れは綺麗にした。

 後は毛並みを整えて、軽くマッサージでも施すぐらいか。

 重い荷物をずっと抱えて動き回っていたに違いないミーナは、確かに肩が凝っていた。

 主様って、マッサージ師にもなれるんじゃないですか?

 彼女はそんな軽口を叩いていた。

 俺は苦笑する。

 実は、療法術Lv.1の中にマッサージの技術の補助が入っているのだ。

 いつの間に取っていたのだろうか、と思わなくもない。






◇◇






(人として生まれたからには名を残したくないか。……そういうセリフを奴隷商人様から聞くとは思わなかった)


 皮肉な笑みを浮かべるチッタ。

 今現在、彼女の専らな仕事は人頭奴隷のそれである。

「人材コンサルタント・ミツジ」の仕事。

 それはいわゆる短期契約奴隷業、のようなものだった。

 一瞬だけ人手が欲しい。

 そういう需要は当然どこにでもあるもの。

 例えば、石材を運びたいから人手が欲しい、などだ。

 別に長期的に人手が欲しいわけではない、しかし今これを片づけないと困る。

 そういう需要にあわせて、「人材コンサルタント・ミツジ」は人手を貸し出す。

 売上は、それなりだ。

 他の奴隷商たちも、「人材コンサルタント・ミツジ」に倣って人を貸し出す。

 よってこの店だけが利益を独占する、ということにはならなかった。

 ただ、主人のトシキは不思議な顔の広さがあった。

 営業相手を不思議なつながりで獲得しては、お得意様を増やしている。

 手際がいいというのか、発想が風変わりというのか。

 とにかく、「人材コンサルタント・ミツジ」はそういう短期契約の仕事により悪くない実績を上げていた。


(……とはいえ、名前を残すほど成功した人は居ないんじゃないですかね、商人様)


 チッタは石材を運びながら考えた。

 別に今の待遇は悪くない。

 むしろ今までより大分が改善されている。

 例えば水なんか、主人が水魔法が成長したとのことで、飲む量の制限も緩くなったし、体をこまめに洗ってもいいと許可も出た。

 食事も、稼ぎが良かったらいつもより豪勢なものが振る舞われる。

 テントも一つ増えて、寝るスペースの問題も大分改善された。

 つまり、不満の持ちようはない。

 チッタはそれだけで満足なのだ。

 ただ、考えてしまうだけだ。

 名前を残したくないか。

 あれほど大言壮語を吐いたからには、誰かまず一人、名前を残せるような夢を叶えさせただろうか、と。


(キャリアプラン、とか言ったっけ。……まあ、確実にその一歩を歩ませている、というのは分かるけど)


 例えばカイエンなんかどうだろう。

 チッタは同じ下級奴隷だから、カイエンの出世ぶりが分かってしまった。

 魔物使いの賞金首を討ち取った彼は、ギルド専属冒険者としてそれなりに活躍をしている。

 というより、蚤の市の前後で仕事が舞い込んで忙しかった冒険者ギルドに、体力あり冒険者経験あり戦闘技能ありの都合のいいリザードマンが見つかった、というだけなのだろうが。

 しかしカイエンは結果的に、それなりにいい出世をしているように思われた。

 そういえば新米のルッツもだ。

 主人の都合で、料理ができる奴に肉炒めを作らせたかったらしい。

 それがちょうど都合よくルッツに任された。

 料理がしたくても出来なかったルッツ。それがいざ料理をするとなって、逆に躊躇いを覚えていた。

 それでも作り続けるうちに、初めて自分の手で客に料理を振る舞う、という体験を経た。

 彼は変わったと思う。

 何かの覚悟を決め、主体的に作りたい、と言うようになっていた。

 結果的に彼は、今は「居酒屋森熊」の料理人として働いている。

 話題性もあってか、名前もある程度知れ渡っていることを考えると、ある意味カイエンよりも「名前を残す」意味では成功しているかもしれない。


 名前を残す。

 ふとチッタは思った。

 確かにあの若主人は、それぞれの夢の第一歩を用意している。

 しかし、名前を残すかどうかは結局個人の努力次第、という結論なのだ。


(……ならば、自分の夢も聞いてくれるだろうか。叶えられるかどうかは自分次第、でもそれまでの道筋に相談に乗ってもらえたら)


 石材を倉庫に下ろしながら、チッタは汗を拭った。

 ちょっとした夢。

 それは、男に負けないこと。


(拳闘士。……いいねえ、一度は夢見るものだよ)


 チッタはオアシス街の祭事堂を眺めた。

 単純な理由。

 強いとはどういうことなのだろうか。誉れとはどういうものなのだろうか。

 その答えをチッタは、まだ知らない。

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