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奴隷キャリアプランナーは成功できる職業  作者: Richard Roe
あらすじ説明章 前回までのキャリアプラン
43/117

閑話 あらすじ 前回までのキャリアプラン 前半

 我が奴隷商店、『人材コンサルタント・ミツジ』の朝は早い。


「――さあ、朝だ! 皆もさっさと起きろ! ほら!」


 開口一番、声を張り上げる。

 日が登ると同時に俺の一日は始まる。朝の涼しさと眩しい日差しが、俺を眠りから覚醒させてくれるのだ。


 朝はいい。仕事をさくっと片づけるにも気持ちのいい時間帯だ。それに経験上、朝のスタートの調子が良いとその一日が上手く回る。気分が引き締まるという奴だろうか。


 早起きは三文の得。それは俺の未だに遵守しているモットーでもある。


「……う、眠……」


 まずは一人。眉を顰めさせて妙に辛そうな表情を浮かべながら、その少女はテントから姿を現した。

 ミーナ・セリアンスロープ。獣人族セリアンスロープのワーキャットで、猫っぽい外見をした娘である。

 彼女は『夢見の巫女』という変わった加護を持ち合わせており、実際に時々、夢でお告げを受けることがあるのだという。


「どうした、眠いのか?」


「だって、私夢見の眠り姫ですから……」


「何だそりゃ」


「お早うのちゅーがないと起きれないんですよ……」


「なあ知ってるか? 寝言って寝て言うらしいぜ」


 欠伸をくあ、と上げながらも、相変わらず俺へと積極的なアプローチを仕掛けるミーナ。冗談半分なのか本気なのか、その辺り判別が微妙に付かないこともあって若干扱いに困る。

 その一方で、超ドライな一面がある俺は(キスっていうけど、寝起きの口内は濯がないと汚いだろ)などと女の子に大して割と容赦ないことを考えていたりもする。

 いつもこんな感じなのだ。ミーナが誘って俺が適当にあしらう。たまには彼女の誘いに乗ったりもするが、気分の問題である。


 そんな事を考えていると、彼女は「じゃあ寝まーす」と戻ろうとしていた。

 とりあえずデコピンを食わす。痛っ、とか頭を押さえていたが知ったことではない。

「だって寝言は寝て言わないといけないんですよね!? だったら寝ないといけないんです!」とか言ってたが、それこそ寝言は寝て言えって話である。あれ、ややこしいな、何だこれ。


「……あら、お早う……」


 続く二人目として姿を現したのは、うちの頼れる副店長ヘティであった。

 本名はヘタイラ・ラミアー。魔族のラミアー種である彼女は、下半身が蛇のようになっている。


 ヘティもまたひどく眠そうな様子であった。そういえば蛇は変温動物で、体が暖まらないと眠くなかったっけとどうでも良い知識が頭を過ぎった。


 しかし、しっかり者の彼女にこんな一面があるだなどとは珍しいものである。典型的なデキる女、という感じの綺麗目の顔立ちの彼女が、少し眠そうに目をこする仕草を見せるなんて、ちょっと貴重な光景だ。


「ヘティ、聞いて下さいよ、さっき主様にデコピンされました! やっぱり主様はDV夫ですよ!」


「あら、お早うミーナ。朝から元気ね」


「今夜は寝かせないぜーみたいな肉食な一面もあるし、でも意地悪な部分もあって、でも仕事はバリバリ系、これは間違いなくDVになるパターンです!」


「デコピンとかディーブイとか肉食ってどういう意味なのか分からないのだけれど、でもまあそうなのかもしれないわね」


「て、適当……」


 眠いのか頭が働いていないのか、ヘティはミーナに適当に話を合わせていた。これにはミーナの方が「こんなヘティ初めて見ました……」ときょとんとしているぐらいであった。

 俺もちょっと驚いている。いつものデキる女オーラが、今はすっかり影を潜めているではないか。


「というかDVってなんだよミーナ」


「にゃっ! はにゃ()そうにゃって(そうやって)はにゃを(鼻を)つみゃむとこほ(摘まむところ)です!」


 手を離したら、ふしゃーと警戒された。ふしゃーって何だよ、猫かよ。猫だけど。

 あと、今夜は寝かせないぜー云々て、別に俺そんなこと言った記憶がないのだが。随分と捏造されている気がするのだが。


 とりあえず茶番はさておくことにして、残りの面々を起こしにかかることにする。


「――残念、起きている」


 三人目。ハーピィの女の子、イリは既に起きていた。イーリス・ハルピュイア。緑の髪とアホ毛、翼になっていて手がないその腕、そして断片的なしゃべり方が特徴的な、ちびっ子三人組の一人だ。


「一二歳を、ちびっ子とは、言わない」


「こら、人の心を読むな」


「鳥の朝は、早い」


「スルーかよ、お前本当にマイペースだよな」


「鳥頭?」


「いや違う。鳥頭ってのは言った傍から色々と忘れるような記憶力の弱い様を言うんだ。鶏は三歩歩けば忘れるっていう諺があってだな……」


「鳥の朝は、早い」


「やっぱお前鳥頭だわ」


 イリはいつもこんな感じだ。無口無表情の女の子なのかと思いきや、喋らせると面白いパターンの子である。スケベな話題に食いつくというむっつりな一面、何か深い事を考えていそうな鋭い一面、特に何も考えていなさそうなぼんやりした一面、と意外と個性も強い。無表情の癖に表情が豊かなような気がするのは、そういうところがあるからである。


 そんなイリだが、今は日向ぼっこに興じているらしく「暖かい」とご満悦のようであった。目を閉じて「暖かいのは、好き」とか言ってたので「そうか」と適当に話だけ合わせておいた。


「……うるさいわね」


 そんな時、不機嫌な声が背後から聞こえてきた。四人目は我らが不機嫌姫、ユフィである。

 ユーフェミア・スコヴフォルク。彼女を端的に言い表すならば、不遜系銀髪エルフな傲慢ちゃん、である。


 潔癖な一面がある彼女は、例えばテントの掃除を申しつけると涙目になるぐらい嫌がったりする。この前ドジなネルに雑巾の水を飛ばされて「ひぃ!」とか言ってたっけ。


 今、彼女が不機嫌な理由は、朝早くに叩き起こされたからだと思われた。というかそれしか思い当たらなかった。


「アンタたち、朝早くに騒ぐと近隣迷惑になるわ。分かってる?」と苦言を呈してきたので、一応俺が受け答えることにした。


「大丈夫さ。ここはオアシス街とスラム街の境目、近隣住民の数は少ない。それに騒がしいという程には騒いでないつもりさ」


「……万が一、面倒な人間に目を付けられたらどうするつもりなのよ」


「その時こそ、うちに控えている奴隷たちの出番さ。三〇人単位の人間が槍稽古とかで鍛えているし、荒事だったら何とでもなるさ」


「雑な思考ね」


 ばさばさ、と野鳥たちが飛んでいく音が聞こえた。どこかのゴミでも漁ってたのかもしれない。

 この街『オアシス街』のはずれの部分、通称『スラム街』にはよくある光景だ。

 廃墟と岩。疎らにある露店とテント。浮浪者、野鳥、そしてゴミ。

『スラム街』エリアは、この街のはずれにあるだけあって、怪しい雰囲気に満ちている。


「まあ、アンタの言うとおり今まで問題はなかったかもしれないけど、これからはそうは行かないかも知れないわ」


 腕組みをしながら語るユフィ。

 彼女はいつも、全く楽しくなさそうというか、妙に言葉が尖っているというか、そんな感じなのである。

 気難しい年頃、という奴だろうか。


「……皆さん、お早うございます……」


 そんなタイミングで、ようやく五人目のネルのお出ましであった。ネリーネ・スィレネ。魔族セイレーンの娘であり、青く透明感のある髪を持つ。

「うぅ、眠いです……」とぼんやりした顔をしているところを見ると、ネルは本当に朝に弱いらしい。おっとりした彼女らしいといえば彼女らしい。


「何のお話でしょうか……? お魚……?」


「……ネル、アンタね、誰もお魚の話なんてしてないわよ」


「でもユフィ、お魚はそうは行かないかも知れないわ、って言いませんでした……?」


「これからは、よ……」


 寝起き早々、早速の天然ボケを発揮していた。これには流石のユフィも「お魚って何よ……」と呆れかえっていた。ネルは眠かろうが起きていようが平常運転らしい。つまり天然ちゃんである。

 そのタイミングで「え、あ! ご、ごめんなさい、ご主人様!」とようやく俺に気付いてかなり狼狽えていた。


「お早うございますを忘れてました! ごめんなさい!」


 遅れたことに対する謝罪じゃなかった。挨拶かよ。

 だが、「うん、お早う」と挨拶したら「はい、お早うございます!」とにこにこ言われてしまったので、何だか注意する気も失せてしまった。

 何というか、この子は注意しても仕方がないタイプなのだろう。無意味というか、その、何だろう。


「で、お魚でしたっけ?」


「違う」


 お魚から離れろよ。


「え! そ、それは、ご、ごめんなさい!」


 あと妙にネガティブでよく謝る。恐がりなのかもしれない。何故か俺を恐れているみたいだし。何故だろうか。


 そんなこんなしていると、他の奴隷たちも続々と起きてきたので、そろそろいいタイミングだと俺は思った。


「さあ連絡だ!」


 と、手を叩きつつ注目を集めておく。


(後はルッツだが……まあ彼には朝の肉の仕入れを頼んだからここにはいないとして……)


 本来ならここには後一人、ルッツというオークの子供がいるのだが、彼には肉の仕入れを頼んでいるのでここにはいない。

 肉、というのは、肉炒め販売のための食材である。


 そう、今回弊店『人材コンサルタント・ミツジ』は、肉炒めを販売して一儲けすることを目論んでいるのだ。




「――諸君! これから一週間、忙しくなるとは思うが気を引き締めていこう! オアシス街のみならず外の街からも客がくる! それはつまり、外部の客に当店の独自性と特殊性をアピールするまたとない機会でもあるということだ! 抜かるな!」


 そう、一儲けというのも。


「――何故なら今日からは、『蚤の市』だ!」


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