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奴隷キャリアプランナーは成功できる職業  作者: Richard Roe
4 三つ星までのキャリアプラン
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第二話

 ちょっとした時間の空きが出来た俺は、槍稽古に参加するのもいいと思ったが、どうせなら奴隷商ミロワールのところに向かって奴隷を仕入れようかと考えた。


(ミロワール。刻印師でありながら奴隷商人でもある不思議な女だ。俺も刻印師になれるようにスキルを鍛えたい物なのだが、果たしてどうすればいいか)


 オアシス街を渡り歩いて、ミロワールの店へと到着する。小綺麗な店の外装を見て、俺の店ももう少し綺麗にしようかな、なんてことを考えた。


「いらっしゃいませ。トシキ様ですね」


 ゆっくりと頭を下げるのは、奴隷商人ミロワール本人だ。彼女の美徳は礼儀正しく、あと動きが優雅であることだ。


「こんにちはミロワールさん。今日もまた適当に奴隷を見繕いに来ました」


「畏まりました。奥へどうぞ」


 そろそろもうお馴染みの展開だ。奥のテントに案内してもらうのもこれで何回目になるだろうか。

 どうせならテントまで向かう間を世間話で潰す。


「いやあ、そろそろ蚤の市の季節ですね。私たち商人にとってみれば大きな取引の機会です」


「ええ。遠方から貴族の方々が来られることもあって、私としましても普段より身構えて商売をする必要がございます」


「そうですね、貴族の人たちも普段は中々こちらに足を運ばないので、こういう機会にでも顔を知ってもらい、あわよくばお得意様になって頂かなくてはと思いますよ」


「ええ。私もそう思います」


 ここで飛び出た「蚤の市」という単語については、また追々述べることとしよう。

 それよりも、かねてより気になっていることを、今ここで聞こうと俺は考えていた。


「ミロワールさん」


「いかがしました?」


「奴隷にも能力の差というものがありますね。それも鑑定スキルで読み解くことができる『能力値』という意味ではない、別の差です」


「別の差、ですか?」


「はい。我々はそれを加護と呼んでいますが……。何故あれは鑑定できないのでしょうね」


 彼女に尋ねながら鑑定。反応を見るに、彼女も鑑定スキルで加護・スキル欄を覗くことが出来ない人間であると判明した。俺の発言に対して心理グラフが疑問を呈するような動きをしていなかった、ということはつまり俺の発言に対して何も怪しまなかったということだ。

 取りあえずの鎌掛けって奴だ。だってミーナが巫女であることを見抜いた人間の可能性が高いんだぜ、こいつ。ちょっと試そうって気持ちになるだろう?


「……。それが見えるとなれば、さぞ便利でしょう・・・・・・ね。トシキ様」


 否、正確に言うと彼女の心理グラフの動きは怪しむ人間のそれであった。

『鑑定スキルで加護・スキル欄を覗くことが出来ない』という発言、それ自体はおかしくはなかったのだろう。しかし『俺が』その発言をしたことについては怪しいと思ったようであった。今の尋ね方は、まるで俺が『見えている』と知っているかのような聞き方だった。

 おや、変に怪しまれては困る。こういう時は疑い返すと切り抜けられることが多い。


「変だと思いませんか? 物事の真実を鑑定するというのがこのスキルならば、普通、他人の加護について覗き見ることが出来てもおかしくはないはずです」


「なるほど、そうお考えになられましたか。確かにそうですね。しかしこのような仕組みになっておりますのは、人々へ鑑定の加護を与えてくださる財宝神様に、何かお考えあってのことなのでしょう」


「ええ、ミロワールさん。ですがこの世の中には変な人もいて、『巫女』だと見抜ける人間がいるそうなのです」


 ほら。こうやって疑い返すといいのだ。

 俺の見立てではミロワールには、少なくともミーナが巫女であることを見抜くことができる能力があると睨んでいる。

 実を言うと、彼女ミロワールも同じ巫女なのだ。先ほどから【固有加護:導きの巫女】と書かれている表記が目についてならない。俺の予想では、彼女の巫女としての特殊能力が、ミーナが巫女であることを見抜いたものだと推察している。


 ミロワールの沈黙は、ある意味では雄弁な答えであった。少なくとも彼女は何らかの能力を持っていることがこれで分かってしまった。


「……。トシキ殿でしょう?」


「何がでしょうか?」


「見抜ける人間です。『夢見の巫女がいる』というお話をギルドに持ちかけたのは、他ならないトシキ様です」


「まさか。……と答えたいところですがその通りです。こう見えて口が上手いので、あの子が巫女なのだという情報をあの子本人から引き出させていただきましたとも。見抜く能力、ではないのですが、まあこれもまた一種の能力と言えなくはないでしょう」


「確かにお上手ですね。……ですが、私が申しましたのは『目』のことです」


「ああ、はい。もちろん。『目』には自信がありまして。鑑定スキルもありますが、実は人の嘘を見抜くのも得意でして。スラム街で育ったせいか、人の顔色を伺うのが上手になりましてね」


「……。お上手ですね」


「まさか。貴女には敵いませんね。私から見ればミロワールさんこそ、人のことを何でも見透かせてしまいそうな人間です。それこそ加護さえも」


 悪いが、腹芸は嫌いじゃない。もう少しお付き合い願おう。


「……。差し出がましいことかもしれませんが、申し上げます」


「実は私からも一つ。お先にどうぞ」俺からは特にないが、こう挟んでおく。


「……。何故我々が『夢見の巫女』の話を信じたのかと申し上げますと、貴方がお話を持ちかけたからです」


「私が、ですか?」


「はい。普通の小間使いであれば取り合わないところですが、貴方だからこそ信憑性が高いと考えたのです」


「……光栄ですね。私のようにこましゃくれた子供だから、もしかすれば、という気持ちにさせたのかもしれませんね」


「貴方は何か他の人にないものをお持ちになっている、と思ったのですよ」


 なるほど。あくまで『他の人にはない運命的な何かを感じ取った』という言い回しに留めている。そしてその実『他の人とは違う能力を持っているのだろう』と示唆するような言い回しにも取れる。

 向こうも向こうで腹芸はお手のものということだろう。


「……。ところでトシキ様。貴方からお一つあるとのことですが、何でございましょう?」


「ああ。はい、確かにございます」まあ実はあるんだけど。割とどっちでもよかったりする。


「お伺いしましょうか」


「マレビトだから、ですか?」


 昔アリオシュ翁が俺に言った「マレビト」という言葉がやけに記憶に残っている。何となく意味深に感じたという勘でしかないが、絶対に重要な単語だと思うのだ。


「……お察しの通りです」


 ああ、なるほど。


「……。この話はなかったことにしましょう。私、実は察しが悪いんですよ」


「左様ですか。分かりました。実は私も最近物覚えが悪いもので、困っております」


 引き際もまた重要である、と俺は思う。

 ミロワールの心理グラフの動きを信じるならば、マレビトだから信じた、という質問はイエスであった。『ミーナが巫女だ』という突拍子もない発言でも、マレビトという存在がそう口にしているのであればやけに説得力がある、ということらしい。

『マレビトだから、ですか?』と俺は聞いた。主語と述語をあえて抜いて、「俺がマレビトだから信じたのですか?」という質問から遠ざけた。これが限度一杯だと思う。『誰が』マレビトだから『何をした』のかは、不明瞭なままである。ミロワールは何も言ってないに等しいし、俺は何も聞いてないに等しい。

 腹芸とはこういうものだ。


「ところでトシキ様は、次の蚤の市に奴隷を仕入れられる予定でございますでしょうか」


「ええ、オアシス街にやってくる大量の奴隷商隊から欲しい奴隷を適当に見繕って拾う予定です。何、私みたいな未熟者にとっては目を鍛えるいい経験になると思いますよ」


「まさか、トシキ様は大変審美眼があると思います。私では到底かないません」


「ご謙遜を」


 だなどと特筆すべきこともない会話を続けて、奥のテントにつく。

 ちなみにミロワールの「審美眼がある」発言は本心からの言葉のようだ。イリを買ったときだろうか、それともその後もちょくちょくここに奴隷を仕入れに来ているからだろうか、とにかくミロワールは俺の奴隷の選別を隣で見ているわけだが、ステータスの多い少ないで決めない(スキルで決めている)俺の選別方法に何かを感じているようだった。


「こちらです」


「ありがとうございます」


 軽く頭を下げてからテントへと足を踏み入れる。

 今回は本当に適当に見繕いに来ただけなので、特に格安奴隷とかそういう制限もない。色々と奴隷を観察しつつ、適当に目星をつけて練り歩く。

 そう言えばあのダヤンという奴隷は育てると伸びるだろうな、と思ったので買おうかと考えていると、目に何かが飛び込んできた。


(ん?)


 ふと目に付いたのは魔族の人頭奴隷の一角。魔族と言えば普人族から忌み嫌われているためか最も人気がなく、同時にペットや使い捨て奴隷としてなら使い出もあるとして盛んに取引される種族でもある。


 そう、魔族とは有り体に言えば、本当の奴隷、というやつだ。


 もしもこの世の階級制度をざっくり説明するならこうだ。

 普人族と精人族、龍人族が最高カーストに位置し、次に獣人族や蛇人族などの亜人族が当てはまる。

 亜人のカーストは微妙に定まり切っておらず、見た目が人に近いか近くないか、端正か端正でないか、で扱いが決められている一面がある。ヘティやミーナになると見た目が良いためカースト的にも上位になるだろう。

 そして最後、魔族はかなり下に位置する。


 魔族の扱いが低い理由は、魔族が人に刃向かった種族である、という言葉に尽きる。人に仇なして刃向かうものを魔物、そうでなく人に迎合したものを魔族、として一応区別してはいるものの、もはや一般市民からみれば魔族は魔物のようなものだ、というわけだ。


 どうして俺がそんな魔物扱いされる魔族に対して目を付けたかというと。


(料理Lv.0? そして、美食神の加護……)


 魔族にしては風変わりなスキルと加護を持っているから、である。


 --------------------------------------------------

 名前:ルッツ・オーク(奴隷)

 年齢:11歳

 レベル:2

 HP:15 MP:4

 筋力:3

 俊敏:2

 魔力:1

 耐久:3

 固有加護:御饌津神みけつかみの加護

 特殊技能:料理Lv.0

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 オーク族のルッツ。加護持ちとはいきなり大当たりを引いたかもしれない。

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