表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷キャリアプランナーは成功できる職業  作者: Richard Roe
3 諦めた夢までのキャリアプラン
21/117

第十一話

(サバクダイオウグモが見えない)


 蜘蛛たちの襲撃をいなしながら、カイエンは心に焦りを覚えていた。

 この子供蜘蛛たちの襲撃はどう考えても魔物使いジャジーラの仕業だ。ならば、当然サバクダイオウグモが控えているはずなのだが。


 影もないサバクダイオウグモに、カイエンは嫌な予感を募らせた。今から遅れてこのオアシスに奇襲をかけてくるのか。それともサバクダイオウグモはここには居ないのか。

 考えても分かることではないが、しかしどうしてもカイエンにはある思い付きが脳裏を離れなかった。討伐隊がここで足止めを食っている今、もしあのオアシス街にサバクダイオウグモをけしかけることに成功すれば被害は大きくなるだろう、と。


「カイエン! 魔物使いです!」


 ミーナの鋭い声に、カイエンは気をはっとさせられた。


 見れば、ギルド専属冒険者が何者かと交戦している。

 砂漠虎に乗りながら蜘蛛に指示を出すフードの男に、カイエンは直感した。


 あれこそ魔物使いジャジーラだと。


(ようやく出会えた!)


 カイエンは逸る気持ちを抑え、たいまつをジャジーラに投げ込んだ。

 接近戦は奇襲と同時に行う。そのためにはまず火の灯りで目を眩ませるのがいい――。


 飛んできたたいまつに驚いた砂漠虎とジャジーラに、カイエンは即座に駆け寄った。

 隙を狙い、まずは砂漠虎の目を片方潰す。しならせた体で渾身の一撃を突き入れると、生暖かい感触が手に広がった。


(上手く行った!)


 吠える砂漠虎。

 仰け反る隙にもう一本の短刀を握る。目に突き立てた剣は抜かない。そんな暇などない。


 代わりに、砂漠虎の鼻に強烈な蹴りを見舞ってやる。衝撃余って砂漠虎は、体を激しく動かしてのた打ちまわった。


 勢いで砂漠虎に乗っていたジャジーラが振り落とされた。

 絶好の隙。カイエンは短剣で彼に切りかかった。


 しかし、辛うじてジャジーラは、小型のダガーで受け止めた。


「お前は……まさかあの時のリザードマンか!」


 魔物使いジャジーラから声がした。


 ようやく気付いたか、とカイエンは思った。きっとあのフードの奥には、カイエンの知っている、あの時のマリエールの護衛の兵士の一人の顔があるはずだ。


「はっ!」


 文字通り横槍が入った。ギルド専属冒険者が槍で、ジャジーラを突き刺したのだ。

 いや、突き刺さってはいない。帷子だか鎧だかに防がれ、結局ジャジーラは吹き飛ばされただけだった。


 急いで立ち上がるジャジーラ。構図は二対一、圧倒的に優位のまま。

 カイエンは、短剣で切り込む一瞬に備えて、気を研ぎ澄ませた。






 ◇◇






 俺は夜の闇を走っていた。マルクの小間使い時代に夜警で鍛えた気配察知スキルと鑑定スキルのおかげで、この暗闇でも障害物を正確に把握しながら人の気配がするかどうかまで正確に察知出来る。

 加えて、あまり音を立てないように行動することを心がけていると、【猫の歩行法】だとかいう表示が鑑定スキルのポップアップに表示され、隠密スキルの経験値がどんどんと溜まっていった。なるほど、猫の歩行法とやらは隠密スキルの技術なのだろう。


 流石にオアシス街も、当のサバクダイオウグモが襲ったとされる東部に近付くにつれて騒がしくなっている。先ほどから逃げまどう人たちと行き交ってばかりだ。

 俺はその流れに逆らって、東の木材倉庫に向けて急いでいた。


 いざとなったらガラナの木を燃やし、カフェインを含んだその煙でクモの感覚器官を酔っ払わせる――そうアリオシュ翁は言っていたが、何故か現在東部からは煙が上がっていない。

 恐らくいきなり現れたサバクダイオウグモへの対処でそれどころじゃないのだろう。もしくは木材倉庫のガラナの木に火を放つことが有効であると通達されている者が今動けない状態にあるのだろうか。


(どちらでも構わない。俺の店まで来なければ問題はない。だがこのまま放置してギルドの冒険者に全て任せるのも安全とは限らない)


 木材倉庫は複数あるが、オアシス街東部に最も近い木材倉庫ならあの場所にしかない、とおおよその辺りを付けてその場所目掛けて走る。連日の水運びでスタミナが付いたことはもちろん、複数の武器スキルや格闘スキルが俺の基礎身体能力を引き上げている。


「ここから倉庫まで20分、往復で40分だ。40分経って俺が帰ってこなかったら、ギルドに助けを呼んで欲しい。内容は、東部木材倉庫にて盗賊あり、だ」


 念のためこう奴隷たちに言伝てをしたので、俺が万が一何者かと交戦することになったとしても大丈夫である。とはいえ油断するつもりはない。


「無茶よ! 一緒に避難しましょう。そんな危険なことをする必要はないわ」


 ヘティは確かこんな台詞で俺を引きとめようとしていた。やはり彼女は色々と気が回るし面倒見のいい人だ。だが俺はそんな彼女を宥めるように言い含めた。


「必要はないが、でも誰も木材倉庫に火を放っていないのは異常事態なんだ。何、俺はこうみえてそこそこ戦える。それに隠密行動は意外と得意なんだ」


「それでもよ。異常事態なら尚更そんなことに首を突っ込むべきじゃないわ」


「正論だよ。でもな、俺はカイエンがジャジーラを必ず討ちとってくれる、とまでは無条件に信じない。その場合はカイエンを犯罪奴隷から解放して一般の冒険者に引き戻させる正当な活躍(司法取引材料)がないんだ。何らかの手柄が欲しいんだ」


「……。危険だわ」


 尚も言うヘティであったが、俺は「大丈夫さ。少なくともギルドから増援を呼んでくれたら、40分ぐらい俺はなんとか凌げるからさ、大事には至らないとも」と半分強引に話を切り上げさせたのだった。

 もしかしたら後で何か言われるかもな、と俺は思った。


 程なくして、俺は予想以上に速い時間で問題の木材倉庫に到着したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読者の皆様の暖かいご支援が筆者のモチベーションとなっております。皆様に心より厚くお礼申し上げます。
勝手にランキング:気が向いたときにクリックお願いします

▼別作品▼
鑑定スキルで人の適性を見抜いて育てる、ヒューマンドラマ
数理科学の知識を活用(悪用?)して、魔術界にドタバタ革命を起こす、SF&迷宮探索&学園もの
金貨5000兆枚でぶん殴る、内政(脳筋)なゲーム世界のやり直し物語
誰も憧れない【器用の英雄】が、器用さで立ち回る冒険物語
付与術師がレベル下げの抜け道に気付いて、外れスキル大量獲得!? 王道なろう系冒険物語
房中術で女をとりこにする、ちょっとあれな冒険物語

作者のtwitterは、こちら
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ