ハンマークラヴィーアは憂鬱
「ああもう、皆死ねば良いのよ」
いつもと何ら変わらぬ朝の風景の中、不穏な言葉を吐きながら歩く少女が一人。
彼女はとても苛立っていた。というのも昨夜降り注いだ大量の発光体が喧しい羽音をたてながら部屋に吊るしてあった弦の大半をぶった切ってしまったからだ。
それだけならまだ良い、しかし奴等はもっと重大な事をしでかして行った。
あろう事か仲間とおぼしき生き物を呼んで来たのだ。最早足元は奴らの死骸で埋め尽くされており、道を歩けば生き残ったものも踏み潰されまた新たな死骸が生まれる。彼女の苛立ちが募るのも当然だ。
「全くもう、何が何だか解らないわ。あなたもそう思うでしょう?」
彼女は空中に浮かぶ架空の友人に向かって愚痴をこぼすがいかんせん架空なのでそんな奴は存在しない。
しかし、そんな事は問題ではない。彼女はただただ苛立っていたのだ。
「あぁ畜生、一体どうしろと言うの?」
腹立ち紛れに目の前を通りかかった文字列を取っ捕まえ滅茶苦茶に引きちぎって道端に棄てたのはつい先刻の事。
恐らく奴等は今もどうにか元に戻ろうと必死だろう。ざまぁみろ、これまで散々手間取らせた報いだと心中で呟く。
だがしかし、言語秩序の末端を破壊した所でこの苛立ちが収まろうはずもない。何故ならこの苛立ちは始めから収まらないものとして存在するからだ。
その結論にたどり着いた時彼女の心には必然として生まれ出た理不尽に対する何とも言えない感覚が湧いていた。
そしてその感覚を振り払おうと歩き続け、どう見ても明らかに不自然に繋がった道の向こうへ踏み出したその時、目の前が真っ白になるほどの閃光が降り注ぐ。
「えぇそうよ、こうなる事は解りきっていたもの。」
「そうとも限らないわ、認識は常に不確かで曖昧なものよ」
呟きながら薄れていく世界の中で彼女は確かに己の声を聞いたという。
それから暫く後、ふと目を開けると彼女は自宅のベッドの上にいた。
慌てて周りを見回しまずは吊っておいた弦が無事であることを確認する。
念のためにと扉を開け、家の前を注意深く見回す。
やがて得体の知れないものが転がっていない事を確かめると彼女は空を睨み誰にともなく呟く。
「…ああ、なんて事。もう滅茶苦茶じゃない、最悪よ」
「そうかしら。結構居心地のいいものじゃない?私達にとっては。ねぇ?」
微かな笑い声とともに自分にとても良く似た声が答えたのは、彼女しか知らない秘密。




